(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

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 昨年11月大統領選で勝利したジョー・バイデン氏が、1月20日、米国代46代大統領に就任する。

 同大統領にとっての優先課題は新型コロナ感染の抑制、新型コロナに伴う経済への悪影響の緩和、トランプ大統領による国内の分断の修復、人種問題、気候変動への対応など国内問題が中心となろう。

韓国が現状のままならバイデン政権と深刻な対立を招く

 その一方で、外交問題については、核心は同盟関係の修復と強化、多国間外交への復帰が最初に取り組む課題であろう。既存の同盟関係を最大限重視し、関係を修復・強化して外交的懸案を解決していくことになる。

 米国にとって当面重要な外交的課題は、海洋進出を加速し技術覇権を狙う中国との関係、北朝鮮との核交渉、イランの核問題、気候変動対策などであろう。バイデン政権がこうした問題に取り組むにあたっては、同盟国である韓国が協力するのは当然のことと考え、期待しているに違いない。しかし、今の文在寅ムン・ジェイン)政権の対米姿勢は、米韓関係の様々な側面で米国と対立する様相を呈している。

 問題が生じる根本的原因は、文在寅氏の政権が民主主義体制とは異質な強権体質による政治を進めていることにある。それは内政ばかりでなく外交の場面でも強く打ち出されている。そうした文在寅政権の政治姿勢の抜本的修正なくして、米韓の懸案問題の解決もない。その政治姿勢が現在のままなら、バイデン政権下で米韓関係はいっそう悪化する可能性が高い。

 ただ他方で文在寅大統領は、1月18日青瓦台大統領府)の春秋館で行った年頭の記者会見で、日韓関係の正常化を強調した。これまでも日韓関係の改善を望む姿勢を示してはいたが、この日のトーンはかなり踏み込んだものだった。その発言の意図は慎重に吟味する必要がある。

 まず韓国が米国との間で抱える懸案事項は次の点である。

 第1に、北朝鮮とどう向き合うか。

 第2に、北朝鮮の人権問題にどう対応するか。対北朝鮮ビラ散布禁止法への国際社会への批判にどうこたえるか。

 第3に、日米豪印のクアッドに協力する意思があるのか。

 第4に、日米韓協力が日韓関係の悪化で風前の灯になっている事態をどうするのか。

 これらの問題について見てみたい。

「核放棄の意思ない」北朝鮮との関係改善を模索する韓国

 まずは北朝鮮との関係からだ。

 米国と文在寅氏の韓国では、北朝鮮労働党大会で示された北朝鮮の意図に対する解釈に大きな隔たりがある。これは今後の北朝鮮への対応を巡って米韓対立を生む素地となりかねない。

 金正恩キム・ジョンウン委員長は、先日の朝鮮労働党大会で「新しい朝米関係樹立のカギは米国が敵対視政策を撤回するところにある。強対強、先対先の原則で米国を相手にするだろう」と述べ、米国を「最大の主敵」と規定した。

 金委員長は核という言葉は36回使用したが、非核化には一度も言及しなかった。逆に、2018年平昌オリンピック以降の平和攻勢をかけていた期間も「核武力の高度化に向けた闘争で」「巨大な勝利を勝ち取った」として核ミサイルの開発を続けてきたことを認めた。

 さらに金委員長はICBM(大陸間弾道ミサイル)の1万5000キロの射程圏の標的に対する命中率を高めるとともに、核推進潜水艦や極超音速兵器開発にも言及した。軍事パレードでは新型SLBM潜水艦発射弾道ミサイル)を公開した。

 こうした姿勢からは、「今後米国と交渉を行うときには“非核化交渉”ではなく“核軍縮”に方向転換するぞ」という意思表示が読み取れる。

 こうした北朝鮮の姿勢では今後の米朝交渉は相当厳しいものになるであろうし、米朝関係がより緊迫する恐れもある。

 しかし、韓国政府が北朝鮮から受け取ったメッセージは全く異なるものである。

 北朝鮮は超大型放射砲、新型戦術ミサイル、中長距離巡航ミサイルなどに言及し、韓国に軍事的圧迫を加えた。その一方で「南朝鮮当局の態度によって、いくらでも近いうちに北南関係が3年前の春のように、すべての同胞が念願するような平和と繁栄の新しい出発点に戻ることができるだろう」とも述べたのだ。

 韓国の統一部では、これは「南北関係改善の可能性を示唆した」ものであり、「わが政府の立場と態度によって南北関係再開の速度と程度が変わると主張した」ものであると分析した。

 さらに、韓国の政府機関・民主平和統一諮問会議の首席副部長で元統一部長官の丁世鉉(チョン・セヒョン)氏も「強対強、善対善の原則で米国を相手にする」との方針を示した金正恩委員長の対米発言について「要するに助けてほしいというメッセージだ」との見方を示した。つまり「米国が誠意を示せば北朝鮮は再び対話に乗り出すというシグナルだ」と受け止めているのだ。

 韓国政府は、昨年から東京オリンピックを契機に日米南北の首脳会談を行うことを提案し日本政府に働きかけている。北朝鮮との対話を重視する姿勢は変わらず、北朝鮮が何を言おうと結論をその方向に導こうとするのは相変わらずである。

 北朝鮮朝鮮労働党大会でも非核化意思を見せず、韓国への軍事的威圧を増している中、14日に韓国の李仁栄(イ・イニョン)統一部長官は、離散家族実態調査や非武装地帯(DMZ)平和統一文化空間第1段階造成などの事業に、南北協力交流基金から271ウォン(約26億円)の支援をおこなうことを決定した。北朝鮮との対話を進め、実質的支援の道を模索する意図が見え見えの決定だ。

 これに対して国内から、北朝鮮が9日に党規約を改正して祖国統一闘争課題を「国防力強化」と規定したわずか5日後に271ウォンにのぼる基金支出計画を決定したのは時期的に不適切、との批判も上がっている。

 さらに北朝鮮も、「防疫、人道主義的協力、個別観光」は「非本質的問題」だとしており、今回の支援決定が南北融和に効果を発揮するとは考えにくい。それでも文政権は、北朝鮮に対するより踏み込んだ支援に乗り出したい考えを捨てることはない。

 そのため韓国政府はバイデン政権に対しても、「北朝鮮との非核化交渉を進めるためには、南北協力や制裁の緩和が必要だ」と働きかける可能性がある。そうなれば、非核化交渉の進展を前提に北朝鮮と交渉する米国とは対立する。米国がこれに応えなかったとき、韓国が北朝鮮に対して一方的な行動、隠れて不適切な行動に出るようなことがあれば、米韓関係は北朝鮮の核問題をめぐり今年重要な局面を迎える可能性がある。

バイデン政権は「ビラ散布禁止法」にどれほど強い姿勢を示すか

 次に韓国が定めた北朝鮮に対するビラ散布禁止法について見てみよう。

 米議会では、トム・ラントス人権委員会が「韓国政府による『対北朝鮮ビラ散布禁止法』は人権や表現の自由を侵害している」として、今月中の聴聞会を予告している。同委員会は過去12年間に北朝鮮関連の4回をはじめ、人権侵害を追及する聴聞会を144回開催したが、OECD加盟国の中で対象となったのはメキシコくらいである。韓国が取り上げられるのは、「人権派」を装う文在寅氏としては心外であろう。韓国は「南北関係の特殊性」という論理で聴聞会を阻止すべく必死で働きかけをしているが、米議会にこれを撤回する動きは見えない。

 しかし韓国のビラ散布禁止法は、韓国政府の傘下機関ですら違憲の可能性を指摘しており、国際社会でも同法が「市民的及び政治的人権に関する国際規約」に反するものだというのが一般的解釈である。潘基文(パン・ギムン)前国連事務総長も韓国政府を弁護することなく、「北朝鮮の要求に屈した反人権法として国際社会から非難を招いている」、「適切な措置によって修正されなければならない」と戒めているほどだ。

 文在寅大統領は、人権派弁護士の出身である。それなのに、北朝鮮の問題になると北朝鮮の立場で考え、擁護する。人権弾圧や三代世襲、核開発まで擁護するのだから話にならない。

 そんな感覚を持つ文政権だから、国際社会の反発は予想していなかったようである。政府与党は、批判されてから慌てて「同盟国に対する礼儀でない」、「米国が人権問題で説教できる立場か」とキレ気味に反発しているのだが、これは逆効果だろう。それで米国側の姿勢がトーンダウンするとは思えない。むしろより厳しい姿勢で人権侵害を追及されるのではないか。

 もしもラントス委員会から厳しい指摘がなされれば、それは人権を重視する民主党バイデン政権にとっても重点事項となるだろう。韓国はますます厳しい立場に追い込まれる。

 文在寅政権は、国内でいかに批判されようと強硬策で突破してきた。同じ感覚で国際社会に対しても臨もうとすれば、手痛いしっぺ返しを受けるであろう。文政権の体質と言ってしまえばそれまでだが、国内的に行っている反民主的行為は国際社会では通用しない。そのことを身をもって感じるしかないだろう。

 トランプ大統領の非民主的言動に手を焼き、批判してきたバイデン氏だけに、文政権の「非民主的行動」を容認することはないだろう。

米中を両てんびんにかける韓国、それを許さぬ米国

 3つ目は日米豪印4カ国のクアッドに協力する意思があるかどうかだ。

 昨年10月、東京で開かれた日米豪印4カ国外相会議に出席した米国のポンペオ国務長官は、その後に予定されていた韓国訪問を直前になって取りやめた。これは米国を中心とする対中包囲網に参加することに韓国が躊躇しているからである、と韓国では言われている。

 韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官は、昨年9月25日に米国の非営利団体「アジア・ソサエティ」主催のテレビ会議でクアッドに参加する意向があるか尋ねられ、「他国の利益を自動的に排除するいかなることも、良いアイディアではないと考える」と述べ、「韓国はクアッド・プラスに招待されていない」と否定的な考えを述べていた。

 さらに、昨年10月、李秀赫(イ・スヒョク)駐米韓国大使は「韓国が70年前に米国を選んだからと言って、これからの70年間も米国を選ぶという訳ではない」と述べた。駐米大使がこのような発言をすれば任国と極めて気まずくなる。米国務省も直ちに米韓同盟の重要性を指摘してこれに反発している。

 このように、韓国は米中対立が激化する中にあっても、同盟国である米国に近い姿勢を取ることを拒否し続けてきた。「安保は米国、経済は中国」として、米中の間で中立的な立場を堅持してきたのだ。

 しかし、バイデン氏は民主主義国の協力によって中露に対峙していこうと考えている。そのための首脳会談も開催する方向だ。その時、韓国だけが、米中の間で中立を維持することは許されないだろう。

 バイデン氏は、昨年11月大統領との電話会談で「韓国がインド太平洋地域の安全保障の中核だ」との認識を示したうえで「北朝鮮の核問題で緊密に協力していく」と述べた。韓国には「米国か中国か、どちらを選ぶか」ではなく、インド太平洋の安保に関して米国と協力するように求めたものであろう。

 バイデン氏は、トランプ氏よりも強力に韓国が米韓同盟を重視するよう求めてくるはずだ。その時の文在寅大統領の対応如何では、米韓同盟が弱体化することになりかねない。

日韓関係の改善を望みだした文政権、その裏の意図

 最後が、日米間の同盟関係の前提となる、日韓関係についてだ。

 2015年日韓合意、いわゆる慰安婦合意の実現には米国が大きな役割を果たした。当時、オバマ政権の副大統領だったバイデン氏も日韓を歴訪し、朴槿恵パク・クネ大統領に日米韓首脳会談への参加を促した。そして、オバマ大統領の仲介により3カ国首脳会談が実現した。日韓交渉の過程でも双方の譲歩を促した。こうした経緯もあり、バイデン氏はこの合意を評価している。

 今度は大統領となるバイデン氏としても、これから東アジアで対中包囲網を形成していくためには日米韓の協力体制がその中核となるべきだと考えるだろうし、日米豪印のクアッドも本来ならその延長線上にあるはずだ。少なくとも、韓国がクアッドに対峙するような立場をとることは絶対に容認できない。そのためにも日韓の関係改善は、米国としても実現したい課題だろう。

 しかし、韓国は相変わらず「反日」で突っ走っている。今年に入ってからも1月8日ソウル中央地裁で行われていた慰安婦訴訟で、国際慣例法となっている日本政府の主権免除を認めず、日本政府の元慰安婦に対する反人道的行為を糾弾する判決が出た。

 文大統領は14日、冨田浩司日本大使から離任挨拶を受けた席で「韓日両国は最も近い隣国であり、北東アジア世界平和・繁栄のために共に歩んでいかなければならない最も重要なパートナー」だと述べた。対日姿勢の軟化は感じられたが、それでも元徴用工の問題や慰安婦裁判については言及しなかった。

 遅ればせながら文大統領は、18日の年頭記者会見で、8日の判決について「正直混乱している」と述べた。文氏は2015年の合意が政府間の公式合意であったことを認め、「(合意を土台にして)ハルモニ(おばあさん)たちも同意できる解決方法を探していけるよう、韓日間で協議していく」と述べた。また徴用工についても、強制執行によって日本企業の資産が現金化される事態は「望ましくない」との考えを示した。

 こうした発言は半年前の文在統領からは出てこなかったかもしれない。今回は韓国側の過ちを認めたという点で一歩前進と評価できる。

 しかし、これらの問題は解決済みであり、日本が再び交渉するものではない。自ら問題を作り上げて、後始末に日本の協力を求められても困るのである。日本としても韓国との関係改善は進めたいところだが、この点で日本から妥協することは絶対にできない。

 昨年秋以降、文大統領から「日韓関係を改善させたい」との意向は様々な形で伝えられてきた。しかし、文在寅氏のこれまでの言動から推察するに、これは「北朝鮮を対話に引き戻すため日本の協力が必要だ」との考えから出てきた発想であろうし、本気で日韓関係改善を思っているのかどうか、まだ疑問が残る。

文大統領、いい加減に現実に根差した政権運営をすべき

 韓国は米国に対し、「日韓関係修復に努力しているが、日本が応じていない」と説明するであろう。しかし、過去の日韓合意に至る経緯も熟知しているバイデン氏は、慰安婦合意が無視されたことで韓国への本当の意味での信頼は寄せていないだろう。それでも日本からはバイデン氏に対し、「韓国が言っていることは問題の再提起であり、日本としては絶対に呑めない」と明確に伝える必要がある。

 韓国は日韓関係がこじれると、日本の悪口を言いふらし、米国を味方に引き入れる「告げ口外交」を展開してきた。その手法が通じなくなり、米国が日本支持に回れば韓国にとっては痛手となる。現在のところ、「日米韓」の協力体制を作るためには、米国がいかに韓国を上手に導けるかがカギとなる。日本としてはその点を米国に理解してもらうことが出発点となろう。

 韓国が国益を重視する外交を行っていれば、今とは異なった状況となっていたはずだ。しかし、韓国は国益よりも、中朝に近い理念重視の外交を展開してきた。その手法も、国内で通用した強引なやり方を外交の場に持ち込もうとしている。そんな振る舞いを、バイデン政権は許さない。文在寅大統領が、自分の頭の中でこしらえた理念と手法にこだわり続ける限り、米国との関係がうまくいくはずがない。もうそろそろ文在寅大統領もその現実を理解すべき時だろう。

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