■仲良し嵐の絆
「あと2時間あまりで年が明けて、僕たちの嵐が一旦止みます。嵐が去った後に虹のかかった美しい空が、どうか皆さんの前に広がりますよう。明けない夜はないと信じて」

【動画】嵐のMV、Netflix予告編

大みそかに行われた休止前ラストライブ『This is 嵐 LIVE 2020.12.31』の会場から『第71回NHK紅白歌合戦』に出演した嵐の5人。「カイト」の途中で、松本 潤はこんなことを言っていました。そして2021年になる直前、5人が肩を組んで去った後のステージには、きれいな虹がかかっていました。

2019年1月27日の発表からまる2年。活動休止に向けた嵐の活動は、12月終盤の怒涛の露出で幕を閉じました。

12月24日、約13年続いたレギュラー番組『VS嵐』の最終回。12月26日、こちらは10年半の歴史を刻んだレギュラー番組『嵐にしやがれ』の最終回。それと前後して12月25日には『ミュージックステーション ウルトラSUPER LIVE 2020』で3曲をパフォーマンス。さらに12月30日にはグループとして初めて『日本レコード大賞』に出演。そして、大みそかは配信ライブを行いながら紅白歌合戦にも登場。文字通り“嵐を見ない日はない”といった感じで、彼らの活動は締めくくられました。

歌番組のステージ、バラエティー番組のスタジオ、そしてロケ企画など、短期間で様々な嵐を目にしましたが、画面を通じて特に印象に残ったのは5人の距離感の近さ。長年の付き合いで気心の知れた仲間たちのじゃれ合いからは、こんなときだからこそ今この瞬間を5人で楽しもう! という意識が強く伝わってきました。

Mステでも、紅白でも、歌唱後にはメンバー間のスキンシップを絶やさず、『嵐にしやがれ』ではまるでプライベートで温泉旅行に来ているかような雰囲気で卓球に興じていた彼ら。その姿から伝わってくるのは、仕事上の付き合いには収まりきらない絆のようなものでした(ちなみに櫻井 翔はNetflixARASHI's Diary -Voyage-』エピソード8において松本 潤のことを「幼馴染的でもあり、地元の仲間っぽくもあるし、今となってはある種のビジネスパートナー」と語っています)。かつてのSMAPがメンバー間に独特の緊張感をはらんでいた(それゆえここぞというときにひとつになることで生じる爆発力が魅力の源泉になっていた)のに対して、嵐の関係性からはよりナチュラルな親密さが感じられます。

■“ほのぼの”の裏にある“ほろ苦さ”

仲良し嵐が最後までフルパワーでファンを楽しませてくれた。笑顔の活動休止。おつかれさまでした!

そんな形でまとめたくもなる活動休止に至る一連の流れですが、彼らが見せてくれていたほのぼのムードの裏では取り返しがつかないレベルでほろ苦い状況が引き起こされていたという事実もあります。

「かなわなかった夢も嵐の21年の歴史の一部です」

やはり「カイト」の途中で語られた二宮和也のこんな言葉どおり、2020年の嵐は“かなわなかった夢”との対峙をつねに迫られていました。

4月に予定されていた北京公演の中止。5月に予定されていた“アラフェス 2020 at 国立競技場”は延期され、その後実施できたものの無観客の配信ライブに。そしてNHKのスペシャルナビゲーターを務めていた東京オリンピックパラリンピックの延期。プランが崩れ、言葉を失う嵐の面々の姿は、前述の『ARASHI's Diary -Voyage-』に克明に収められています。そんななかでも前向きに進もうとする姿は尊くもありましたが、“2年間ですべてをやり切る”ことができなくなってしまったショックというのは想像を絶するものではないかと思います。

特に残念だったのは、本来行われる予定だったというアメリカでのライブ。2019年11月のストリーミングサービスへの音源解禁、現行のサウンドのトレンドに接近することで過去曲をあらたによみがえらせた「Reborn」シリーズ、いずれもそれを見越したものだったわけです。予定通りライブが行えていたら、アメリカでどのように批評されていたか……。

■誰にもわからない未来

明石家さんま黒柳徹子など超大物が登場し、さらには番組の合間に嵐がこれまで出演してきたCM映像を企業の垣根を越えてダイジェストにしたスペシャルCMが流れるなど、『嵐にしやがれ』の最終回の内容は嵐というプロジェクトの巨大さを雄弁に語っています。

そこまで大きくなってしまったものを一度止めるために、2年間で大きなことを複数やり遂げる。そんな目論見は、新型コロナウイルスの感染拡大という誰にも予想しえなかった出来事によって大幅な変更を余儀なくされました。

この状況に対して、メンバーが思うことはおそらくバラバラだと思います。

「今年かなえられなかった夢の数々をいつかとりにいこうと思っている」と櫻井 翔が語るいっぽうで(『ARASHI's Diary -Voyage-』エピソード15)、大野 智は「またね」と含みを持たせながらも「僕は明日から、自分のことを考えて自分の時間を大切に生きてみようと思っています」と大みそかのステージで素直な気持ちを言葉にしました。

すでに嵐としての活動のイメージが見えている人もいれば、もっと身近な場所に目を向けようとしている人もいる。そして、そういった思いはメンバー一人ひとりの心のなかで混在していて、日によって異なる考えが顔を出したりもするのだと思います。

少年のように楽しそうにしている嵐の5人も、いまやアラフォーの立派な大人。つまり、5人それぞれにそれぞれの人生があります。大枠で同じ方向を向いていても、まったく同じことを考えているなんていうことはありえないわけです。

「みんな仲良く笑顔の活動休止、良かったね」の背後には実はそれぞれにいろいろな思いがあって、さらには抗えない事情で当初のゴールを変更せざるを得なかった。それでも、結果的には初志貫徹でエンディングを迎えた。我々が今回の活動休止劇に接するうえで思いをはせるべきは、表に見える爽やかな立ち振る舞いではなく、その裏側に間違いなく存在するひと筋縄ではいかない心の機微なのではないでしょうか。そうすればこそ、「スーパーアイドルであっても、自分たちと同じような悩みを抱えて生きてきた」という形でより彼らを身近に感じることができるはずです。

この先5人がどんなキャリアを歩むのか、そして嵐としての次なる活動はどんな形で行われるのか、現時点では誰にもわかりません。ひとつ思うのは、嵐の復活は“周りの声に押されて”ではなく“全員が改めて嵐として踏み出そうと心に決める”タイミングで計画されてほしい、ということです。国民的スターであっても、自身の意思で自分たちの未来を選択することができる。休止中の嵐の面々がそういったことを身をもって示してくれるのであれば、それはきっと社会に良い影響を与えることになると思います。

5人の決断が、彼らの人生にとっての最良のものであったことを陰ながら祈っています。

TEXT BY レジー(音楽ブロガー/ライター)
(M-ON! MUSIC)

掲載:M-ON! Press