韓国の文在寅大統領1月18日の記者会見で、慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を謳う2015年の日韓合意を「政府間の公式合意」と認めた上で、1月8日ソウル中央地裁が日本政府に賠償を命じた元慰安婦訴訟に関して「正直、困惑している」と述べた。元徴用工訴訟についても、「強制執行で現金化されるのは日韓関係に望ましくない」と語っている。

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 既に国家間で解決済みの問題を蒸し返す韓国に辟易としている日本人は少なくないが、それは韓国人でも変わらない。韓国でベストセラーになった『反日種族主義』の共同著者、イ・ウヨン氏が元慰安婦や徴用工に支払われた過去の慰労金について解説する。

李 宇衍(落星台経済研究所研究委員)

「正式な賠償ではない」というフェイクを流した挺対協

 韓国において、元慰安婦に対する金銭的支援が初めて行われたのは1992年である。挺身隊対策協議会(挺対協、現在の正義記憶連帯<正義連>)は、国民の募金によって1人当たり250万ウォン(現在のレートで約23万円)を支給した。

 韓国政府による支援が始まったのはその翌年だ。生活安定支援金という名目で一時金500万ウォン、毎月15万ウォンが支給された。一時金はその後、大きく増加して4300万ウォンに膨れあがり、毎月の支援金も147万4000ウォンに達している。さらに、必要に応じて年間で最高1800万ウォンの看病費と984万ウォンの治療費が支給される。

 以上は中央政府からの支援であり、地方自治体は2020年まで、毎月20万ウォンから85万ウォンの支援金を別途で支給していた。

 1997から1998年には、日本で設立された「女性のためのアジア平和国民基金」から1人200万円(約1500万ウォン、当時のレート)の「償い金」が支払われた。日本の首相からおわびの手紙も届いている。

 この基金は名称が「国民基金」であり、実際に募金も行われたことは確かだが、実は日本政府の出資だ。募金は6億円だけで、日本政府からの拠出金と補助金が48億円だったからだ。

 このお金に関して、韓国では「日本の民間の資金」という誤解が広がり、多くの元慰安婦が受け取りを拒否したのは挺対協のプロパガンダのせいだった。「日本政府の資金ではないから正式な賠償ではないし、公式の謝罪もない」と主張し、償い金と謝罪の手紙を受け取った人を批判して、他の元慰安婦は受け取らないように仕向けたのだ。

 日本の国民基金設立と元慰安婦への慰労金支給を肯定的に評価していた金泳三(キム・ヨンサム)政府とは異なり、金大中(キム・デジュン)政府も挺対協に追従し、国民基金の事業に対して否定的な態度を取った。韓国政府が挺対協に振り回され始めたのは、この時からだろう。

 金大中政府は元慰安婦だと申告した186人に、国民基金の償い金をはるかに上回る3800万ウォンを支給すると決め、国民基金の償い金を受け取った者には支給しないと発表した。挺対協が国民から募った500万ウォンもこれに加えた。

 とにかく、このようにして元慰安婦1992年の生活安定資金に続き、2度目の大金を手にすることになる。国民基金、あるいは韓国政府から受け取ることができたからだ。

「そのお金をもらったら売春婦になる」

 3度目に受け取った大金は、2015年に慰安婦問題韓日合意に基づいて設立された「和解・癒やし財団」の支援金だ。朴槿恵パク・クネ)政府と安倍晋三内閣は「最終的かつ不可逆的な解決」を確認して合意し、日本政府が10億円全額を出資、韓国で同財団が作られて、元慰安婦に1人当たり1億ウォンが支給された。

 挺対協は、この時も公式的な賠償ではないとして、朴槿恵政府を糾弾した。元慰安婦には「そのお金をもらったら売春婦になる」と言い放ち、支援金を受け取らないように「説得」したという。関係者たちが入院中の元慰安婦のもとに集団で押しかけたとも聞いている。

 しかし、元慰安婦の多数が支援金を受け取った。当時、生きていた対象者は47人で、少なくとも34人、最大37人が受け取ったのだ。支援金を受け取らなかった人には、挺対協が国民から集めたカネで1億ウォン(940万円)を支給した。この時も、すべての慰安婦が大金を受け取った。和解・癒やし財団、あるいは韓国国民から受け取ったのだ。

 2021年1月8日ソウル中央地方裁判所第34民事部は、日本政府に元慰安婦への賠償を命じた。この時の原告は全部で12人。そのうち6人が和解・癒やし財団から1億ウォンの支援金を受け取っている。残りの6人も国民義捐金として1億ウォンをもらっているはずだ。

 この訴訟の原告は、韓国仏教の最大宗派・曹渓宗が運営する慰安婦の共同生活施設「ナヌムの家」に関する人たちだ。まずありえないことだが、万が一、日本政府から1人1億ウォンの賠償金が払われたとしたら、これで4度目の大金を受け取ることになる。

 また1月13日には、かの有名な挺対協関連の慰安婦20人が提訴した訴訟において、判決が言い渡される予定だった。1月8日の判決と同様に日本政府を相手取った訴訟であり、韓日合意後の2016年に始まったものだ。しかし、理由も分からぬまま判決は3月に延期された。この原告側も1億ウォンを既に受け取っている。

 この裁判でも元慰安婦たちが勝訴したら、元慰安婦と亡くなった慰安婦の遺族が全員訴訟するかもしれない。多数が訴訟に乗り出し、高額の賠償金を要求するに違いない。

 ちなみに、2018年10月30日、韓国大法院(日本の最高裁に相当)の判決で問題となった戦時労働者(徴用工)の裁判で、裁判部が日本製鉄に対して支払いを命じた賠償金も1人1億ウォンだった。

保証金を何度ももらった慰安婦と戦時労働者

 慰安婦の場合、文玉珠(ムン・オクジュ)氏のように、慰安婦だった当時、かなりの高給を得たことが明らかな事例もあるが、今となっては彼女たちの収入に関しては断言できない。これとは違い、戦時労働者が高額の賃金を正常に受領していたのは明らかだ。一部未収金や未払い金が残っている事例もなくはないが、それは少額だった。

 韓国では1972年朴正熙パク・チョンヒ)政府が初めて、戦時労働者への補償を実施した。1965年の国交正常化に伴い、韓国政府は韓日請求権協定により無償3億ドル、有償2億ドルの請求権資金を日本から供与される。この時、「対日民間請求権補償に関する法律」を制定し、戦時動員労働者の死亡者に対して1人30万ウォンを補償した。

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府は2007年、「太平洋戦争前後の国外強制動員犠牲者等の支援に関する法律」を制定し、計7万2631人に慰労金と医療支援金を支給した。政府レベルでの2度目の補償だ。死者には2000万ウォン、負傷者には負傷の程度によって慰労金が支給された。負傷もなく生還した人には、年間で所定の医療支援金が提供された。

 日本製鉄関連の裁判における原告4人は全員、生きて帰ってきた。彼らは朴正熙政府が実施した補償の対象ではなかった。

 その後、実施された盧武鉉政府の補償作業と関連して、韓国政府の「大韓民国政府国務総理所属 対日抗争期強制動員被害調査及び国外強制動員犠牲者等支援委員会」という長いタイトルの委員会は、活動の『結果報告書』を発刊した。しかし内容がいい加減であった上、完刊すらされなかった。原告4人のうち2人に関する補償金の受領状況は不明だが、残りの2人については受領が確認されている。

 これもまたありえないことだが、万が一にでも日本製鉄から賠償金をもらうことになれば、1度の仕事で3回お金をもらうことになる。

 徴用工を巡る裁判は大法院(最高裁)が判決を下し、韓国政府がその判決の確定性を強調してきた。よっていかなる形であれ、たとえ韓国政府が支払うとしても、そのお金は支払われるだろう。2020年時点で、戦時労働者だった韓国人のうち、日本企業を相手取って訴訟を起こした人は1000人をはるかに超えるという。これまでの補償が足りないと思ったのか、韓国政府を相手取って訴訟を起こした人も多いという。

 慰安婦や戦時労働者は既に数度も補償金を受け取っているのに、再び金銭補償をしてもらおうと両国の裁判所で訴訟を提起した。両者ともにまず日本で訴訟を起こしたが、敗訴してしまう。しかし、決して諦めることはなかった。今度は韓国の裁判所に行き、日本政府や企業を相手取って訴訟を起こし、結局は勝訴したのだ。

 これ以外にも慰安婦と戦時労働者の訴訟にはいくつかの共通点がある。大韓民国の司法府が国際法や国際約束を無視し、歴史的実態を見ようともせず、支援団体や法廷代理人の「反日国民情緒法」に振り回されていることだ。いや、むしろその先頭に立っているといえる。

 また、韓国政府は司法府が自己とは関係のない第三者であるかのように、日本政府や企業に対する韓国司法府の判決を尊重している点も共通している。しかし、筆者がここで注目しているのは、ほかにある。金銭主義、自国の名誉、威信などお構いなしのあけすけの欲望。ひと言でいうと「お金」である。

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