2020年は新型コロナウイルスが、日本はもちろん世界中を席巻。多くの国で感染者数・死者数が爆発的に増加する中、日本では相対的に見れば影響は大きくなく、各国がロックダウン都市封鎖)といった厳しい措置を複数回にわたってとる中、「緊急事態宣言」といった相対的に緩やかな措置でした。

こうしたなか欧州や米国の大都市部ではコロナで不動産取引に急ブレーキ。例えばニューヨークなどでは中心部から都市郊外へと大移動する流れが発生、中心部の取引が激減し、郊外の売買・賃貸市場が活発化しました。

コロナ禍でも利便性を重視する傾向が強まる日本

一方日本では都心部・都市部から都市郊外・地方へ移住といった動きは限定的でした。不動産情報検索サイトによれば、昨年4~5月の緊急事態宣言中には検索範囲が郊外や地方物件へと拡大し、情報閲覧や資料請求なども増加したものの、緊急事態宣言が解かれるとその傾向も弱まっていったとのこと。むしろ「密を避けるため公共交通の利用を極力避けたい」「通勤時間のムダを削減したい」などの理由から、通勤や買物利便性を重視する傾向が強まり、折からの低金利も手伝って「都心」「駅前・駅近」「大規模」「タワー」などのワードに代表される、比較的高額な物件の取引が活発です。 また都市郊外では2~3LDKの賃貸から4LDKの新築中古一戸建てに引越すといった動きも活発化。住宅市場全体が年々縮小を続ける中、コロナ後に顕著に見られた動きはこうしたものです。

昨年の緊急事態宣言中には日経平均株価も一時、1万6000円台へと大暴落し、各地の不動産取引数も前年比40~50%減となったものの「投げ売り」は起きず価格に大きな変化は見られませんでした。2008年のリーマン・ショック時には多くの新築マンション・一戸建ての事業者が千万単位の値引き販売をして在庫処分を進め、それでも持ちこたえることができず多くが破綻、中古市場もつられて暴落しました。

2021年の不動産市場は「3極化」がますます加速

翻って2020年5月25日緊急事態宣言が解除されると、それまで滞留していた需要を補って余りある需要が噴き出す形で都市部の不動産取引は新築・中古・マンション・一戸建てのいずれも急回復しています。とりわけ東京都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷区)などの中古マンション成約平米単価はここまで一貫して上昇基調にあります。また新規売出しが少ないことも手伝って在庫も減少していることから、さらなる上値圧力すら感じられるといった状況です。

また他の先進国に比して日本の不動産は相対的に割安感があり、コロナの影響が小さく海外投資家にも注目されており、今後分かっているだけでも兆円単位のマネーが流入する見込み。ただしこうした動きは都心部・大都市部が中心で、2021年の不動産市場は「3極化」がますます加速する一年となりそうです。全国レベルで見れば、2019年10月の消費税増税以降、新築・中古・マンション・一戸建てとも取引は低調でした。

2021年はいきなり1都3県(東京都神奈川・埼玉・千葉県)を対象とした「緊急事態宣言」がスタートしましたが、昨年大きく下落した日経平均とは異なり、目立った株価の反応はありません。また前回は新築マンションのモデルルームが閉鎖されたり、工事現場がストップしましたが、現在では多くのモデルルームや工事現場においてコロナ対応が進んでおり、前回のような滞りは起きにくくなっています。したがって今回も、緊急事態宣言中において取引数がマイナスに振れることはあっても、投げ売りによる価格下落も起こりにくく、緊急事態宣言が解除された後の取引は通常運転に戻るでしょう。もちろんそのゆくえはコロナ次第であり、現在予定されている2月7日までの緊急事態宣言が大幅に長引くようなことになればその限りではありません。

つまり、日経平均株価が安泰である限り「都心・大都市部」「駅前・駅近」「大規模」「タワー」といったワードに代表される好立地かつ高額物件や郊外で値ごろ感のある新築・中古・マンション・一戸建てなどは好調で、一方で「立地に難のあるもの」はことごとく厳しいといったことになりそうです。

住宅は長期的にニーズのある物件を吟味した上で取得することが大切

定量的なデータこそありませんが、史上最高値を更新し続けているビットコインイーサリアムといった仮想通貨や、コロナ後に大幅上昇した株式を売って不動産購入の頭金にしたという話もちらほら聞くようになりました。加えて歴史的な低金利は続いており、形式的には1980年代後半のバブル経済に近い状況と言えるでしょう。実体経済とは無関係に株や不動産などの資産価格が上昇し「上がるから買う」「買うから上がる」を繰り返す「期待」がバロメータとなり、天井が見えない資産バブルが発生するといった流れです。

時限的に控除期間が10年から13年に延長されている住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)をはじめとする各種の税制優遇は昨年に続き適用される見込み、そして何より低金利と、住宅取得環境は整っていると言えます。一方で長期的に見れば人口・世帯数減が必至な日本において住宅需要全体がしぼむ中、利便性や災害可能性を考慮した立地、耐震性や省エネ性など建物の基本性能など長期的にニーズのある物件を吟味した上で選択する、といった慎重姿勢も求められることになるでしょう。


(長嶋修)
(画像/PIXTA)