国際宇宙ステーションにアルコールを持ち込む宇宙飛行士

 宇宙ではアルコールは禁止されている。とはいえ、とくにウォッカが燃料ともいわれているロシア人にとってそれはかなり過酷なことだ。

 大胆不敵なロシアの元宇宙飛行士たちは、国際宇宙ステーションににこっそりとお酒を持ち込んでいたことを白状している。

 彼らの話によると、"ジュース"というラベルが貼られたビンにコニャックを入れて、宇宙服の裏ポケットや本をくりぬいた空洞に隠したり、リストバンド型血圧計に忍ばせたり、打ち上げ前に自らの体重を減らして、重量オーバーにならないようして持ち込んだ飛行士もいたそうだ。

―あわせて読みたい―

まもなく国際宇宙ステーションに大量の人間の精子が到着。無重力空間での能力が試される(NASA研究)
国際宇宙ステーションで潜在的に危険な細菌が発見される
国際宇宙ステーション内が細菌の宝庫となっている件
NASAが国際宇宙ステーションの商用利用を許可。民間人の「宇宙旅行」が実現可能に。宿泊費用は一泊380万円ほど
細菌が宇宙空間で1年間生き延びた!ただし全身にイボができた(国際宇宙ステーション きぼう実験棟)

公式には国際宇宙ステーションではアルコール禁止

 公式には、国際宇宙ステーションISS)でのアルコールは禁止されている。アルコールの主成分であるエタノールの揮発性物質が、ステーション内の精密機器にダメージを与える可能性があるからだ。さらに、トイレにも問題が出てくる場合がある。

アルコールやその他の揮発性物質の使用は、ステーションの水回収システムに影響を与える可能性があるために、ISSでは制限されているのです」2017年NASAの広報は語る。

 マウスウォッシュ、手の除菌ローション、香水のようなアルコールを含む製品も禁止されているという。

1_e41

水を飲むISSNASAクルー

ロシアの宇宙飛行士たちが宇宙ステーションにお酒を持ち込んだ手口


 しかし、宇宙は必ずしもアルコールゼロだったわけではない。

「とくに宇宙開発時代の初期には、長期にわたる宇宙でのミッションでは、宇宙飛行士の配給の中にアルコールがあったのです」2010年に語ったのは、元宇宙飛行士のアレクサンドル・ラズトキン。

 ラズトキンによると、免疫機能を活性化させ、体全体を健全に保つとして、実際に医師がコニャックを推奨したのだという。

 だが結局、ロシア宇宙開発企業ロスコスモスアルコールを禁じた。そのため、宇宙飛行士たちは、頭をひねって苦肉の策を考え出すしかなかった。

 元宇宙飛行士のイゴール・ボルクは、仲間たちとミールの前身であるサリュート7号に乗り込む前に、体重を落として、宇宙服の裏ポケットに見つからないようこっそりとアルコールを忍ばせたと語っている。

搭乗の1週間前、私たちはパンとお茶以外なにも口にせずに、およそ2キロ体重を減らしました。そして、小さなセロハンの袋の中に酒を入れて、宇宙服を着るときにその袋も一緒に忍ばせました

 また、ボルクは本の中身をくりぬいて、その空洞の中にコニャックのビンを隠したこともあると白状した。

厚い本のページを取り除いて、その中にビンを隠しました。1.5リットルぐらいのビンにちょうどよかった。大事なのは、液体がゴボゴボする音がしないようにすることでした

2_e39

ISSで水を飲む宇宙飛行士のサマンサ・クリストフォレッティ

ロシアの宇宙ステーションにはアルコールの隠し場所が


 サリュートの元宇宙飛行士、ゲオルギー・グレチコは、飛行士たちの筋肉が衰えないようにするための特別なエクササイズスーツのひとつに、425グラムのアルコールが入った容器を見つけたことを思い出す。

 ヴァレリー・リミンは、ミッションの前にアルメニアコニャックのボトル12本分を栓のできるプラスチック袋に入れ、フライスーツの中に隠したことを明かした。

 宇宙でアルコールを一滴でも飲むと、気分が穏やかになり緊張がほぐれるという。

 地上と違って、アルコールのおかげで寝つきも寝ざめも良く、元気に翌日を迎えられるという。

「少量ならば、宇宙でもアルコールを認めるべきだと思う。鎮静剤としても役にたつから」とリミンは言う

 ロシアの宇宙ステーションでは、さまざまな場所がアルコールの隠し場所になっているという。

 ロスコスモスの職員、ヴャチェスラフ・ロゴジニコフによると、宇宙飛行士のほぼ全員が、なんとかして宇宙ステーションアルコールを持ち込もうしていたという。

アルコールは厳格に禁止されていたはずなのですが、あちこちから出てきます。どこから持ち込まれたものなのかはわかりません

宇宙のアルコール』の著者クリス・カーベリーは、ロスコスモスはこのような"密輸"に実質的に目をつぶっていたと言う。

3_e29

ヴァレリー・リミン(一番左)は、アルコール持ち込み賛成派だ

「宇宙軌道では、宇宙飛行士たちは極めて不安定な精神状態になります」ロシア保健省の職員は言う。「眠る前に、5~7グラム(スプーン4分の1程度)のコニャックを飲むのは、いいと思います」

 NASAの宇宙飛行士も、ロシアの同僚たちに賛同して、喜んでこのちびちび飲みに加わったと言われている。

NASAISSにはアルコールは一切なかったと言うでしょう」宇宙飛行士のクレイトンアンダーソンは語る。「5ヶ月間、ISSに住んだことのある人間として、私はそれは嘘だと言えますね」

 当局は、ミールの宇宙飛行士たちの1997年のコニャックパーティ写真を、NBCニュースが公開するのを阻止しようとしたが、失敗に終わった。

 その写真は、ラズトキンや仲間たちが隠し持ってきたアルコールを飲んでいるところで、NASAの宇宙飛行士ジェリー・リネンジャーが撮影したものだそうだ。リネンジャーは、一緒に飲むのは断ったと言ってはいるが。

宇宙開発時代にはアルコールはそれほど規制されていなかった

 宇宙開発時代が始まった頃、アルコール制限はそれほど厳しくなかったようだ。

 マーキュリー計画の宇宙飛行士ウォルター・シラーは、自伝『シラーの宇宙』の中で、ほかの宇宙飛行士たちが、タバコやカティサークの小瓶を打ち上げ前に持ち込んでいたと書いている。

 アポロ8号の船長、フランク・ボーマンによれば、仲間のクルー1968年ミッション前に、クリスマス用の食材の中にブランデーを入れていたという。

「私には笑えませんでしたね。もし、ブランデーを1滴でも飲んで、帰還する途中で爆発でも起こったら、それはブランデーのせいにされるでしょうからね」ボーマンは、1999年インタビューで語っている。

 バズ・オルドリンは、ニール・アームストロングと共に成功した1969年の記念すべき月面着陸のとき、着陸船の中で晩餐会を催した。

「私は、あらかじめ渡されていた教会の聖杯にワインを注ぎました。地球の6分の1しかない月の重力の中では、ワインゆっくりと丸まって、優雅にカップの脇をカーブして上がっていきました。月で初めて液体が注がれ、食べ物が食べられたと思うと感慨深かったですね」オルドリンは1970年に語っている。

 オルドリンは半ばNASA公認でアポロ11号ワインを持ち込んだが、この晩餐会のことが地上管制に伝えられることはなかったという。

 1973年NASAスカイラブを打ち上げたとき、メニューの中にシェリーが入れられた。しかし、この酒精強化ワインの香りがクルーたちに吐き気をもよおさせたとBBCが報道したため、世間は宇宙飛行士たちが宇宙で酔っぱらうのに難色を示した。

 それ以来、NASAは宇宙でのアルコールを禁止したが、あくまでも"公的"にだ。

 スカイラブの元宇宙飛行士エドワード・G・ギブソンは、純粋な宇宙がアルコールで汚されたら、人々は怒るだろうと、1972年に語っている。

 とはいえ、全世界の人が宇宙でのアルコールの禁止を支持するかどうかはわからない。

00

iStock

一方ロシア以外の宇宙飛行士たちは?


 2017年イギリスの宇宙局教育長のジェレミー・カーティスは、アルコール類は宇宙飛行士たちが携帯を許されるごちそうのひとつだとしている。

 NASAは、宇宙でのビール醸造を試みたことがあるが、宇宙ステーションでバドワイザーを飲むには、少々問題があった。

 重力がないと、泡は胃の中に普通におさまらず、しゃっくりやゲップが出て、胃がむかつくことがあるという。

 2011年には、ウィスキーが宇宙ステーションに送られ、微小重力状態が熟成プロセスにどのような影響を与えるを調べた。NASAによると、宇宙環境がプロセスで使用される木材チップに微妙に影響を与え、香りと味に顕著な違いが出たという。

 というわけで、ウィスキーは宇宙ステーションでは飲まれなかった。少なくとも、公式にはということだが。

NASAは、危険だとか、税金の無駄遣いだと世間に思われることをひどく怖れたのだと
思います」カーベリーは言っている。「もともとアルコールを目の敵にしている人も多
いですから」

 宇宙飛行士は、ミッションの前12時間はアルコールを飲んではいけないことになっているが、2007年NASAの飛行士医療制度見当委員会によると、スペースシャトルに乗り込む準備をしている飛行士は、打ち上げ前にかなり飲むことが知られていたという。

 議会公聴会で委員会は、打ち上げ前に宇宙飛行士がかなり酔っぱらっていて、仲間の飛行士や医療スタッフがその任務遂行能力に不安を覚えたという、ふたつの例をあげた。

 両方のケースとも、その宇宙飛行士たちはいまだに飛行を許可されている。

 NASAのコンサルタントリチャード・ベレンゼンは、これはぞっとするどころではない問題だとしている。

「彼らがやろうとしていることを成し遂げるには、物事を限界まで極め、これまで誰もやったことのないことをしなくてはなりません。もし、宇宙の彼方で、十代の若者のような無責任な行動をとったら、大変なことになるでしょう」

 宇宙飛行士たちは、任務遂行のために剃刀のように鋭い感覚を要求されることもあるが、専門家は、無重力で酒を飲むことが、それに大きく影響するとは考えていない。

 連邦航空局(FAA)の研究では、宇宙飛行士がウォッカを飲んでも、高度3800メートルでも地上でも、そのパフォーマンス能力は変わらないという結果が出たという。

References:Russian astronauts smuggled alcohol on orbiting stations by carrying bottles in hollowed-out books and losing weight to sneak containers inside their suits in a bid to workaround the ban on booze in space/ written by konohazuku / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52297892.html
 

こちらもオススメ!

―知るの紹介記事―

シャカイハタオリが建築した巨大な巣は、様々な種の居候が住み着いている件
愛の大きさがウサギの大きさを越えた! 巨大ウサギへの愛が止まらない夫婦(イギリス)
あなたを傷つけた誰かを許すために謝罪を待つ必要はない。自分のために囚われた心を開放させることが先決
消息不明の幽霊船、数十年も海をさまよう蒸気貨物船「ベイチモ号」の謎
人の命を救った10の勇敢な猫たちの物語

―自然・廃墟・宇宙についての記事―

消息不明の幽霊船、数十年も海をさまよう蒸気貨物船「ベイチモ号」の謎
えっ?それがそれなの?思わず二度見する目を疑うような14の光景
15億以上の使い捨てマスクが海に流れ込むと推測され、海洋汚染が懸念される
2020年最後の満月がやってくる!12月30日はコールドムーン、来年に向けて希望の光をもらおう
2020年に深海で発見された驚くべき7つのもの。奇妙な生物から巨大氷河の底まで続々登場
本当は飲酒禁止。様々な方法で宇宙ステーションにアルコールを"密輸"したロシアの宇宙飛行士たち