先日、あるラーメン店の店長が、おかわり自由の無料サービスで提供している「ライス」を残す客が多いことから、SNSに「おかわり自由で残すって意味不明です。原価がどうとかじゃなく、モラルなさ過ぎです。皆さまのご協力をお願いします」と投稿したところ、大きな反響を呼びました。完食することを前提にしたサービスだけに、この主張に理解を示す声は多かったのですが、一方で「購入して提供された料理に付随するサービスなのだから、購入者がどう扱おうと自由」という声もありました。

 モラルで考えれば店側の主張は理解できますが、店側の主張は法的に正当性があるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

明確な条件なければ正当性なし

Q.飲食店では、注文して料理が提供された時点で、料理の所有権は購入したお客にあるのでしょうか。その場合、モラルを抜きにして考えれば、お客は料理を一口だけ食べて残そうが自由ということなのでしょうか。

牧野さん「最近増えているテークアウトやデリバリーの場合も含めて、法的に、飲食店とお客の間の契約関係は料理や飲み物の所有権の『売買契約』と捉える解釈と、お客が注文した料理や飲み物を飲食店が提供(サービス)し、それに対して、お客が代金を支払う『飲食物提供サービス契約』と捉える解釈の2種類があります。

売買契約でも、サービス契約でも、お客側の契約上の義務は提供された料理を完食することではなく、代金を支払うことです。そのため、料理を提供されたお客は料理を一口だけ食べて残したとしても、モラルを抜きにすれば自由です」

Q.ラーメン店では、購入した料理に付属した無料サービスとして、「おかわり自由のライス」が付くことがよくあります。無料サービスで提供される料理や食べ物の場合はどうなのでしょうか。

牧野さん「飲食店が、購入した料理に付属した無料サービスとしてライスを提供する場合も先述したように、購入した料理に対して代金を支払う義務を果たしている限りは、一口だけ食べて残したとしても、モラルを抜きにすればお客の自由です。

ただし、無料サービスについて、飲食店側が『食べ残さないことを条件に提供し、食べ残した場合にはライス分の代金○○円を請求する』とお客に分かるように明示している場合には、お客は提供されたライスを食べ残した場合に代金を請求されても文句は言えません。

よく、食べ放題の飲食店で料理を無駄にしないために『残した場合には相応の代金を請求させていただきます』と明示して、残した場合に追加料金を支払わせるケースがありますが、これも同じで、お客は所定の追加料金を支払わないといけません」

Q.今回のケースで、店側の主張は法的に正当性があるのでしょうか。

牧野さん「もし仮に『食べ残さない条件で提供し、食べ残した場合は追加料金を請求する』など、お店側で明確な条件を付けていないとするならば、法的な正当性はありません。モラルだけの問題となってしまうでしょう」

Q.法的な正当性がないとしても、無料サービスについて客側が「残す、残さないを決めるのはお客の自由」と言い張ることにも違和感があります。

牧野さん「客側のモラルに任せるのではなく、飲食店側が無料サービスの食べ残しを出さないための工夫をしているケースもあります。例えば、私が通っている担々麺のお店では、無料でライスを提供する場合、あくまで『希望者』だけに提供し、食べ残し問題をできるだけ回避しようとしています。ライスをあえて希望して、食べ残すお客は少ないだろうという考えからです」

Q.法的には問題がないことでも、モラル上よくないことが世の中にはいろいろあります。こうした場面に遭遇したとき、私たちはどのように判断すればよいのでしょうか。

牧野さん「法律で保護されるのは、あくまで最低限の権利です。モラルのレベルは人によって異なるので、法律で最低限の保護をするのです。そのため、他人とのトラブルをなくして、常識ある社会人として行動するには、自分なりにモラルの基準を法律の基準よりも常に高く設定しておくべきでしょう」

オトナンサー編集部

ライスの食べ残し、店が注意すると…