―[負け犬遠吠え]―


ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。
それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。

マニラのカジノで破滅」したnoteが人気を博したTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後も続いてしまう人生のなかで、力なく吠え続ける当連載は33回。

 今回は、ラジオの出演依頼が来たときのお話です。


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◆貧乏が高じて?

 貧乏が高じてラジオに出演した。

 貧乏はどんな概念の「上下」でも「下」に位置するのが普通だから、「貧乏が高じて」という表現はこれが歴史上初めてかもしれない。

 文化放送19時から放送される「卒業アルバムに1人はいそうな人を探すラジオ」で、「親から縁を切られている人」として数分出演するということだった。さすがに電話でチョロっと話すだけなのでギャラは出ないが、代わりにYoutubeの宣伝などはしてもいいと言われていた。4ヶ月近く放置したままでもう広告収入が入ってきていない生き恥のようなホームビデオの宣伝。

 たしかに知らない人が何人か見てくれたら数千円にはなるかもしれない。ギャンブルから身を引いてアルバイト生活を始めてから少し窮屈だった。金は減らない。返済でゴソッと持っていかれはするが、想定内の収入に想定内の支出、常に一定の返済額を叩き出す、何の驚きもない財布事情。それに、ラジオだ。

◆ここは退屈

 テレビラジオインターネット僕は高校生の時は深夜に放送されるオールナイトニッポンを毎晩こっそりと夜更かしをして聞いて…いない。坊主の運動部だったからそんな趣味を持った学生ではなかった。特に思い入れはないが、ミーハーな欲望が脳裏を過ぎる。

 出演の打診はTwitterのDMから来た。打診と言っても、タイトルから毎回ちょっと話題になってる素人に声をかけまくっている感じだろう。今回は「親と縁を切られた人」。パーソナリティは平成ノブシコブシの徳井だった。知っている。まだテレビがあった頃によく見ていた。

 たしかに縁を切られてはいるが、自分のなかで一番面白い話でもない。大学を中退してそのまま家を出されただけのありきたりな理由が果たしてウケるのだろうか? いや、そもそも……。

 そもそも、たかだか5分くらいラジオに出るだけでここまで浮かれていて、本当に僕はそれでいいのか?

 ふと、あの頃を思い出す。新しい環境に放り込まれる時、人は少なからず「カマしてやる」という気持ちになる。

 トンネルを抜けた先にある雪国。僕はそこから東京にやってきた。東京の人間の使う「風情」という言葉を憎み、自然公園に遊びに来る感覚で遅れた文明を覗きにやって来る東京の人間を、心底鬱陶しく思っていた。

 我々田舎者はみんな同じボロボロのカラオケでしか遊べず、深夜に開いている店もないから9時半の終電で大人しく帰る。タバコを吸っているヤンキーの奥山も、先輩全員と付き合ったらしいギャルの安達も、まだまだ遊びたい盛りの新任教師小笠原も、みんな同じ。

 ボロボロのカラオケが僕たちのドンキで、歌舞伎町で、秋葉原だった。

◆田舎と都会の南北問題

 上京してくる時、同級生が見送りにきた。

ジャニーズの友達できたら紹介してくれ」

テレビに出る時は教えてよ」

「帰ってくるときはディズニーランドグッズを買ってきて」

 日本が抱える「南北問題」も、みんなが思うよりずっと深刻なのだ。

 東京に出てきた田舎者はまず「田舎臭さ」の消臭からこだわる。僕が最初に決めたのは「芸能人にホイホイ声をかけないこと」だった。テレビに出る人間は9割以上が東京の人間で、三歩歩けば芸人やモデルとすれ違うと思っていた僕は、芸能人に全く興味がない素振りをすることで東京に擬態しようとしていた。

 友達と遊んでいる時に渋谷でドラマの撮影をしていたとしても、絶対に行かなかった。東京出身の連中がこぞって野次馬に向かった時、「勝った」と思った。どうだ、僕はテレビ人なんかに興味を示さない生粋の都会人だぞ、と。今思えばテレビに出るということ自体がすごいので東京で生まれ育った人も野次馬には行くし、何なら肩肘を張っていない分、より自然に「東京人」だったのだが。

 回想終わり。

ラジオ

 ラジオスタッフの方が少し電話で話せないかと言われ、僕は不承不承とした態度で電話に応対した。内心ウキウキだったが、5分間芸能人と話せることに浮かれて過去の自分を裏切るわけにはいかなかった。

「僕、こういうゲストとして出ると毎回まとまりがなくて滑っちゃうんですけどいいですか?」

いえいえ、あなた自身のリアルな言葉で視聴者の若者に何か伝えて欲しいんです。僕たちは生きづらい人に勇気を与えたいんです」

 なんと熱い言葉よ。僕を通して世の中で塞ぎ込んでしまっている人を元気付けたい、そういうことだったのか。

「僕でよければ、ぜひよろしくお願いします。」

 相手が電話を切る音を待って通話終了のボタンを押す。歴史が変わる音がした。

 当日。僕が世の中の若者に赦しを与える時刻。タバコを何本も吸いながら着信を待っていると非通知が届いた。普段はアコムやレイク弁護士事務所なんかがかけてくる僕の携帯だが、この時ばかりは疑うことなく電話に出た。

もしもし

もしもしー! お名前どうぞ!」

 と、徳井だ……! いや、ここは敢えて徳井さんと呼ばせてもらおう。なぜならもうあなたは野球選手やアイドルなんかじゃない。生身の人間であることをこうして自覚してしまったからだ。

「い、犬です……」

「ええ?」

「い、犬という名前で、Twitteryoutubeをやっていて……」

 僕は今日、若者に伝えたいことがある……!

「それで、どうして縁を切ったの?」

「ありきたりなんですが、大学を中退してそのまま……。今は工事現場で働きながらギャンブルで作った借金を返しています」

「開き直ってるクズ、いいねー!」

 大体こんな感じだったと思う。ごちゃごちゃ話しても円滑に進まなくてスベるんじゃないかと思ってドキドキしていたが、会話が変に流れないように全部徳井さんが質問で誘導してくれた。終始ギャンブル中毒で破滅した話をしてしまったが、少しはウケていた気がする。結局10分くらいの通話で終わり、緊張して最後の方は早口になり、電話を切る時も、

ありがとうございました」を「エイーッス」と省略してしまい、堂々たるクズ、のような印象を2時間のネタとしてこすられ続けてしまった。

 クズになってもいいよ。終わってしまったことはもう笑えるようになるしかないじゃん。そう伝えたかったが、伝わっただろうか。

 ラジオが終わる。お母さんお父さん、僕、ラジオに出たよ。

 徳井さんが締めに入った。

「犬や西田(ラランドというお笑い芸人の人)くらいまでダメにならないと縁は切れないからね。さて、今週はここまで。来週探している人はギャンブルでの武勇伝を語りたい人』です。お楽しみに!」

 いや、来週こそ僕の出番じゃないですか?

 いつの間にか2時間ずっとラジオを聞いていた僕は、携帯に向かって誰も聞いていないツッコミをしていた。

 ご視聴ありがとうございました。開き直っているクズです。

【犬】
フィリピンカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitternoteカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。
Twitter@slave_of_girls
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