日本国民の胸に深く刻まれている原発事故への恐怖。当然、その再稼働には慎重な議論がなされるべきだ。

だが、安倍政権は7月の参院選後、再稼働への動きをますます加速させようとしている。多くの国民の声を無視して、なぜ再稼働は進められようとしているのか?

そうした疑問に答えるのが、現役の霞が関キャリア官僚・若杉冽氏が書いた小説『原発ホワイトアウト』(講談社)だ。電力会社、政治家、官僚が一体となって進める原発再稼働。その裏ではびこる金と利権まみれの「モンスターシステム」の実態をフィクションの形で生々しく暴露している。

本書の中で特に強調されているのは、「モンスターシステム」という原子力ムラが生み出た利益供与の仕組みについて。これは電力会社が政治家に対して、別会社の名義で政治資金を提供することが可能になる原子力ムラ独自の献金システムのことである。

システムについて詳しく説明すると、以下のようになる。

まず電力会社は資材購入や燃料の調達、工事の発注などの際に、相場よりも2割高い額で取引先に発注する。取引先はその2割増しされた受注額の中から4%分をプールして、電力会社がつくった業界団体に預ける。例えば取引先全体への年間の発注額が2兆円に上る電力会社の場合、その団体には800億円もの金が集まる。そしてその金は電力会社が意のままに使える“自由な金”になるという。しかもその団体は法人格を取得していない(若杉氏によれば異例なこと)ので、官庁による検査や帳簿閲覧がなく、外部からの介入が一切ない。

こうして集まった金はパーティ券購入の形で政治家に献金され、また落選議員のためのポスト(大学客員教授など)や官僚の天下り先のためにも使われるという。つまり電力会社は、会社の名が表に出ることも違法性もない金をじゃんじゃん生み出す巧妙なシステムをつくり上げ、政治家や官僚を“手なずけている”のだ。

「こうした原子力ムラの実態を国民の皆さんが知った上で納得し、原発再稼働を認めるのなら私は何も言うことはありません。しかし、それを知らされずして、民主党政権のときのようなエネルギー問題に関する討論型の世論調査もせず、再稼働に向かうのは明らかにおかしい」(若杉氏)

しかも自民党は今年の5月、「電力安定供給推進議員連盟」という団体を立ち上げた。若杉氏は語る。

「表向きは電力の安定供給を考えると言いながら、その実は原発再稼働を促すのが目的です。今では130名の国会議員が参加しています(会長は幹事長代行の細田博之氏)。この会合に出れば、電力会社は一口2万円のパーティ券を一度に10枚も20枚も買ってくれるのです。電力会社というのは自動販売機みたいなもので、押せばお金がドンドン出てくる。しかも、再稼働をイッキに進めたい今が勝負どころだと考え、こうした金を積み増ししているはずです。

官庁にいると、脱原発デモの近くを通ったりするわけで、それを見ると私も参加したいぐらいです。でも、あのやり方だけではダメだと思うんです。皆さんがもっと“敵”の正体を知って、モンスターシステムを解除する方法を考えてみてほしい。その思いでこの本を書きました」

このように、我々国民の知らないところでズブズブの関係にある政治家と電力会社。どんなに大きく「脱原発」の声を上げたところで、政治家や官僚には届かないのか。

(取材/長谷川博一、撮影/村上庄吾)

・若杉 冽(わかすぎ・れつ)



東京大学法学部卒業。国家公務員I種試験合格。現在、霞が関の省庁に勤務ということ以外、身分は明かしていない。

■週刊プレイボーイ51号「原発再稼動に突き進む“原子力ムラ”をブッ壊す方法」より

原子力ムラで動くお金の流れについて、フィクションという形で暴露した、省庁勤務の若杉氏