

世界中が注目した大統領選も終わり、ようやく政権移行が始まろうかというタイミングで前代未聞の混乱に陥ったアメリカ。カマラ・ハリス議員が初の女性副大統領に選ばれるなど明るいニュースもあったが、「トランプよりはマシ」という消極的な理由でジョー・バイデン次期大統領に投票した有権者は決して少なくないだろう。
◆AOCに続く進歩的議員たちとは
バイデン氏には民主・共和両党や、近年ますます分断が進む人種間のバランス役、そして民主主義国家としてのアメリカの再生が期待されているが、より「プログレッシブ」(進歩的)な政策を望む声も少なくない。
そんなプログレッシブな議員の筆頭といえば、当サイトでもたびたび紹介し、日本メディアでも取り上げられる機会が増えてきたAOCことアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員だろう。
Two years ago, I walked my family to the Capitol steps and bussed down community from the Bronx & Queens as I was sworn in for the first time as a member of Congress.
I so wish you all could have been here today, but thankfully you sent another kind of family 🙂
Let’s do this💜 pic.twitter.com/EEvFqCd9PS
— Alexandria Ocasio-Cortez (@AOC) January 4, 2021
AOCが自ら先日ツイッターに投稿したように、少しずつではあるがプログレッシブな議員の数は増えている。本稿では彼女が「家族」と評した注目の議員たちを紹介したい。
◆資本主義は多数のために機能していない
●ジャマール・ボウマン
自らワクチンを接種している動画を投稿し、新型コロナウイルスへの啓蒙を行なっているのは、ジャマール・ボウマン議員だ。
Getting the vaccine could not have been easier. It was nothing. Nearly painless. When it’s your turn, I implore you to take the vaccine. For our kids, our elders, and for our communities. pic.twitter.com/isCta7lcCW
— Jamaal Bowman (@JamaalBowmanNY) January 5, 2021
今回紹介する議員たちと同じく、アメリカ民主社会主義者(DSA)である彼は、小学校の教員としてキャリアをスタートした。
教育格差が悪化するとして共通テストに反対するなど、教員時代にもすでに注目されていたボウマン議員は、AOCにも影響を受けながら、「反貧困・反人種差別」を掲げて政界に進出。「私を社会主義者と呼びたいならば、社会主義者と呼べばいい」と、一見過激にも思えるようなメッセージを発しているが、その根幹には広がり続けるさまざまな格差を是正しようという強い意志が感じられる。(参照:JACOBIN)
「皆保険について話すとき、住宅供給は人権問題だということや、義務教育への投資や連邦政府の雇用保障について話すとき、人々は私を民主社会主義者と呼びます。私は気にしません。現在の資本主義モデルが多くのアメリカ人にとって機能していないにも関わらず、『社会主義』という言葉には汚名がつきまとっています。
我々(アメリカ合衆国)の制度では、全国の下位50%よりも3人のアメリカ人のほうが多くの富を持っています。4000万人が貧困に生きています。1550万人の子どもが貧困に生きています。今の制度は多数のためには機能していません。私を社会主義者と呼びたいならば、社会主義者と呼んでください」
「学校から刑務所へ」という表現があるように、アメリカでは教育格差が深刻な問題となっているが、自ら教師として現場に立ち続けたボウマン議員がどれだけその溝を埋められるか、ぜひ注目してほしい。
◆中東諸国から大反発を受けたムスリム系議員
●イルハン・オマル
‘18年にムスリム女性、そしてソマリア難民として初めて選出されたのはイルハン・オマル議員だ。
「(アメリカが)嫌なら出て行けばいい」とトランプ前大統領に攻撃を受けるなど、反ムスリム的なヘイトを受け続けている彼女だが、親イスラエル的なアメリカ政府の姿勢に楔を打つ存在として注目を浴びている。(参照:FOREIGN POLICY、THE NEW YORK TIMES)
『フォーリン・ポリシー』が「サウジアラビアがアメリカのムスリム女性議員に宣戦布告」と紹介したように、その発言や行動はアメリカ国内だけでなく、中東諸国にも強い影響力を持っている。
同記事では「湾岸アラブの君主たちが、ワシントン最新の歴史的な政治家を非難するため、レイシズム、偏見、そしてフェイクニュースを用いる」という見出しもついているほどだ。
進歩的かつ歯に衣着せぬ発言で知られるオマル議員(そして、そのほかのムスリム系議員)に対しては、「反サウジアラビア、反アラブ首長国連邦的な組織に所属している」というフェイクニュースが拡散されるなど、発言力を増すムスリム系議員の代表であるいっぽうで、矢面に立たされることも増えている。
◆平等なアメリカはどこへ
また、先述のトランプ大統領からの非難については、『ニューヨーク・タイムズ』が次のようなコメントを紹介している。
「私はとても不平等な社会で育ちました。合衆国に来ることで唯一家族が興奮したのは、合衆国は誰に対しても正義を保証している国であるはずだということです。私は、その約束が守られていないことについて、話す必要があると感じています」
国内外から批判を浴びつつも、平等や正義について恐れずに声をあげるオマル議員は、アメリカ政界、そして世界を変えていくはずだ。
近日公開予定の後編では、今回紹介したジャマール・ボウマン議員、イルハン・オマル議員と同じく、AOCと肩を並べたプログレッシブ議員たちに迫る。
<取材・文・訳/林 泰人>
【林泰人】
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

コメント