1 トランプ大統領の退場

 2020年米国大統領選挙は、トランプ対反トランプの戦いの中で、主流メディアの圧倒的支援を受けた民主党ジョー・バイデン氏が大統領の椅子を獲得することになった。

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 今回の大統領選挙の経過と結果を見て一番高笑いしたのは中国であろう。

 新型コロナウイルス感染症と疑惑の選挙介入により筆頭の敵、トランプ氏を沈めることができ、米国を相互不信の渦の中に落とし込めたからである。

 これを陰謀論で片付けて思考停止してはいけない。少なくとも中国マネーが共和党民主党にかかわらず蔓延していることが浮き彫りになり、どこまで広がっているのか見当もつかないほどであるからだ。

 放置していると今回の米国のように国家が分裂してしまう恐れがある。よくよく日本も米国と同じように中国の侵略が進んでいないか検証が必要だろう。

 そして、後述するが、戦争ビジネスという姿も浮き彫りになり、ディープステート(闇の支配層)と大統領の2重構造が日本の防衛にも大きな影響を及ぼすことも見えてきた。

 選挙については、民主主義の根幹である1人1票の投票行為が正しく守られたのかの検証を超党派で検証してはどうだろうか。米国の価値観そのものに及ぼす影響は極めて大きいので、うやむやにしてはいけないのではないだろうか。

2 米国はバイデン氏ではなく極左ハリス氏を大統領に選んだ自覚はあるか

(1)トランプ大統領出現の意義

 トランプ大統領の任期は4年であったが、その意味は大きい。

 そして、選挙に不正疑惑があったにもかかわらず、7500万人以上の票を得たことは、4年間の成果が評価された証であろう。

 もし、4年前にトランプ氏が大統領にならなかったならば、恐らくヒラリー・クリントンバラク・オバマ氏が仕込んだグローバリズムの名の下の新共産主義革命は、静かに米国を支配していたであろう。

 その流れを断ち、自国を強化するナショナリズムを発揚し中共を新たな脅威と認定して、あらゆる手段を尽くしたトランプ大統領の出現で、少なくとも半数の米国人が「米国の繁栄」を実感し「真の敵、中共」に覚醒したことの意義は極めて大きい。

 トランプ大統領の成果をまとめると

中国共産党を専制独裁として自由主義国家に対する挑戦と見抜き、対中国包囲戦略を策定・実行したこと、そして台湾独立の道筋を付けたこと

②減税による経済の回復、企業の米国回帰の流れを作ったこと

③米国第1主義を掲げナショナリズムと愛国心を高め米国の伝統的価値を復活させようとしたこと

 が挙げられよう。確かに③は真っ向からグローバリズム国際機関などに対する挑戦になっただろうが、国家が疲弊し、中国支配が世界を覆う中での政策としては的を射ていただろう。

 ただし、中国の国際機関などへの浸透を強めたことは誤算だった。

 それでも、今後の強き良き米国の復活に向けたコアな米国人が出現したことの意義は大きいだろう。

 その分、富と権力を欲しいままにしてきた、ディープステートと考えられる一部の既得権益層、グローバリストや人類運命共同体を掲げる中国共産党にとってトランプ大統領の出現は大きな災いであった。

 グローバリストや既得権益層、そして中国共産党は、目的が違っても当面は協調・共闘する同じ穴の狢(むじな)だということだ。

 その力が反トランプ勢力として結集され、なりふり構わずトランプ大統領を引きずり降ろすことに繋がったのであろう。

(2)引きずり降ろされた米国と不安定な多極化の時代

 今回、民主党政権でオバマ大統領の政策が復活する。しかし、バイデン氏は健康上の問題やウクライナ・中国疑惑があり、短命ですぐにカマラ・ハリス氏が大統領になる可能性が大きいだろう。

 その場合、安全保障など縁がなかったハリス氏は、中国やその他の世界の指導者に軽んじられ、米国の覇権力は低下し、左翼に引きずられた極端な社会主義政策で国内はさらに活力を失うだろう。

 既得権益層などにとっては、米国の力を削ぎ、他国に対して横暴なふるまいをしないハリス氏が本命だったということだ。

 バイデン政権下で、たとえトランプ大統領の対中強硬路線の一部を支持するキャンベル氏がNSC(国家安全保障会議)のインド太平洋調整官になったとしても、中国に対して弱みを持つバイデン氏は、結果的に決断力に欠けた対中宥和政策に傾くだろう。

 台湾との関係は今後どうなるのか注視する必要があるが、トランプ政権のようにはいかないだろう。

 また既に「自由で開かれた」インド太平洋を「安全で繁栄した」インド太平洋と変更しており、自由主義国家の連合という趣旨を外れ、中国に対して扉を開いたと言われても仕方がないであろう。

 トランプ大統領ドイツ、中東から兵力を太平洋正面へ転用しようとする計画も中止になるだろう。

 実際にオバマ大統領時代にあったことだが、親中派の指揮官を軍の主要ポスト付けるのではないかという危惧もある。

 またロシアを敵とするバイデン氏の考えは、結局ロシアを中国との共闘に押しやることになる。

 北朝鮮ですら「バイデン何するものぞ」とばかりに、北朝鮮の主敵は米国だと宣言してしまった。

 弱い指導者が米国大統領になると戦争の危険は増すということである。

 こんな中、バイデン氏は最低賃金の引き上げなどを含む大規模経済政策を実行し、環境などへの出資を拡大し、結果、増税と国防費の削減に踏み込む危険性が大きい。

 結局、中露などが画策してきた「米国の弱体化による不安定な多極化の時代」に入ることになるだろう。

3 陰謀論か?ディープステートと称される既得権益層の冷たい世界観

(1)「The Great Reset(大いなるリセット)」の落とし穴

 ディープステートと称される一部の既得権益層は闇の権力者とも呼ばれている。実態はあるが表には出ない。

 そして、金融と戦争ビジネス、そして一部の富を持った権力者のためにグローバリズムの名を借りた無国籍のフラット化された社会構造を追求する。

 今回の選挙を通じて、少なくとも米中協調・共闘の筆頭であったディープステートの頭が見えたのは事実である。

 例えば、中国人民大学国際関係学院副院長の翟東昇氏はインターネットで、「中共が数十年にわたりウオールストリートを利用して米国を打ち負かしてきたが、トランプになってできなくなった」「中共はハンターバイデンが世界にファンド会社を作るのを支援した」と暴露したことである。

 そこに彼らの姿の一端が見えている。

 ダボス会議はその象徴であり、今年は5月に開催が予定されている。

 その主題は、「The Great Reset」すなわち、自国も他国も強くするナショナリズムを追求したトランプ主義との決別ということだろう。

 その中身は

①環境への取り組み
デジタル技術改革
③貧富の差の解消

 一見すれば真っ当にみえるが、実態は共産主義の形を変えた姿である。

 日本に当てはめてみればよく分かる。多国間主義の理想を夢見る日本はグローバリストの思う壺である。

 ①の環境への取り組みでは、極寒を迎えた電力の逼迫状況を見ればすぐに分かる。原因は、太陽光、風力発電に期待できないからだ。

 太陽・風力は気まぐれ発電である為、火力発電をフル稼働しながらそれで補わなければならない。その負担は消費者が負うことになるし、化石燃料は減らない。

 こんな世界を拡大しようというのだから、正しい選択とは言えないだろう。

 さらに、政府は炭素税を考え、さらに日中の産学官で脱炭素を目指すという。これでは、結局、経済の血液である電力は中国に支配され、日本人は増々貧乏になるだけである。

 ②は単なるパソコンの普及の問題ではない。この取り組みを間違えると国家による監視・統制社会になってしまう。

 通信セキュリティーの向上と国内外のサイバー攻撃に対する、罰則を含む徹底した管理ができなければ危険なシステムとなるだろう。

 さらに、米国のGAFAのように民間の企業でありながら自らの基準で通信を遮断したり、中国などの発信には何の統制もせず、反対派のアカウントを永久停止したりすることは論の自由があるとは言えない。

 それを一企業が言論の優劣を判断することはデジタル全体主義であり、デジタル社会の悲劇である。

 経団連は、そのGAFAや中国のバイトダンスを入会させた。米国の今回の悲劇は日本でも起きるということだ。

 中国のような国家による完全な監視・統制社会にならない制度の確立が優先されなければならない。

 さらに、国境のないフラット化社会の中で某車両メーカーのように、中国でスマートシティを実験するといっているが、これは中国において軍事転用されロボット軍隊の管理システムへと変貌するだろう。

 国家の概念がなく、中国に対する脅威認識がなくなるとこんな事態に陥ることも気が付かない。

 ③は詳しく述べないが、コロナや長期のデフレにもかかわらず、最低賃金の引き上げなど聞こえの良い政策や、国が働き方まで口出すことなどはまさに社会主義国家である。

 左翼に引っ張られるバイデン氏も同じことを言っている。

 我々の理想は、頑張ったものが報われ、結果ではなく機会の平等を与えられることだ。

 この「The Great Reset」の行きつく先は、皆が貧乏になり、無国籍のフラット化されロボット化された人間の集団を富と権限を持った一部が治めるという世界デジタル共産革命である。

 その支配は中共の恐怖と暴力が手本になるだろう。なぜなら、そこでは、人間としての理想も夢も自由も国家としての繁栄も必要ないからだ。

 少なくとも日本が追求するものは、今米国で展開されている新共産主義革命に同調することではなく、コロナと長期デフレに苦しむ日本人を救う企業の国内回帰であり、中国に同化されない真のナショナリズムと愛国心に満ちた国家・国民の形成と自衛力の強化、自衛隊の国防軍化である。

 まさにトランプ大統領の米国第一主義の精神が必要である。

(2)ディープステートに助けられた中国

 ディープステートにとって、戦争はビジネスであり、コロナビジネスである。そして、そこには善も悪もなく、敵味方もない。

 悲嘆に苦しむ人間への憐れみもない。一言で言ってしまえば、損得だけである。そして全体を仕切る権力と富があればそれでいい。

 南北戦争日露戦争、世界大戦などにおいて敵味方に関係なく両者に支援を惜しまなかったのは歴史上の事実である。

 そう考えれば、米国に投資し、世界に広がる中国は、敵ではなくビジネスパートナーでしかない。

 中国が人類運命共同体と叫ぼうが、ディープステート(特にロックフェラー系)に楯突かなければ問題ない。

 太平洋を2つに割っても米国に攻め込まなければ構わないだろう。ずいぶんとドライだが、そう考える世界があるだろうということだが、日本など第1列島線にある国々にとっては耐えられない状況だ。

 従って、日本や第1列島線にある国々は、はっきりとした国家意思を持ち、自らの国を自ら守る意思と能力を持たねば、米中の経済的な草刈り場になり、単なる米中の戦場になってしまう。

 事実、2016年バイデン大統領(当時)は習近平総書記に会った際、米中が連携しなければ日本が核兵器を持ってしまうという内容が報道された。基本的に米中協調なのだろう。

 日本は米中を天秤にかけているつもりだったのが、知らぬ間に米中に無視されていることを恐れなければならない。

 そうなると、

①お金で操れないトランプは邪魔だったが、バイデン、ハリス、院政を敷くだろうオバマ氏など、そしてメディアは彼らの操り人形でしかない。

②今、中国を経済的、軍事的に潰すのは得策ではない。

③同盟国などに高額の装備品を買わせ、長期戦で金儲けを図る。時に中国にも高性能装備を提供する。

 ということになろう。

 一方、大統領選挙では、米国民の半数がトランプ氏を支持した。また、米国内の混乱とは裏腹に、米国の軍事力は依然として世界一であると同時に、米国軍人の愛国心、反共魂は健在であろうことは大きな救いである。

(3)米国の作戦戦略はどうなる?

 米国における最初の対中戦略は2010年にCSBA(戦略予算評価センター)が提示した「エアシーバトル」という海空軍主体の作戦戦略であった。

 2016年にかけて変遷があったが、その中核となる考えは次の3つであった。

(当初、海空軍は中国のミサイル攻撃を回避するためにグアム以東に避退する)

①同盟国のネットワークにより中国の攻撃を拒否し防御する(第1列島線は同盟国が守れ)。

②経済封鎖で長引かせ長期戦で疲弊させる。

③懲罰を科す(中国本土への攻撃は核戦争を誘発する恐れがあるので、打撃能力は保持するが、発動は慎重に大統領決心)。

 筆者を含む日本からの訪米調査団とCSBAとの協議でこれを提示された際、米国が中国本土を早期に攻撃しなければ、長期戦になり、第1列島線の国々の中で長期戦に耐えられる国はないと反論したが、米陸軍が前方展開することを拒否しているので仕方がないとの返事だった。

 しかし、2019年に新たにCSBAから提示された「海洋圧迫戦略」においてこの疑問は以下のように解決されていた。

 これはオブライエン大統領補佐官が2018年2月にまとめた機密文書「自由で開かれたインド太平洋」戦略の内容と軌を一にするものである。

①中国の奇襲的侵攻による既成事実化を排除。

②第1列島線に米陸軍・海兵隊を展開し精密打撃ネットワークを構築すると共に、海空軍を機動的に運用し、長射程対艦ミサイル潜水艦などで中国艦隊を撃滅する。

③懲罰として中国本土へも攻撃(エアシーバトルと同じ考え)。

 この構想は、明確に言われてはいないが、短期決戦型の戦略と言える。しかし、この戦略も、泣き所は米陸軍・海兵隊は常駐するのではなく、緊急展開することが基本となっているために、米政府の考え方一つで、長期戦になる危険性を含んでいることに注意する必要がある。

 米国には、元々前方展開するこのような積極的な考え方から、第1列島線への関与は最小限にして、経済封鎖を主体に考える「オフショアコントロール」という後退した考えもあることに留意する必要がある。

 すなわち、今まで以上に日本は米軍を日本などに展開させる努力をしないと、米軍はリスクのある前方展開に踏み切らないかもしれないと考えるべきだろう。

 ここにバイデン大統領が本気で中国と戦う意思があるのか、決断力があるのかどうかが試されることになる。

 さらに、これがバイデン氏の後継としてカマラ・ハリス大統領になると一層不安である。

 その上、これに制御不能なディープステートの意思が働くと、米国が中国と戦うのかどうかの不確実性が増すだろう。

4 日本の進むべき道

(1)米国の何を信じるのか?

 米国の中国への対応は、軍事のみならず、貿易に始まり、人の流れ、経済交流や制裁の発動など多岐にわたっている。

 また、2019年3月には米国連邦議会において超党派で「現在の敵:中国」を設置し、そこでは「最終的に共産主義体制の性格から生じる問題に対処し、残酷な全体主義の支配を許さない」としていることから、ただちに親中路線へ舵を切る事はないだろう。

 一方で、今回の選挙で明確になったのは、民主党共和党にかかわらず、中国マネーが蔓延していること、バイデン政権によるトランプ大統領の政策崩しが始まるだろうから大きな不安は付きまとう。

 また、主流メディアは左翼であることを隠すことなく、情報の選択を始めたことから、1~2年後に米国の反中共意識が揺がないか不安である。

 国民の保守本流の立ち直りには時間がかかるであろうが、一方、先に述べたように米軍は世界一の実力を保有し、軍人も政治に左右されることなく愛国心と対中意識は健在であることを信じ、日米の信頼関係を日本が主導して向上させなければならない。

 米海軍は、2019年6月に対テロ戦を終了し、再び冷戦時のユニオンジャック旗を掲げ、海洋覇権を守る戦いに転じた。

 さらに、海洋圧迫戦略にあるように、中国艦隊撃滅を全軍の旗印として、陸海空・海兵隊の持つあらゆる装備に長射程対艦ミサイルの導入を図っている最中である。

 さらに、INF条約の破棄に伴い、中距離弾道弾を開発しており、近いうちに第1列島線に展開する米陸軍も装備化を始めるだろう。

 さらに、海軍と海兵隊2021年に複数の空母打撃群や複数の海兵隊両用即応群を含む大規模演習2021を太平洋で実施する。恐らく陸軍も2020年実施を延期している第1列島線へ展開する大規模演習「Defender Pacific」を同時に実施するだろう。

 日本は、これらの流れを加速しても止めることがあってはならない。

(2)中国はどう動く?

 今回、もし、中国が米国の左翼・民主党の後ろ盾として大統領選挙に介入していたならば、2021年中国共産党設立100周年記念の最大の成果として祝杯を挙げているだろう。

 中国は2017年中国共産党大会で、中華民族の偉大な復興の下に人類運命共同体を構築するとして、2035年までに西太平洋の軍事的覇権を握り、2049年の中華人民共和国創設100周年までに世界覇権を握るとしていたが、恐らくその時程は縮まったと考えているだろう。

 さらにバイデン大統領、ましてやカマラ・ハリス大統領などは敵ではないと笑っているだろう。

 そのような中で、中国は2027年中国人民解放軍100周年を新たな目標に据え、今がチャンスと見て南・東シナ海の支配権の確立を急ぐだろう。

 2022年は、習総書記が3期目を目指す年であり、勇ましい成果を望んでいるかもしれないが、一方、同年は北京冬季オリンピックの年でもあり、世界に対する覇権国家としての友好と中国の力の誇示の両方を示さなければならない。

 さらに、今年1年は米軍の戦う意思と能力を探るために軍事行動を積極的に実施するだろう。この為、西太平洋へ頻繁に進出すると共に、東・南シナ海のみならず日本海へも頻繁に進出するだろう。

 この際、尖閣や宮古島などの八重山諸島に対して、海上民兵やドローンなどを使って軍事的冒険を試みると共に、台湾の東沙への軍事的圧力、金門島や太平島の経済封鎖、澎湖諸島へのアプローチを強めるなど日本と台湾に大きな圧力を加えていくことも想定しておかなければならない。

 本格的軍事行動は2022年以降かもしれないが、偶発的衝突からエスカレートする事案を考慮すると、第1列島線沿いは戦争の危険水域に入ったといえる。

 習近平総書記は米国が弱体化した今がチャンスと見て、3期目の終わりの2027年までには、日本、台湾、フィリピンさらには韓国などの国々を米国から離反させ、無血開城させるか、軍事行動により第1列島線を「障害」から「出城」に変えるという計画を前倒しすると考えるべきだろう。

 中国の経済力が落ちても戦争の危険は返って増す事から、中国の軍事力の行使の危険は待ったなしである。

(3)日本は?

 残念ながら日本はトランプ大統領の間に、本格的な防衛力を築いていなければならなかったのだが、米国の衰退を目の当たりにしても自立する動きはない。

 日本は、「自由で開かれたインド太平洋」を真っ先に掲げながら、バイデン氏から「安全で繁栄したインド太平洋」とあたかも中国を容認するような発言をされた。

 今後その真意を確認しなければならないが、しなかった場合は、自由で開かれた自由主義連合で中国に立ち向かうという理念を捨てたと言われても仕方があるまい。

 さらに、首相は「アジア太平洋NATOは反中包囲網になる」からとして、これを否定してしまったが、それはバイデン氏と同じく中国に膝を屈するということではないのか。

 そんな考えでは、米軍は日本と共に戦わないだろう。

 その根底は脅威認識である。

 米国は2020年7月のマイク・ポンペオ国務長官の演説にあるように、「中共は専制独裁の国家であり、習総書記は破綻した全体主義思想の信奉者である」「中国共産党から自由を守る事は私たちの時代の使命だ。世界各国は自由と専制のどちらかを選択すべきだ」と述べているが、まさにその覚悟が要求されよう。

 確かに今の米国は新たな共産主義の潮流にのみ込まれつつあるが、国民の半数や米軍の大半はポンペオ国務長官と同じ考えであろう。

 日本は読み間違えてはならない。

 たとえバイデン氏やハリス氏が左翼でも、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長らが声明で「軍人は米国の価値と理想を体現しなくてはならない」と強調したように、米軍は保守本流だ。

 従って日本は、崩れかかっている米国の支柱になる覚悟が必要だ。

 日本が目覚めるかどうかは分からないが、中国共産党との戦いは「専制独裁の非人間世界」と「人間の尊厳と自由を尊ぶ人間世界」との戦いである。

 そして今、現実として米国の衰退を目にし、中国の軍事的台頭を目にした時に日本の取るべき選択肢は2つある。

 一つは米国を盛り立て、自由と民主主義の旗を支え、アジアや世界の諸国のために米国やアジア諸国、ヨーロッパ諸国の専制独裁に立ち上がる自由主義国家連合の核心となるか。

 もう一つは、中国の運命共同体の一員となり、中国の先兵として米国に立ち向かうかである。これは極論ではなく必然の選択である。

 日本の選択は自由主義国の核心となることしかないのではないだろうか。それは与えられる自由ではなく、勝ち取る自由である。

 日本は、米国の陰に隠れ庇護してもらう時代は終わった。今度は日本が引っ張る番だと覚醒しなければならないだろう。日本はそもそも誇り高い高潔な民族ではなかったのか。

 今やるべきことは、第1に米国は混乱していても、米軍は世界一であることから、オブライエン大統領補佐官が機密解除された「インド太平洋戦略」(実質は海洋圧迫戦略と同じである)として公表した戦略を成り立たせるために、第1列島線の国々の先頭に立ち、開かれた自由主義国連合の理念を同じくする同盟国や友好国とリスクと、責任を共有できる真の独立国となるべく自己変革することが強く求められる。

 理想とするインド太平洋構想の絵姿は、三重の包囲環による中国の封印である。

(細部は2020年11月2日、JBPress、「始動、中国の息の根を止める三重の包囲環構想」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62730参照)

 その第1の包囲環は、米国、インド、英国、仏国そしてロシアによる核の包囲環の形成である(参考1参照)。

 しかしながら、今回のバイデン氏のロシア敵視政策からロシアは中国に加担するだろう。包囲環の大きな一手の喪失である。

 第2の包囲環は、長射程対艦ミサイル潜水艦で中国艦隊を撃滅する包囲環である(参考2参照)。

 日本も陸海空自衛隊で共通の長射程対艦ミサイルを開発・装備化を決めたことから、日米台間の連携は強化されるであろう。

 特に台湾は米国の対艦ミサイルや防空ミサイルなどをシステムで購入することから、米台の作戦の統一は進むだろう。

 そして、日米と日台は、米国がハブになることにより日米台の作戦連携は深まるだろう。この包囲環は、日本、米国、台湾、フィリピン(実態は米軍が展開)そしてベトナムへの包囲環として繋がり、これにより東・南シナ海の全域を射程圏に収めることが可能となる。これに、日米に加えインド、豪州の潜水艦が加わる事になるだろう。

 第3の包囲環は、第2列島線からマラッカ海峡にかけての経済封鎖の包囲環である(参考3参照)。

 これには、インド、豪州、英国、仏国がマラッカ海峡などの3海峡を封鎖し、日米が太平洋側を封鎖することになろう。

 こうした三重の包囲環をもって中国を軍事的・経済的に封印し、中国の軍事的冒険の意図を断念させるのが目的である。しかしながら、その中核である米国の衰退と対中意識の変化がどのようにこの戦略に影響を与えるかは未知数である。

 しかし、この厳しい環境の中では、第1に自国の防衛は自国で出来るようにしなければならず、日米同盟はあくまでそれを補完するものである。そのため、

①平時の防衛力整備の基盤的防衛力の考え方を廃止し、脅威に対抗する防衛力の考え方にシフトすることが肝要である。このため、防衛費は少なくとも5年間は3~5倍に引き上げなければならない。

②中国の大規模な軍事力に対抗するには、対称戦力での対抗というよりも、非対称戦力での対抗に切り替えること、すなわち、艦艇に対して長射程対艦ミサイルで、ミサイルには電磁波でという考え方が重要である。

③憲法を改正して自衛隊を国防軍にすることにより、米国依存の甘えを捨て去り、米国や他国の足かせにならないようにすると共に、必要最小限の武力行使という警察権限の延長の考え方を廃止し、牛刀をもって鶏頭を断つ本来の軍隊の考え方に改めることが必要である。

 第2に米軍の日本を含む第1列島線への展開を全力で支援できる体制を作り上げることである。このため

①第1列島線や日本に展開する米陸軍・海兵隊の行動を支持すると共に、最大限の支援を実施する。この際、中国の国内撹乱に連携したハイブリッド戦に打ち勝つ。

②第1列島線に展開する米陸軍・海兵隊による核抑止力を強化すること、即ち非核三原則の核を持ち込ませない政策は直ちに廃止。

 さらに非核三原則そのものを廃止し、小型核兵器のよる地中のミサイル基地攻撃を容認。また小型核によるEMP(電磁波)攻撃を容認すること。

③国民と米軍を守るために、ミサイル防衛は従来のミサイルを発展させると共に、サイバー電磁波領域を発展させて、独自かつ非対称のミサイル防衛網を構築する。

④米空軍が第1列島線や日本に展開して作戦が出来るよう、すべての民間空港を日米共同訓練で使用し、弾薬・燃料等を備蓄。

種子島の馬毛島を自衛隊の基地及び米空母艦載機の離発着訓練で使用

 など、国民を防護しつつ出来得る限りの対米支援を実施し、その前方展開を促進することが必須である。

 そして、こんな困難な状況にあるからこそ台湾との一体化を図らねばならないだろう。

5 暗黒の世界の出口はあるか

 これまで見てきたように、米国の混乱により米国の価値観、指導力などの覇権の力が揺らいでいることを極めて厳しい現実として受け止めなければならないだろう。

 そして、中国の台頭は日本の危機でもある。

 世界的にグローバリズムや多国間主義の名の下に、新たな共産主義思想が世界を蔓延していく様を見ていると、こうやって暗黒時代は始まるのだろうと考えさせられてしまう。

 米国の実情や日本の生き様を色々と分析してきたが、今の日本の状態では中国にのみ込まれずに、米国や台湾と共に自由主義連合を発展させていくことは極めて困難だろう。

 残念ながら、長期間のデフレで日本の国力が衰退する中で、コロナで傷つき、米国という拠り所が揺らぐ状況は、これまで独力で生きていく準備をしてこなかった日本にとって最悪の事態である。

 どのようにして打開していくのか、速やかに生き様を決めなくてはいけない。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  バイデン政権、中国の脅威に備えアジア版NATO構想

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