筆者は投資ファンドに勤めていた頃から「プロ経営者」を続け、自身で買い取ってオーナーをしていた会社も含めるとのべ17期すべてで利益を前年より成長させてきました。(ただ、直近ではコロナショックにより大打撃を受けて「17勝1敗」となってしまいました……)

 こだわっていたのは一次情報をもとに判断することと、スタッフに対しては職位や雇用形態問わず一人ひとりと丁寧に向き合うことです。

 コロナ禍による収入減や雇用不安、行動様式の変化もあり、2020年は改めて副業が注目を集めました。特に最初に大きく話題となったYahoo!による副業人材募集は「時給1万円」というキーワードインパクトもあり、ニュースになったことを記憶されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 そこで、今回は個々の会社員が副業についてどう捉えていくべきかを経営者の視点から今回は考えてみたいと思います。

◆副業に向いている職種とスキル

 まず、副業がやりやすいスキルとしてはIT系やデザイン系です。IT系や技術革新が進む中で1つの組織にいるよりも幅広く接しているほうが力がついていったりもします。

 そうすると、会社としては優秀な人材は自社で抱えたいけど、抱えると伸びにくいという矛盾が出てしまいます。新しい技術を吸収している人が入れ代わり立ち代わりできるのであれば、むしろそのほうが好都合といえます。

 デザイン系も然りで、常に市場と緊張感をもって接している人のほうがクオリティの高い仕事をします。個人として力がついていくこともあるので、機会があったらどんどんチャレンジすべきでしょう。

 また、夜の街の女性スタッフの送迎や配送などの運転系、ウーバーイーツスーパーの品出しなど精神力と体力と時間を直接的に費やす仕事はやればやっただけお金になるだけでなく、いい運動にもなるので健康の維持のためにはアリだとは思います。

 ただ、心身に負担を感じてしまうようであれば、本業に支障が出ますので控えましょう。その気合いの注ぎ先として簿記3級などを取って、経理の補助をするなどのデスクワークを目指したのも悪くない選択です。

◆「継続仕事」は副業向きではない

 継続的に発生する仕事は、会社としても個人としても本来は副業には向いていません。継続仕事を副業者という外注に委託することは単に単価を下げたいだけのケースが多いので、本業のある個人で受託する際には生活時間を削って割安な仕事をやるか否かは冷静に考えたほうがいいでしょう。

 ただし、時間が余っていて少しでもお金を得たい状況であればいいとは思います。

 会社としても継続発生する仕事は効率化や改善をさせるべきことなので、単に人件費を抑えて人を調達しようというよりも、社員がちゃんとコミットして改善を続けるほうが結局はいいことになります。

 本来、向いているのは頻度は少なく、たまにしか発生しないけれども、発生した際には専門的な知見や勘所が必要で、高額な専門家に頼むほどのレベルでなくていいという仕事でしょう。

 たとえば、中小企業で人事評価制度を新しく作ったり修正したり、システムやECの導入や変更をする際などです。通常の制度やシステム運用は社員が担当しているものの、イレギュラーな大きいものの対応をどう手当てするかです。

 起こりがちな問題として、専門のコンサルティング会社に委託したがゆえに何度言ってもオーバースペックになったり、万全を期すために常駐者を送ってもらったりしてもらった結果として、高額の費用になってしまうことがあります。

◆「稼働に波がある仕事」こそちょうどいい

 たとえば、それを副業人材でカバーして、身の丈に合った健全な議論を重ねればコスト負担は低減します。

 実際に著者はM&Aにかかる業務一式を経験したことがあるので、複数の中小企業のM&Aについての非常勤顧問をしています。

 M&Aについて一人固定で雇おうとすると高給取りを雇わなくてはならない一方で、年がら年中会社を買っているわけでもありませんので稼働に波があります。

 買収案件を探すのも情報網を張っておいて受け身で待つことが大部分を占めるので、常勤者だと手持ち無沙汰になったりもして、中小企業にはフィットしません。非常勤で必要なタイミングだけ呼ぶのがちょうどいいのでしょう。

◆企業が一度はきちんと考えるべきこと

 企業経営を考えるうえで労働人口が減少の一途をたどることを考えると、自動化や省力化などの生産性向上のほかに副業人材の活用ということは考える価値のあることですし、自社の社員にも機会を与えたほうが時代の流れには乗るでしょう。

 個人が副業をすると業務内容が何であっても共通して、仕事や売り上げを取ることの難しさを体感でき、税金のリテラシーもつくので売り上げ機会、利益・お金への感度は上がっていきます。

 社員がそうした感覚を身に着けることは、会社の仕事にとってプラスになることはあれど、マイナスになることはほぼありません。

 そうした観点から、企業にとっては副業を認めることも受け入れることも両方考えていくべきことです。

◆副業人材の導入が進まない背景

 しかし、実際のところ、副業が活用されていくかは個人のスキルや力量の問題だけでなく、会社のスタンスやカルチャーが問題となってきます。

 本来は経理や法務など管理系の仕事もスキル的には副業でできます。ただし、情報管理のリスクにより会社によっては起用を控えるでしょう。先ほど例に挙げたM&Aの領域も秘密事項が扱われますので、信頼関係が先にないとなかなか起用もできないです。

 個人の成長としてプラス要素が大きいとしても、副業している社員に対する会社・上司からの評価はどうなるのでしょうか。「外で違う目線から刺激を受けて成長して、それが自社に還元されればありがたい」と素直に受け入れてもらえるでしょうか。

 会社といっても人間の集団である以上、特に何か新しいことへの評価は感情的なものに左右されてしまうのが残念な実態です。

◆本業との兼ね合いは不安のタネ

 外で何をしてどうなっているということよりも、もともとのその人の評価がいい人材ならおとがめナシで、悪い評価の人材なら下手をすれば因果関係は明確でなくとも「そんなことやっているから本業が疎かになるんだ」という具合に攻撃材料になりうることもあるのでしょう。

 古い体質の会社で根深く残るのは、会社がある機能について副業の人を起用しようと検討した場合に「うちに来てくれるのは助かるけど、この人は本業の会社に迷惑をかけているのではないか?」「自分のカネのために不義理をする奴を雇っていいのか?」という価値観です。

 個人としても能力的にはやれたとしても、「そんなことやって、会社はいい顔しないんじゃないのかな?」「本業の評価に悪影響出ないかな?」という漠然とした不安によって動かないことは多いです。

◆個人と会社の思惑をどうシンクロさせるか?

 筆者自身は業績の上がっていない会社の落下傘経営者をすることが主な仕事になっていました。

 そうした状況において常に意識していたことは「最悪、会社がなくなってしまう、あるいは大幅な給与カットや人員整理などの局面を迎えたとしても、社員それぞれの個人は生きていけるように成長していってもらうこと、しかも短期比較的短期に――」ということでした。

 必然的に個人の情熱が自然に向かう自身の価値観・成長への欲求の方向と、会社自体の成長の方向とがどうリンクされているかを各人に意識してもらうことに腐心していました。

 副業を許容する場合は、こうした個人の人生全体の願望と会社の方向性とどうシンクロさせていくかなどの個別のすり合わせが上司にとって重要になってきます。

 しかし、そんなことを一人ひとりにやっていくこと自体、上司と部下という関係より少しフラットな関係で対話することが求められるのをどこか面倒くさい、難しいと捉える人が多いでしょう。

恵まれた会社ほど副業への心理的ハードルが高い

 職位が上がっていくと、若い頃は何でも歯を食いしばってやっていたことの反動なのか、嫌なことや面倒なことはめっきりやらなくなってきます。特に恵まれた会社ほどその傾向は強いでしょう。

 経営者は嫌なことや苦手なことわからないことでもやるべきことはやらなければなりませんし、逆にやりたいことでもやるべきではないことはやらないという自制心がより強く求められます。

 そうした至極単純なことをきちんとできることが最低限の条件ですが、意外にできないもので、それによって業績も変わってきてしまいます。

 副業を許容したり、採用したりすることは、社歴のある会社の上層部の人にとっては未経験の領域になります。

 そうしますと、そもそも「自分がよくわからないことはやりたくない」「よくわからない価値観を持つ人間を排除したい」という気持ちがもたげてくるものです。

とりあえず、自分の本業を置き去りにするようでけしからんのだ!」と一蹴することは簡単ですが、冷静に向き合えって考えられるかどうかでしょう。

◆「とりあえずやってみる」でさえもできない

 そもそも「副業を認めるか否か」を延々と議論するのではなく、時代の流れが明確にそうなっている以上はいったん容認も受け入れもやってみて、それで齟齬が生じたら止めればいいというフットワークの軽いスタンスのほうが副業というものに対する相性がいいと考えられます。

 それができないようであれば、相性が悪いということは認識して、「うちは認めない・やらない」という方針は打ち出しておいたほうが社員にとってのモヤモヤも少ないです。

 たとえば、副業の採用をやるならば、戦力になりそうであれば幅広にいったん採用してふるいにかけていくようなスタイルフィットするはずです。手間はかかりますが。

 しかし、業歴の長い会社ほど長年の癖として採用するならば厳選して手間と時間をかけてしまいます。

 そうして採用した人が失敗だったらまたやり直して、また時間がかかって結局いつまで経っても解決したい課題にまともに取り組めもしないまま、年単位で時が過ぎたりします。

 あるいは社員の知人や元社員の個人を気軽に起用しようとすると、コンプライアンス意識の高い会社は業務委託の発注基準がしっかりしているので、個人に発注することがNGになっていることもあります。

◆会社の体質を改めて見る好機にもなる

 つまり社員としては副業に対する会社の方針・姿勢を通じて、経営陣の本音や本性が見えてきます。副業をやることそのものよりも、それに対する人間的なメッセージがその会社の価値観や求める人材像であり、それをうかがい知ることができます。

 何も動きや社内発信がないのであれば、世の中の動きにそんなに関心がないということの証左になります。そうしたことも踏まえて、一度は具体的に考えてみてもいいかもしれません。

 副業がNGであった場合には異質なものを受け入れない、時代の流れを受け入れないというネガティブな言い方もできますが、伝統を大事にするというポジティブな見方もできます。会社の価値観と自分の価値観の相性を考えることでしょう。

◆会話量を増やして人間関係を円滑にする

 ただ注意したいのは、副業に向けて動き始めることが斜めに見られてしまう可能性は、自分のすぐ近くの上司や同僚からもあることです。

 失敗したら「何やってんだか」と見られ、うまくいったら「調子に乗りやがって」というやっかみのようなことを言われかねません。

 そうした余計な副作用を回避するための方策は、とりあえずは自分が何を考えているのかを伝えるためにも、ちょっとしたタイミングでもいいので積極的に会話量を増やすことです。

 人間が他人を気持ちが悪いとかネガティブに思うのは「何を考えているのかわからない人」に対してです。

 会社の隣のカフェで涼しい顔でイヤホンで音楽聞きながらノートパソコンを開くのはいいとしても、同僚を見かけた時にはちらっと見てまた画面に顔を戻すのではなく、明るく挨拶して、自分が副業で何をしているのかや、本業の近況はどうなっているのかなどの雑談を少ししたほうがいいでしょう。

◆経済合理性については熟慮が必要

 今の会社での仕事以外にどうしてもやりたいことができてしまった、でもいまの仕事も続けたいという場面になったとき、仕事の継続という話を付けて自らフリーランスになって今の会社の仕事とやりたい仕事を両立させるということもできます。

 すると、たとえば月給30万円を正社員として1社からもらうよりも月給20万円と10万円で2社からフリーランスとしてもらうほうが目先の手取りは増えたりもします。

 ただし、「そうかそうか、やりたい仕事もできて実入りも増えるのであればここはフリーランスになって挑戦しよう」と安易に考えることはおすすめしません。

 退職金や年金を考えると正社員のほうが経済合理性があることが多いので冷静に計算することと、コロナショックで顕著だったようにやはり正社員であることの安定感をどう捉えるかを踏まえて判断したほうがいいでしょう。

 あくまでも個人はブームに踊らされずに徐々に土壌作り、確認から始めていって、会社はブームに乗ってとりあえずはじめてみたほうがいいというのが現時点での副業の捉え方かと思います。

【出口知史】
東京大学大学院工学系研究科修了後、経営戦略コンサルティングファームのコーポレイトディレクション、ダイヤモンド社を経て、産業再生機構はじめ3社の投資ファンドなどに勤務し、プロ経営者を務める。慢性的な業績悪化に苦しんでいた健康器具メーカー、事務機器メーカー、老舗の化粧品・健康食品会社において、就任初年度でV字回復、再成長を果たす