2020年11月、福島県山形県の県境付近のJR奥羽本線で、列車が坂を上れなくなるトラブルが相次ぎました。ここは急勾配が続く昔からの難所。そこに落ち葉が積もったのが原因ですが、坂を克服する鉄道の工夫に何があるでしょうか。

スイッチバックしたり機関車が牽引したり… 板谷峠は難所

福島県山形県の県境、JR奥羽本線の赤岩~板谷間で2020年11月、列車が坂を上れなくなるトラブルが相次ぎました。同区間は板谷峠に向かう途上にあります。報道によると原因は、上り勾配の線路に積もった落ち葉で車輪が空転したためとされています。トラブルを防ぐため、同区間を含む庭坂~米沢間はダイヤを変更して運転されました。

板谷峠を含む区間の勾配は約33‰(パーミル千分率。水平で1000m進んだ時に33mの高さを上る)。角度にすると約1.8度です。ほとんど平らのように思えますが、鉄の車輪が鉄のレールの上を小さな接地面だけで転がる鉄道にとっては大変な勾配です。同区間は最大38‰の勾配も存在するほか、20km以上にわたって坂が続きます。ちなみに、日本の鉄道は原則として25‰が限度とされ、やむを得ない場合にそれより急な勾配が設けられます。

そのような板谷峠は鉄道にとって「難所」です。かつては進行方向を変えながらジグザグに進むスイッチバックが板谷峠付近の赤岩~大沢間の4駅で行われていました。高速化を図るため、蒸気機関車ディーゼル機関車よりもパワーのある電車が走れるよう戦後すぐに電化されたほか、峠越え区間専属の電気機関車であるEF71形まで製造され、ここを通る特急列車などに補助で連結されたほどです。

難所を克服するために鉄道は、ほかにどのような工夫を凝らしてきたのでしょうか。

かつての蒸気機関車は、上り勾配でレールに砂を撒いて走行していました。こうすることで車輪とレールの摩擦力を高め、空転を防いだのです。現代はセラミック粉を噴射するのが一般的で、上り勾配での滑り止めのほか、ブレーキ時は停止距離の短縮にも寄与します。

上るだけでなく下るのも大変 勢いあまって…を防ぐために

静岡県を走る大井川鐵道のアプトいちしろ~長島ダム間には、最大で90‰の急勾配があります。同区間は2本のレールの間にさらに歯形の「ラックレール」が敷かれ、機関車の歯車とレールとをかみ合わせて走行する「アプト式」が、現在の日本で唯一採用されています。

ここまで、列車が坂を上ることに主眼を置いてきましたが、急勾配であればあるほど下るのも大変です。下り坂で勢いがつき過ぎ、カーブに差し掛かっても止まれないようでは一大事。そのため、急勾配を上り下りする車両は、ブレーキを何重にも施したり、特殊なブレーキ装置を搭載していたりします。

例えば、山岳路線である箱根登山鉄道の車両は、通常の電気ブレーキ空気ブレーキのほか、空気の圧力で特殊な化合物をレールに押し当てる「レール圧着ブレーキ」を装備しています。

先述した、勾配区間で補助の電気機関車が連結される例でも、連結される列車の暴走を防ぐほか、車輪やブレーキが摩擦熱で過熱しないよう、機関車ブレーキを併用して速度を調整していました。

冒頭の奥羽本線に話を戻すと、ただでさえ急な勾配区間に落ち葉が積もったのだから、難儀するのは当然といえるでしょう。JR東日本も対策として、毎年11月ごろから朝の始発前に列車を走らせ、レール上の落ち葉を払っています。また、車輪の空転対策として、通常2両もしくは4両編成の列車にさらに2両を連結し、パワーを強くして走らせることもあります。

JR篠ノ井線の勾配区間を行くE127系電車(2018年5月、草町義和撮影)。