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自動運転レベル3の型式指定を世界初取得

text:Yoichiro Watanabe(渡辺陽一郎)
editor:Taro Ueno(上野太朗)

ステアリング、アクセルブレーキを車両が制御する運転支援機能は、もともと日本車の得意分野だった。

例えば3代目の三菱デボネア1992年に発売されたが、レーダーセンサーを使って車間距離を自動制御するクルーズコントロールを採用していた。

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ホンダ・レジェンド    ホンダ

定速走行装置の補助機能で、先行車との車間距離が詰まると警報を発したり減速する程度だったが「これなら使える」と感心させられた。いい換えればそれまでのクルーズコントロールは、設定速度で走るだけだったから、加減速を伴う日本の高速道路ではほとんど役に立たなかった。

2000年には2代目セレナが「車間自動制御システム」を採用した。これもレーダーセンサーで先行車を認識して、車間距離を自動制御しながら追従走行する機能だ。この時もブレーキ制御はなかったが、2代目セレナCVT(無段変速AT)を使う。

変速できるギア比が幅広いため、エンジンブレーキを強力に利かせることも可能だ。ブレーキ制御がなくても、車間距離を積極的に自動調節できた。

このように日本のメーカーは早い時期にクルーズコントロールを手掛けたが、その後の商品化は海外メーカーに負けている印象もあった。

今後はこの流れが変わるかも知れない。レジェンドが自動運転レベル3の型式指定を取得したからだ。国土交通省によると「レベル3の型式指定は世界で初めて」だという。

作動 高速道路/自動車専用道路の渋滞時

政府は自動運転をレベル分けしており、レベル1とレベル2は、ドライバーが制御を監視する運転支援機能だ。

これがレベル3に高まると、制御はドライバーではなくシステムによって監視される。そのためにドライバーは、システムの作動中であればスマートフォンなどを見ていても良いことになる。

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自動運転車の定義及び政府目標    国土交通省

作動の条件は、まず高速道路やそこに通じる自動車専用道路であること。天候の悪化もなく、道路上が渋滞やそれに近い混雑状況であることも条件に含まれる。走行速度は、自動運行装置の作動前は30km/h未満、作動後も50km/h以下といった内容だ。

メカニズムとしては、高精度地図、全球測位衛星システム、車両周囲の状況を認識するカメラ/レーダー/ライダー、運転者をチェックするドライバー・モニタリング・カメラなどがある。

レジェンドのレベル3に基づく自動運行装置は、前述の通り30km/h未満で作動を開始して、50km/hを超えると解除される。従って使用できるのは、主に高速道路や自動車専用道路における渋滞時のみだ。

それでも長時間の渋滞は頻繁に発生している。スバルアイサイトXなど、渋滞時に手離し運転の可能な運転支援機能は既に登場したが、レジェンドはこれを自動運転の領域まで高めた。渋滞時の運転はクルマに任せ、ドライバーが監視しないで済むことは、疲労を抑える上で大きなメリットになる。

また、前方を注視する必要がなく、スマートフォンなどを使えれば、渋滞中に仕事をすることも可能だ。今までの渋滞は、ドライバーにとってムダな時間だったが、それをビジネスに充てられると移動の効率は大幅に向上する。

レベル3の作動中の事故の責任は?

あらためて国土交通省の説明を読むと、「作動後、走行環境条件を満たさなくなる場合や故障発生時等においては、警報を発し運転者による運転操作を求めますので、運転者は過信せず常に運転できる状況を維持する必要があります」とされている。

役所的で難解な表現だが、要は自動運行装置は完全ではないから、渋滞中に作動している時でも、手に負えなくなってドライバーの運転を求めることがある。いつでも運転できる準備をしておかねばならない、という意味だ。

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自動運転装置の構成    国土交通省

そうなると安心してスマートフォンなどを見ていられるのか。自動運行装置の手に負えない状況では、おそらくドライバーにとっても運転操作が難しいだろう。

スマートフォンを見ている時に警報が鳴り、前方を見たら急いでブレーキペダルを踏み、ステアリング操作をする状況が迫っているかも知れない。これではドライバーも正確な対応ができない。違反になるか否かは別として、結局のところレベル2と同じく前方を注視する必要があるのではいか。

また、レベル3の作動中に交通事故が発生した場合、責任の所在はどうなるのか。この点を国土交通省に尋ねると、以下の返答だった。

「レベル3の自動運行装置が作動している時は、ドライバーは前方を注視する必要はない。ただし、必要に応じて、運転者に運転操作を引き継ぐことが考えられる。引き継ぎの要求は何回かおこなう。作動中に万一事故が発生した時の責任の所在は、状況によって異なる。そこは警察が判断する」

一方、ホンダに同様の質問をすると、事故の発生に関する見解は異なり、「事故が発生した時の責任は、ドライバーが負うことになる」という。

実際の使い勝手、レベル2手離しに近い

国土交通省では、運転者に運転操作を引き継ぐことも考えられ、その時の引き継ぎ要求は何回かおこなうとしているが、その余裕がない場合も考えられる。システムの作動後に、走行環境条件を満たせない状況が急に発生した時などだ。

レベル3の作動中に事故が発生した場合、前述のとおりドライバーの責任になる可能性が高い。そうなるとドライバーは常に前方を見て、システムとのダブルチェックをおこなう必要がある。走行環境条件を満たせない状況になったら、即座に対応せねばならないからだ。

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ホンダ・レジェンドの「トラフィックジャム・パイロット」    ホンダ

また、正常に作動している時も、50km/hを超えると自動運行装置が解除されるから、速度変化を常に認識しておかねばならない。

こういった事柄を考えると、実際の使い勝手はレベル2の手離し運転に近い。作動中はのんびりとスマートフォンをチェックできて、万一事故が生じたらメーカーの責任、とはなりそうもない。

そうなると「なぜレベル2ではなくレベル3にするのか」という疑問も生じる。国土交通省によると「自動運転は内閣府も力を入れる事業」だが、長らくレベル2に留まっていた。

その進捗を促され、ホンダがレベル3に踏み込んだとも受け取られる。

自動運転は将来の大切な技術で、安全性も大きく左右する。先を急がず、国も余計な思惑を介入させず、技術を着実に進化させるべきだ。


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