ヴァージン・グループ飛行機からロケットを打ち上げることに成功しました。このことにより打ち上げの低コスト化と、宇宙ビジネスの活性化が期待されるとのこと。空中発射型ロケット、そのメリットはどこにあるのでしょうか。

ミサイルに非ず! 「ランチャーワン」の快挙とは

2021年1月17日ヴァージンオービット社の空中発射型ロケット、「ランチャーワン」の2度目となる試験飛行が行われました。同機は打ち上げに成功し、10個の超小型衛星(キューブサット)を地球周回軌道に投入しました。これら衛星はNASAのローンチサービスプログラム(新サービス提供計画)によって選定された、アメリカの大学および研究所が開発したものです。

同社はイギリスヴァージン・グループ傘下にある衛星打ち上げ会社で、2017年、有人宇宙旅行ビジネスを行うヴァージン・ギャラクテックから衛星打ち上げ部門を分社化して設立されました。現在は小型ロケットの開発を、アメリカ・カリフォルニア州にあるモハヴェ航空宇宙港を拠点に続けています。

ランチャーワン」の最大の特徴は空中発射を行うこと。発射母機には、元ヴァージンアトランティック航空所有のボーイング747-400型旅客機を改造した「コズミック・ガール」が用いられました。同機の左主翼下に「ランチャーワン」は吊され、洋上の所定の位置まで運ばれます。発射については、空中で切り離されると2秒ほど自由落下し、母機から充分離れたところでエンジンに点火、宇宙を目指します。また「ランチャーワン」は液体燃料を使用しているのも特徴で、空中発射型で液体燃料を使って打ち上げに成功したのは、同機が初めてです。

2020年5月に初の試験飛行に挑んだものの、そのときは失敗。「ランチャーワン」は今回、2度目の挑戦で成功しました。

ところでロケットといえば、一般的には地上にある発射基地から打ち上げられるものが多いです。そのようななか、わざわざ空中発射するというのは、どういった利点があるのでしょう。

空中発射ロケットの長所と短所

空中発射の長所(メリット)は端的にいえば3つあります。まず、飛行機用の滑走路と整備設備があればよいので、地上設備が簡素になって費用が圧縮できること。そして雲の上から発射するため、地上の天候に左右されずに打ち上げが行えること。さらに、上空は空気が薄く、かつ重力も弱くなるため上昇するロケットへの抵抗が減少し、同じ能力のエンジンであれば、少し重いものでも打ち上げが可能になることです。

一方、短所(デメリット)も3つあります。飛行機の搭載重量に限界があるため、地上発射型に比べて軽量なものしか打ち上げられないこと。そして打ち上げがなくても発射母機の維持コストがかかるため、発射数が少ないと高価になってしまうこと。加えて、燃料満載のロケット飛行機に搭載するため、危険性が高いことです。

このように、地上発射と比べてメリットがあったことから、空中発射ロケットの研究は比較的早い段階から始まっていました。なお、衛星打ち上げを目的とした空中発射型ロケットは、飛行機から打ち上げるタイプと風船から打ち上げるタイプがありますが、今回は前者のタイプの歴史を見てみましょう。

最初の事例は60年以上も前 空中発射ロケットの軌跡

飛行機から打ち上げるタイプの空中発射ロケットで発射実験までこぎ着けた最初の例は、アメリカ海軍が開発した「パイロット2」です。母機は艦上戦闘機F4D(後に命名規則変更によりF-6Aと改称)スカイレイが用いられ、1958(昭和33)年に計6回の実験が行われたものの全て失敗、計画はキャンセルされました。

その後も同様の計画が浮かんでは消えていくのですが、大きな足跡を残した例を2つ紹介します。ひとつめはアメリカのオービタル・サイエンシズ社(現在はノースロップ・グラマン・イノベーション・システムズ)の「ペガサス」シリーズです。初期はNB-52B(B-52戦略爆撃機を改造した試験支援機)から、後にロッキードL-1011「トライスター」旅客機から発射されるようになった固体燃料ロケットで、1990(平成2)年以降43回打ち上げられ、38回の完全成功と2回の部分成功の実績があります。

ペガサス」シリーズは2021年現在、商業化に成功した唯一の空中発射型衛星打ち上げロケットですが、2016(平成28)年以降打上げが止まっており、今後の動向が注目されます。

もうひとつが、アメリカのスケールド・コンポジッツ社が開発した「スペース・シップ・ワン」。飛行機発射型の有人ロケットで、このために開発された専用母機「ホワイトナイト」から発射されます。2004(平成16)年9月29日10月4日の2回、宇宙空間到達の基準となる高度100kmを突破し、初の民間企業による有人宇宙飛行を成し遂げました。現在、有人宇宙旅行ビジネスを行うヴァージン・ギャラクテック社に技術供与し、商業化に向けて後継となる「スペース・シップ・ツー」の開発を進めています。

小型衛星市場は新時代へ突入?「乗り合い打ち上げ」加速か

ヴァージンオービット社が打ち上げに成功した「ランチャーワン」は、果たして「ペガサス」に次ぐ空中打ち上げ商業化に成功することができるのか。その鍵を握るのが二極化する人工衛星打ち上げ市場です。

現在の人工衛星は、より大型化して重くなるか、より小型化して軽くなるか、両極端の方向に進んでいます。小型衛星は開発ペースが早く、1基当たりのコストが安く済むため新しい技術も盛り込みやすいです。そのため、スタートアップ(ベンチャー)企業や大学でも開発しやすいことから、2013(平成25)年を境として急速に打ち上げ数が増加しました。この増加により、それら小型衛星市場を狙ってロケットを開発するベンチャーも多くなっており、ヴァージンオービット社もそのうちの1社といえるでしょう。

当然、大型ロケットを打ち上げているアメリカのスペースX社や、欧州のアリアンスペース社なども、この新たな市場を眺めているだけではなく、「ライドシェア」(乗り合い)打上げで対抗しようとしています。これは小型・超小型衛星を多数まとめて打ち上げることによって、1機当たりの費用を抑えることができるサービスです。まとめて打ち上げるため、時期や投入軌道の自由度は低いものの、既存メーカーの実績あるロケットを使うので、安心感がある点がメリットです。

今回のヴァージンオービット社の「ランチャーワン」の打ち上げ成功によって、小型衛星に関連するビジネスに新たな挑戦者が加わりました。厳しい競争が始まろうとしている小型衛星打ち上げ市場がどのように成長し、どんな企業が生き残っていくのか、筆者(金木利憲:東京とびもの学会)も注目しています。

ちなみに、ヴァージンオービット社は最初の「ランチャーワン」試験飛行に先立って、日本の大分県とパートナーシップを結んでおり、大分空港を拠点とした打ち上げサービスを提供すべく、その準備や手続きを進めています。順調に進展すれば、日本で発射が見られるようになるかもしれません。

母機から切り離され点火した「ランチャーワン」デモ2(画像:ヴァージン・オービット)。