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発表から13年 進化を続けるGT-R

text:Matt Prior(マット・プライヤー)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
やっと英国にも届いた。2019年の半ばに発表され、英国では2021年から手に入るようになる、2020年仕様の日産GT-R ニスモだ。R35と呼ばれる現行型のGT-Rにとっては、そろそろ最後のアップデートに近づいてきたようだ。

日産は、GT-Rの改良を毎年のように繰り返している。徐々にライバルも進化していく状況だから、当然とはいえる。

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日産GT-R ニスモ(英国仕様)

日産の技術者は改良を施せる部分を見つけ出し、調整を加え、進化させ続ける必要がある。発表から13年が経過するが、まだ成長しろは残されていたようだ。

GT-Rのさらにハードコアな仕様、ニスモが登場したのは2015年。その後にフェイスリフトを受け、ニスモは2017年にもアップグレードが施されている。2020年仕様は、それに続く進化版となる。

大きな2+2のクーペということに変わりはない。複雑な四輪駆動のメカニズムを搭載していることも、発表当時と同様。しかし、ニスモ技術者が施した改良のハイライトは、そこにある。マニアックではあるのだが。

ダンロップ製の純正タイヤ、スポーツマックスは、フロント側で溝が1本減らされたという。接地する部分のゴムの量は、11%増えている。サイズは20インチで、フロント255/40、リア285/35。コンパウンドも見直され、グリップは7%引き上げられている。

タイヤの接地性を高めるため、ショルダーは丸みが強められた。タイヤ自体のコーナリングフォースは、5%増している。

新しいターボ 車重は先代ニスモより27kg軽量

タクミと呼ばれる職人が手作業で組み立てる3.8L V型6気筒エンジンには、ターボが2基組み付けられている。従来のニスモどおりGT3のレースカー譲りだが、新設計のもの。

このターボは、タービンのフィンが従来より1枚少ない10枚となり、フィンの厚みも0.3mm薄くなっている。4速、110km/hで走行時にアクセルペダルを踏んだ場合、14.5%の質量減と24%の慣性減により、エンジンレスポンスが20%鋭くなるらしい。

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日産GT-R ニスモ(英国仕様)

最高出力は今までどおり600ps。カーボンファイバー製のパーツが増やされ、1馬力ごとに受け持つ質量は小さくなっている。

新しいフロントとリアのバンパー、大きなウイングは先代のニスモより4.5kgも軽量。カーボンファイバー製のルーフは4kg、ボンネットは2kg、重量を削っている。専用のホイールも、1本当たり25gだけだが軽くなっている。

カーボンセラミック・ブレーキを採用し、フロント側のディスク直径は410mmもある。それでいて、従来より16.2kgも軽く仕上がっている。

これらを積み上げることで、新しいGT-R ニスモはこれまでのニスモより27kg軽い。車重としては1725kgと、相対的には軽いとはいい難いが。

控えめながら、軽量化を考慮してサスペンションは柔らかくなっている。伸長時で20%、収縮時で5%、スプリングレートが下げられ、ダンパーもソフトに改められた。パワーステアリングにも調整を受けている。

GT-Rという独自のクラス

車内に足を踏み入れると、スウェード風素材で巻かれたステアリングホイールと、サイドサポートに優れるレカロ製バケットシートが迎えてくれる。インテリアデザインは2017年に大幅な刷新を受け、カーボンファイバーが増えてレザーのステッチも良くなった。

メーターパネルにはアナログのメーターが残され、センターモニターなどに集約されず、実際に押せるボタン類も多く並んでいる。見た目は少し古く感じられるものの、操作系をすべてデジタル化させたモデルの一部よりは、扱いやすいと思う。

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日産GT-R ニスモ(英国仕様)

価格は安くない。GT-Rニスモ仕様の場合、2015年の英国価格は12万5000ポンド(1687万円)だった。2017年に一度値上がりしていたが、2021年のGT-R ニスモは18万95ポンド(2431万円)へ、一気に高くなってしまった。

2シーターでミドシップのスーパーカーなら、納得できるかもしれない。でも日産GT-Rは違う。

車重は1725kgもあるものの、アストン マーティン並みの高級感はない。もちろん、ポルシェ911ほどコンパクトでもない。直接的なライバルはいない、GT-Rという独自のクラスに属しているモデルだといえる。

走りもGT-R孤高のものだ。硬く、激しい。ダンパーにはコンフォートと記されたモードもあるが、ジョークかと思えるほど硬い。

GT-R ニスモを、長距離が快適なクルマだとは考えない方が良い。舗装の欠陥を逐一教えてくれる。ほんの少しでも。だが速度域が高くなるほど、その硬さも穏やかに感じられてくる。

速度を上げるほど良くなるハンドリング

ステアリングの操舵感は低速域ではとても軽く、直進状態から少し切り込んだ程度では、目立った印象がない。しかしさらに数度切り増ししていくと、突然GT-Rクイックに反応し始める。

最初は戸惑うものの、操舵時の重さが増え、安定性も増してくる。路面の感触が、手のひらへ伝わるようになってくる。さらに速度を上げれば、さらに良くなる。

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日産GT-R ニスモ(英国仕様)

ブレーキはどの速度でも好感触。カーボンセラミック製のディスクが温まってくると、最高のベダルフィーリングが得られる。滑らかな路面で速く走っている時の方が、穏やかに運転している時より、わだちの影響なども受けにくい。

高次元のシングルシーターのレーシングマシンや、スポーツ・レーシングカーは、このような特性の傾向が強い。ドライバーがタイヤとブレーキの温度を保てないと、制動力やグリップ力は、スピードを支えきれないところまで低下してしまう。

もちろん、GT-R ニスモはそこまで激しいモデルではない。1700kgの車重がある、ナンバー付きのモデルだ。

ペースを落とすと、得られる体験の濃度は薄くなっていく。雨の日では、充分にタイヤやブレーキを温めることも難しい。でも、GT-Rのポテンシャルを引き出す努力をする価値はある。

タイヤは、想像以上に路面を掴む。コーナリング中にブレーキを穏やかに緩めると、ノーズがダイレクトに反応。アクセルペダルを踏み込むと、4本のタイヤへ伝わるパワーが分配され、リア寄りの挙動で加速していく。自然で不安感もない。

速く走るほどにエキサイティング

V6ツインターボエンジンはひたすらパワフル。7000rpmを超えて勢いよく吹け上がり、改良を受けたチタン製のエグゾーストからは、不機嫌そうなザラついたノイズが豪快に放たれる。

2速で110km/h以上に達し、3速では160kmを軽く超えるから、高回転域を味わえるのはわずかな時間。これ以上の速度域は試さなかった。我慢できた。

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日産GT-R ニスモ(英国仕様)

これらすべてがブレンドすれば、とてもエキサイティングなドライビング体験を享受できる。さらに興奮を味わいたければ、GT-R ニスモをもっと速く走らせる必要がある。

ポルシェ911ターボのように、滑らかで完全無欠ではない。フェラーリ488GTBやランボルギーニ・ウラカンのように、低くグラマラスでもない。それでもGT-R ニスモは、サーキットなら負けない速さを見せつける。

日産GT-R ニスモは、押しも押されもしない。直接のライバルは不在といえるだろう。開発の積み重ねも評価できる。しかし、そろそろ孤高の輝きには陰りが見えてきたようにも思えた。

日産GT-R ニスモ(英国仕様)のスペック

価格:18万95ポンド(2431万円)
全長:4690mm
全幅:1895mm
全高:1370mm
最高速度:315km/h
0-100km/h加速:−
燃費:7.0km/L
CO2排出量:325g/km
車両重量:1725kg
パワートレイン:V型6気筒3799ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:600ps/6800rpm
最大トルク:63.7kg-m/3600-5800rpm
ギアボックス:6速デュアルクラッチ・オートマティック


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