ワクチン接種の副反応は、日本でも必ず出る

 ついに日本でも新型コロナウイルス感染症ワクチン接種が始まる。ウイルスとの長かった闘いにも終止符が打たれる……と願いたいが、開発に10年以上かかるのも珍しくないワクチンが1年という異例の短期間で完成。

 それもインフルエンザワクチンなどで使われてきた不活化ワクチンではなく、ウイルスの遺伝子情報を体に打ち込み免疫反応を呼び起こす、まったく新しい技術が使われている。

 12月11日、米食品医薬品局(FDA)がファイザー社ワクチンの緊急使用を許可した理由は、「利益が潜在的リスクを上回る」だった。未知のウイルスに打ち勝つためとはいえ、ヒトへの実績のない、ワクチンリスクもまた未知である。

ワクチン接種時期の見通し>

’21年1月 通常国会(第3次補正予算案)
  2月 ワクチン接種開始。対象はコロナ対応の医療従事者(約1万人)
  3月 その他の医療従事者を対象(300万人)、高齢者(3000万~4000万人)
  4月 重症化リスクの高い人から優先的に接種



◆副反応はしばらく様子を見なければわからない

 医師で、医療社会学の研究者でもある立命館大教授・美馬達哉氏は副反応について、こう語る。

「一般的にワクチンには、脳症、ギラン・バレー症候群など、さまざまな副反応があります。すでにファイザー社のワクチン接種が始まっている米国では、重いアレルギー反応であるアナフィラキシー症状が報告されている。アナフィラキシーは接種後、すぐにわかる副反応ですが、時間が経過しないとわからない副反応もあり、先行してワクチンを接種した人の抗体ができる2月、3月ごろには、新しい副反応が出てくるかもしれません。

 またデング熱ワクチンのように、デング熱にかかってない人がワクチンを接種し、デング熱にかかると、かえって症状が重くなる事例もある。新型コロナワクチンの副反応も、しばらく様子を見なければわかりません」

◆「ワクチン実用化の歴史は反ワクチン運動の歴史でもある」

 ワクチンの大規模接種を目前とし、ワクチン懐疑派による「反ワクチン運動」が欧米では活発化している。そのため12月21日バイデン次期米大統領ワクチンの安全性をアピールしようと、公開接種をテレビで生中継。英国でも、ジョンソン首相が「反ワクチン派の議論に耳を貸さないように」と念を押す。

 ただ美馬氏は「ワクチン実用化の歴史は反ワクチン運動の歴史でもある」との見方を示す。

「反ワクチン運動を『非科学的』と簡単に切り捨てることはできません。日本でもジフテリア予防接種で83人が死亡したり、新三種混合ワクチンでは1800人が無菌性髄膜炎にかかる薬害事件が起こっています。

 一方で、ワクチン被害のフェイクニュースもたくさんある。有名なのは、英国の医師が’98年に発表したワクチン自閉症の発生との関連を示した研究論文で、一時的に反ワクチン運動が盛り上がりましたが、後に研究不正として撤回されました。ただし、反ワクチン運動を乗り越えるため、欧米ではより安全なワクチン開発や情報公開、被害者救済制度が進んできたのも確かです」

◆日本でワクチンを打ちたくない人が多い背景

 ’20年11月に発表されたスイスの民間機関「世界経済フォーラム」などの調査では、日本のワクチン接種意向は69%。米国64%よりは高いが、韓国83%、英国79%、平均の73%を下回っていた。

 ’09年に新型インフルエンザが巻き起こした狂騒の際、検疫官として最前線で従事していた元厚生労働省医系技官・木村もりよ氏は、日本でワクチンを打ちたくない人が多い背景をこう分析する。

ワクチンは集団で免疫を持つためのもので、個人に目を向ければ一定数の副反応は必ず起きます。今回、輸入されるワクチンは『日本人の臨床試験が少ない』『氷点下での輸送』といった問題も抱えているため、予期せぬ副反応が見つかれば、一旦接種を見送ることも考えなければなりません。

 しかし、厚労省は混乱が起きても『最終的な接種の判断は各医療機関にお任せ』とするだけでしょう。本来ならば、’17年につくられた医系技官の事務次官級ポストである医務技監が責任を持って、情報を発信するべきなのに、分科会の尾身茂会長や京都大学西浦博教授など、行政の責任者ではない人ばかり前に出てくる。

 クビを覚悟して、指揮を執る人がいなければ、国民は信用しない。10年前の新型インフルエンザ騒動から、厚労省は何も学んでいません」

◆大量のワクチンが余る最悪のシナリオも……

 前記のように、ワクチン接種の時は刻々と迫る。新型コロナの治療にあたる医療従事者を皮切りに、高齢者や基礎疾患のある人……もし一人でも副反応が起きれば、メディアは大騒ぎし、ワクチン忌避が広がる恐れもある。ナビタスクニック理事長の久住英二氏もそれを危惧する一人だ。

「子宮頸がん感染を防ぐHPVワクチンは’13年に定期接種となり、対象者の接種率は70%を超えていました。しかしワクチンとは因果関係不明な健康被害の訴えが相次ぎ、厚労省はわずか2か月で積極的接種勧奨を取りやめる。当時、歩けなくなり、車椅子に乗った少女のセンセーショナルな姿が報道された影響も大きかった。

 その後の研究で、それらの症状とワクチンとは無関係であり、ワクチンは安全なことが再確認されたが、現在も接種率は1%未満。日本では毎年、約3000人が子宮頸がんで死亡しており、『救える命も救えない』状態です。このままでは新型コロナワクチンもHPVワクチンの二の舞いになることは容易に想像できます。

 そして、全国民分のワクチン買い占めておきながら、大量に余れば、次のパンデミックではワクチンを日本には売ってくれないかもしれません」

 コロナ禍を収束させるワクチンによって、新たなパニックが呼び起こされるのは避けたい。

ワクチンで副反応が起きればどのような補償を受けられるのか?

 もし新型コロナワクチンで副反応が起きれば、どのような補償を受けられるのか? 前出の久住氏はこう解説する。

「予防接種法による健康被害救済制度では、製薬会社や承認した国の過失を被害者が立証する必要がなく、医学的に因果関係がありそうか、審査会で審査し、認定されれば補償を受けられます」

 日本では被害者救済の観点から温情的に副反応を認定し、補償が給付されてきた。しかし、そこには問題点もある。

「今回のように短期間で何千万件もの接種を実施すれば、これまでにない数の副反応が発生します。いまの認定の仕組みでは、とても作業が追いつかず、速やかな救済が受けられないでしょう」

◆曖昧な基準のままでは訴訟が多発する

 12月2日には予防接種法が改正され、新型コロナワクチンで健康被害が出た場合、製薬会社が支払う賠償金は、政府が肩代わりすることが決まった。仮に副反応の線引きが厳しくなれば、今度は訴訟が多発する事態を招きかねない。

「学ぶべきは米国の救済制度(VICP)。補償対象となる副反応の症状をワクチンごとに明確に定め、公開しています。該当すれば補償を受けられるが、訴訟を起こせば補償は受けられなくなる。これは国民と製薬会社の双方が歩み寄った制度です。ワクチンの公益性は高いが、犠牲者は避けられない。透明性の高い基準が必要です」

 ワクチンによる恩恵も犠牲も、国民全員で考えるときが訪れる。

ワクチン健康被害の補償額は?

▼接種費用 無料(国が負担)
▼公的関与 接種勧奨あり・努力義務あり
▼死亡一時金 4420万円
▼葬祭料 20万9000円
▼障害年金(1級) 506万円/年
▼調査・判定機関 PMDA医薬品医療機器総合機構)、厚労省

新型コロナワクチンは、予防接種法に基づく緊急時に実施する「臨時接種」に準じ、ワクチン接種による健康被害は高水準の救済給付となる

立命館大学教授・美馬達哉氏】
京都大学大学院医学研究科博士課程修了、神経内科専門医。著書は『感染症社会:アフターコロナの生政治』(人文書院)など多数。

【パブリックヘルス協議会代表理事・木村もりよ氏】
筑波大学医学群卒業。米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院疫学部修士課程修了。厚生労働省医系技官を経て、現職。

【ナビタスクニック理事長・久住英二氏】
医療法人社団鉄医会理事長。内科医師。専門は血液内科と旅行医学。感染症予防やワクチン、海外の医療情勢に詳しい。

<取材・文/アケミン 櫻井一樹 村田孔明(本誌)>

Sipa USA/時事通信フォト 米国ミシガン州スパロー病院に到着したファイザーとビオンテックが共同開発した新型コロナのワクチン。撮影日は2020年12月17日