カモノハシのゲノム解析で進化の起源が明らかに

カモノハシのゲノム解析で進化の起源が明らかに /iStock

 オーストラリアに生息する「カモノハシ」は、哺乳類でありながら卵を産み、アヒルのようなクチバシがあり、後ろ足の爪には毒があり、しかも性染色体が10本もあるという珍獣の中の珍獣だ。

 「単孔類」という哺乳類の中でも異色のグループに属し、遺伝子レベルでも風変わりな彼らは、哺乳類の進化を研究するには格好の題材となる。

 『Nature』(1月6日付)に掲載されたコペンハーゲン大学のグループによる研究では、史上初めてカモノハシのゲノムを完全マッピングし、この奇妙なグループの進化の秘密に迫った。

 その結果、哺乳類、鳥類、爬虫類、植物との類似点が発見され、さらには人類とカモノハシの共通祖先が存在していた可能性もあるという。

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哺乳類の異色グループ「単孔類」

 哺乳類には3つの主要グループがある。「有胎盤類」「有袋類(有袋上目)」「単孔類(カモノハシ目)」だ。

 最大のグループは有胎盤類で、ここに属する動物たちは母親の胎盤から栄養をもらって成長し、生まれてくる。もちろん私たち人間もまたこのグループの仲間だ。

 その有胎盤類は、コアラカンガルーなどが属する有袋類とまとめられ、「獣亜綱」というグループを構成する。しかし単孔類だけは、それら2グループとは区別され、独自の系統を構成している。

 今日、単孔類に属しているのは「カモノハシ」と「ハリモグラ」、ミユビハリモグラ属だけだ。カモノハシが半水生動物である一方、ハリモグラは陸生動物という違いはあるが、どちらも哺乳類でありながら卵を産むというユニークな特徴がある。

カモノハシ

iStock

カモノハシとハリモグラの染色体マップの比較


 今回の研究では、カモノハシのゲノムの完全な染色体マップをハリモグラのもの(こちらは不完全)と比べて、彼らがその身に宿す遺伝子レベルの秘密が探られた。

 この分析からは、たとえばカモノハシには嗅覚に関連する遺伝子が、陸で生きるハリモグラに比べてずっと少ないことが明らかになっている。

 このことは、カモノハシ水の中では鼻や目を閉じており、嗅覚ではなく生体電流を感知してエサを探すという事実を裏付ける。

ハリモグラ


鳥類や爬虫類との類似点を発見


 だが研究者がとりわけ興味を引かれていたのは、哺乳類のくせに卵を産むという風変わりな生殖戦略を持つ彼らの性染色体だ。

 人間の場合、性染色体はX染色体とY染色体の2本だけだが、カモノハシは動物では唯一10本もの性染色体(X染色体5つ、Y染色体5つ)を持つ(同じ単孔類のハリモグラは9本)。

 XとYの染色体を持つからといって人間に似ているわけではない。今回の分析からは、むしろZ染色体とW染色体を持つ鳥類や爬虫類との類似が見つかったという。

 たとえば、鳥には「ビテロジェニン」という卵を産むために必要なタンパク質を作る遺伝子が3つある。一方、胎盤で子供を育てて出産する人間にはまったくない。

 カモノハシの場合、その遺伝子が1つだけあることが判明したという。それはカモノハシが卵を産むために鳥類ほどビテロジェニンに頼っていないということであるが、それでもなお卵を産む理由を説明するかもしれない。

カモノハシ


植物との類似点も発見


 また単孔類の複雑な性染色体では、「減数分裂」(細胞分裂の一種)の最中やそのあとに奇妙な構造が作り出されることが確認されている。

 染色体ペアの相同領域が互いに一致し、環のような構造を作り出すのだ。こうした環状構造は植物では見られるが、動物で発見されたのは今回が初めてであるとのことだ。

人類とカモノハシの共通祖先が存在していた可能性

 さらにカモノハシの遺伝子は、タスマニアデビルから人間までのさまざまな動物とも比較されている。その結果、人類とカモノハシの共通祖先は1億6300万~1億9100万年前に存在したらしいことが分かったという。

 だが、よりすごいのはカモノハシの染色体から、人間のDNAの起源について理解が進んだことだ。今回の研究によると、人間のX染色体は、有袋類から分岐したあとで常染色体領域と融合した獣亜綱のX染色体が由来であると確認されたとのことだ。

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さまざまな種類の動物の遺伝子クラスターを示すカモノハシ

哺乳類が胎生を進化させたプロセスを解明する手がかりに


 動物の染色体マップが重要なのは、その進化を解き明かすヒントになるからだ。特に単孔類は卵生の爬虫類と胎生の動物がこの世に出現した転換点として、哺乳類が胎生を進化させてきたプロセスを理解する鍵だという。

 そもそもなぜカモノハシがそんなにもたくさんの性染色体を持っているのか、その理由はまだ謎に包まれたままだ。今回染色体の完全なマッピングが行われたからといって、彼らがミステリアスな珍獣であることには変わりない。

References:Nature / inverseなど/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52298309.html
 

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