今シーズンの大学サッカーは、新型コロナの影響で夏の総理大臣杯、冬の全日本大学選手権(インカレ)が中止に追い込まれた。その代わりに、今年限定の大会として「サッカーができる当たり前」に感謝をこめて#atarimaeni CUPが1月6日に開幕した。

全国各地の大学32チームがトーナメントで争った同大会は1月21日に準決勝2試合を行い、法政大が早稲田大を2-0で下して23日の決勝戦に進出。リーグ戦は4位に終わった法政大だが、17年の総理大臣杯優勝、18年のインカレ優勝、19年の総理大臣杯準優勝と4年連続して全国大会の決勝戦に進出し、カップ戦に強いところを見せた。

決勝で対戦するのは2回戦で優勝候補の本命だった明治大をPK戦で下した東海大だ。神奈川県リーグ所属だが、準決勝でも関東リーグ3位の順天堂大を1-0で下すジャイアントキリング。県リーグ所属の大学が全国大会の決勝戦に勝ち進むのは史上初の快挙だ。

準決勝の2試合を取材した印象は、「法政大が頭1つ抜けている」というのが正直なところ。リーグ戦2位の早稲田大を相手に、前後半ともハーフコートマッチに近いワンサイドゲームからキャプテンの右SB関口が機敏な状況判断で2ゴールを奪った。

関口は卒業後に甲府へ加入し、ゴールを守った身長2メートルのGK中野はすでに昨シーズン、札幌でJ1デビューを果たしている。彼ら以外にもプロに進む選手が総勢8名もいるのだから、ワンサイドゲームになるのも当然だったかもしれない。

前半はリトリートして守備を固め、0-0で折り返し早稲田大だったが、後半になると前線から積極的なプレスを仕掛けた。しかし法政大はそのプレスを個人技とグループ戦術の組み合わせで、いとも簡単にくぐり抜けて攻撃につなげて早稲田大ゴールに迫った。

ただし早稲田大もMF鍬先(長崎に内定)、キャプテンのDF杉山、卒業後は清水に内定している3年生FW加藤を欠くなど必ずしもベストメンバーではなかった。リーグ戦を取材したことのある記者がノートを見ながら、「その時に出ていたのはキーパーとセンターバックとサイドバックの3人だけ」と教えてくれたが、そうだとしたら一方的な展開になったのも致し方ないだろう。

この#atarimaeni CUP、1回戦から3回戦までは非公開で、準決勝と決勝はメディアとスカウトに公開しつつ有観客試合にする予定だった。しかし非常事態宣言により無観客試合になったのは残念だった。

そして第1試合のハーフタイムには懐かしい早稲田サッカー部OBと会った。昨年、京都の強化育成本部長に就任した、元日本代表の加藤久氏である。

加藤氏は「我々の頃とはレベルが違う」と笑いながら長足の進歩を遂げた大学サッカーに驚きながら、「どのチームも似たような選手が多いですね」と正直な感想を漏らした。

昔の早稲田大のサッカーは、「百姓一揆」と揶揄されるロングキック主体のサッカーだった。前線には大型ストライカーを擁し、制空権を握った。古くは釜本邦茂氏に始まり、70~80年代はこの日、取材に訪れていた原君の父である原博実氏(Jリーグチェアマン)や関塚隆氏(元JFAナショナルチームダイレクター)らが活躍した。

しかしプロリーグ誕生により日本サッカー全体が底上げされたこと、人工芝の普及により練習環境が整ったこと、体系的な指導体制が整備されたことなどから選手の技術は飛躍的に向上。どの大学もボールを保持して攻めるスタイルを採用するようになった。

そこで思い出すのが18年のインカレで、上田(鹿島)、紺野(FC東京)を擁して優勝した時の長山監督の言葉だ。彼ら2人をスタメンではなく交代で起用した理由を聞くと、次のような答えが返ってきた。

「上田がいると彼に合わせてロングキックを蹴ってしまう。紺野がドリブルを始めると、みんな彼のドリブルを見て足が止まってしまう」

長山監督の説明を聞いて「なるほど」と思った。2人がいると彼らに頼る、単調な攻撃になってしまうのだろう。

だがしかし、それがストライカーとしての上田と、ドリブラー紺野のスキルを伸ばしたのではないだろうか。

選手の個性、ストロングポイントを伸ばす指導は大事だし、特に長身のGK、CB、FWの育成は喫緊の課題だ。そのためには、例えばロングキック主体のチームがあっていいような気もする。

たぶん簡単には答えが出ない問いかけでもあるだろう。


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