医学書にもない肛門トラブルが増加しています。日本人の「オシリ」、大ピンチに見舞われています。「日本人の3人に1人は痔(じ)である」と言われています。痔ゆえに「温水洗浄便座」で洗うようになったという人も少なくありません。しかし、洗うとかえって、痔が悪化するなどと誰も思わなかったはずです…。

 今回は肛門科医の佐々木みのりさんに「オシリの真実」について伺います。女性の肛門科医は全国に20名弱と非常に少なく、1998年7月に日本で初めて、女医による肛門科女性外来を開設したことでも知られています。近著に「オシリを洗うのはやめなさい」(あさ出版)があります。

 今では、公共のトイレにまで付いている温水洗浄便座。日本を訪れている海外旅行者もトイレ事情に驚いていますが、それほど、日本人はオシリを洗うのが大好き。おそらく、世界で最もオシリを洗っている民族だと、佐々木さんは説明します。日本人は洗いすぎによるオシリのトラブルを抱えているそうですが、その真実とは?

ある患者さんのエピソード

 佐々木さんの診療所には日本各地、海外からの患者さんも多いそうです。しかし、肛門科を訪ねるのは勇気がいること。そのため、すでに楽観的な状況ではないともいいます。

「65歳の女性が1人で来院されました。長年勤めた会社を定年退職したので時間もできたし、人生の区切りとして、思い切って勇気を出して、肛門科を受診しようと思って来たと問診票に書いてありました。出産後、30代くらいから痔があったようですが、恥ずかしくて誰にも相談できなかったようです」(佐々木さん)

「通販で買える痔の薬を家族にも内緒で取り寄せで使い続けていたそうです。幸い、痛みもなく、時々出血するものの大した量ではなく、大丈夫だろうと病院に行きませんでした。新聞広告でも『痔は薬で治せる』と書いてあったし、電話相談でも『使い続けたら治る』と言われていたので、迷うことなく使ってきましたとのことです」

 ところが、症状は改善せず、便を出すときに出血する回数が増えて、下着に血がつくようになります。仕事をしているとなかなか時間が取れず、ようやく今日、来院することができたのです。検査の結果はどうだったのでしょうか。

「彼女は痔の手術を希望されていたのですが、診察、検査をしてみると、彼女のいぼは痔によるものではなく、がんである可能性が高いことが分かりました。当然、細胞の検査をしてみないと最終的な確定診断にはならないのですが、痔とがんの区別は医師であれば、すぐにできます。私は彼女にがんが疑われること、しかも、ほぼ間違いないと確信していること、大きな病院を紹介するから、一刻も早く受診してほしいことを伝えました」

「実はこのようなケースは少なくありません。きっと、私が経験していることは氷山の一角でたくさんあることでしょう。症状が出ていることに気付いているのに病院に行かないなんて、とてももったいないことです。不安が少しでもあるのなら、一度、肛門科を受診して、自分のカラダに起きていることが何かを確かめてください」

 オシリの状態は自分で見ることができません。どんなにネットで情報を調べても、自分の症状を見極めることなどできないと、佐々木さんは警鐘を鳴らしているのです。

「便秘」「痔」について正しく説明できますか

 来院される方の多くが便秘や痔にまつわるご相談をされるようです。ネットでも「オシリのトラブル」と検索すると便秘や痔に関するものが多く見られます。それだけ、悩んでいる人が多いということでしょうか。

「便秘や痔に関して、正しく理解している人が少ないのです。例えば、便秘。便秘は便がなかなか出ないことだと思っていませんか? これも大きな間違いです。便が出ていても、便秘であることは少なくないからです。便秘とは『便を秘めること』。毎日、排便があっても、スッキリ出ずに便が残っていたら便秘なのです」

「オシリのトラブルで受診される方の実に9割は毎日、排便があります。そのため、本人は自分が便秘だなんてまったく思っていません。それどころか『食べるたびに便が出る』『一日に何度も便が出る』と快便自慢をされる方もいらっしゃいます。私が患者さんに、『快便なのに、なんで痔になったと思いますか?』と聞いてみても、正しい答えは返ってきません」

 ネット、メディアにも誤った情報が多いので、正しい情報をキャッチアップしなければいけません。また、最近では温水洗浄便座による弊害が多いようです。「痔だー!」と言って受診した患者さんが「ただの洗い過ぎ」だったという結末も多いとのこと。この機会にオシリの正しい情報を入手してみませんか。

コラムニスト、著述家、明治大学客員研究員 尾藤克之

「痔」に悩んでいませんか?