フランスのエレガンス、格調高き美の世界の象徴ともいえるパリ・オペラ座のバレエ映画館で楽しめる、パリ・オペラバレエシネマ2021年1月8日(金)から愛知・大阪・兵庫・札幌で、さらに15日(金)からは東京で、上映が開始される。演目は『ドン・キホーテ』と『眠れる森の美女』。どちらも伝説のダンサーにして、パリ・オペラ座の芸術監督も務めたルドルフ・ヌレエフの振り付けによるものだ。

『ドン・キホーテ』町の踊り子と闘牛士たち © Julien Benhamou / Opéra national de Paris

ドン・キホーテ』町の踊り子と闘牛士たち © Julien Benhamou / Opéra national de Paris

いずれの作品も8年ほど前の収録であり、また来日公演などでもしばしば上演された演目ではあるが、だからこそ、公演を目にしたバレエファンには綿々と引き継がれるオペラ座の伝統を、初めて見る者にはオペラ座ならではの華麗な世界を存分に楽しめるものとなっている。高難易度のヌレエフ作品を軽妙に、あるいは優雅に踊りこなすダンサー達の技術と表現にもぜひ注目したい。来日公演が難しいコロナ禍のいま、世界屈指の本物の芸術にふれることのできる機会をぜひ、お見逃しなく。

『眠れる森の美女』 © Christian Leiber / Opéra national de Paris

眠れる森の美女』 © Christian Leiber / Opéra national de Paris

 

■ジルベール&パケットが快演。軽快で洒脱な『ドン・キホーテ』

古典バレエドン・キホーテ』はスペイン小説家セルバンテスの同名の小説をもとにマリウス・プティパが振り付けた全3幕のバレエで、初演は1869年、モスクワのボリショイ劇場である。物語はバルセロナの町娘キトリと床屋の青年バジルの恋を軸に、キトリをあこがれのドルシネア姫と勘違いしたドン・キホーテやお供のサンチョ・パンサ、キトリに求婚する金持ちのガマーシュなどが絡み、さらに花形スターの闘牛士エスパーダや踊り子といった市井の人々も登場して繰り広げられるコメディだ。パリ・オペラ座がレパートリーとしている『ドン・キホーテ』は1966年にヌレエフが振付・演出したものにより、彼ならではの高度なステップが、まるでスペインの街で陽気に生きる、人々の喧騒を描き出すようにも感じられる。

『ドン・キホーテ』ドロテ・ジルベール、カール・パケット © Julien Benhamou / Opéra national de Paris

ドン・キホーテ』ドロテ・ジルベールカール・パケット © Julien Benhamou / Opéra national de Paris

今回の上映作品は2012年、パリ・オペラ座バスティーユでの舞台を収録したもので、キトリはドロテ・ジルベールバジル2018年に引退したカール・パケットが踊る。鮮烈なスペインの太陽の下で演じられる1幕の恋の駆け引きは軽快で庶民の土の匂いを感じさせながらも、どこか優美な雰囲気も香るのはパリ・オペラ座ならでは。2幕冒頭、駆け落ちした2人が宵闇の中でしっとりと愛を語らうシーンはヌレエフ版のオリジナルだ。表情豊かでコケティッシュなキトリを演じるジルベールが、風車に跳ね飛ばされたドン・キホーテの夢では気品あふれるドルシネア姫を踊る、その演じ分けも見どころのひとつである。

『ドン・キホーテ』ドロテ・ジルベール © Julien Benhamou / Opéra national de Paris

ドン・キホーテ』ドロテ・ジルベール © Julien Benhamou / Opéra national de Paris

パケットの演じるバジルは、彼ならではの温厚な魅力と恋の駆け引きを楽しむ青年のやんちゃっぷりが絶妙な味わい。3幕のグラン・パ・ド・ドゥは華やかな色彩溢れる、これぞパリ・オペラ座というエレガンスの粋が存分に楽しめる。

『ドン・キホーテ』ドロテ・ジルベール、カール・パケット © Julien Benhamou / Opéra national de Paris

ドン・キホーテ』ドロテ・ジルベールカール・パケット © Julien Benhamou / Opéra national de Paris


 

■ウルド=ブラーム&エイマンの美技に酔いしれる『眠れる森の美女』

もう1作の『眠れる森の美女』は、チャイコフスキーの三大バレエの一つである古典の大作で、初演は1890年、マリインスキー劇場。物語は悪の妖精カラボスの呪いで100年の眠りについたオーロラ姫が王子のキスにより目覚めるという、シャルル・ペローのおとぎ話だ。パリ・オペラ座の『眠れる森の美女』は、ヌレエフが1966年に振り付けたものに自身が改定を重ねながら、1989年に上演したものだ。

『眠れる森の美女』ミリアム・ウルド=ブラーム、マチアス・エイマン © Christian Leiber / Opéra national de Paris

眠れる森の美女ミリアムウルド=ブラーム、マチアス・エイマン © Christian Leiber / Opéra national de Paris

オーロラ姫を演踊るのはミリアムウルド=ブラーム、デジレ王子はマチアス・エイマンという、パリ・オペラ座屈指のエトワールたちだ。ウルド=ブラームのオーロラ姫は透明な魅力を湛えながらも、高貴な姫としての凛とした存在感を放つ。なおかつ溌溂とした16歳オーロラ姫、ふれれば儚く消えてしまいそうな幻影、そして幸せにあふれる輝かしい結婚式での姫と様々な表情を見せるのはさすがだ。

またヌレエフ版は王子の見せ場や踊りが多いのが特徴で、なかでも見どころの一つが2幕、狩の場で一人残った王子のヴァリエーションである。エイマンはこれを不安とほのかな期待や憂いなどが混ざり合う王子の微妙な心情を、持ち前の卓越したテクニックと表現力でたっぷりと魅せる。この「語り」がオーロラ姫の幻影との出会いに繋がり、目覚め、そして3幕の華麗な結婚式へとつながり、おとぎ話に一層の深みと味わいを醸し出す。

なお3幕の結婚式では、フロリナ姫のヴァランティーヌ・コラサント青い鳥フランソワ・アリュにもぜひ注目していただきたい。

上映はいずれも休憩なしだが、存在そのものが芸術品というダンサー達の姿に見惚れ、次々と繰り出されるステップや笑い、あるいは華やかな色彩絵巻に酔いしれているうちにあっというまに時は過ぎる。万全の準備を整えて鑑賞を。


 

文=西原朋未

『眠れる森の美女』