1年延期された東京五輪開幕まで、あっという間にあと半年

昨年3月24日安倍首相(当時)が東京オリンピックパラリンピック(以下、東京五輪)の1年延期を正式発表してから早10カ月が過ぎようとしています。この間、日本だけでなく全世界が新型コロナウイルス感染症COVID-19)の拡大を受けて右往左往の大騒ぎだったことはご存知の通りです。

そうした中、昨年末から欧米など先進国の一部でようやくワクチン接種が始まっており、感染収束に向けて徐々にではありますが、明るい兆しが見えていることは確かです。しかしながら、時間は無情にも刻々と進んでおり、1年延期となった東京五輪の開会式まであと半年となりました。

そして、2021年になってから東京五輪開催を危ぶむ報道が世界中で出始めた一方、1月21日にはIOCバッハ会長が、中止や再延期を否定したというニュースが流れました。また、同じ日には菅首相が国会の代表質問で「ワクチンを前提としなくても、安全安心な大会を開催できるよう準備を進めている」と述べたと報じられています。

さらにその後、英タイムズ紙が与党幹部の話として「東京五輪の中止が必要と非公式に結論」と報じ、日本政府が否定するなど混迷を深めています。

何やら外堀から埋められている感もありますが、果たして東京五輪は開催されるのでしょうか。

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過去に開催中止となった夏季五輪は3回、理由は全て世界大戦

まず、改めて過去の事例を振り返ります。夏季五輪が開催中止になったのは以下の3回です。

1940年大会は、当初は東京開催が決定していましたが、日中戦争が激化したことを受け、1937年に(自ら)開催を返上しました。その後、ヘルシンキが代替開催地に決定したため、正確な記録上は「ヘルシンキ大会の中止」となっています。また、過去に延期になったことはなく、今回の東京五輪の1年延期が初めてとなりました。

これを見ても分かる通り、120年以上にわたる五輪の歴史上、世界大戦以外で中止になったことは一度もありません。また、一度決定した開催地が何らかの理由で開催を返上し、代替地での開催になったこともありませんが、冬季五輪に関しては1度だけ代替開催がありました(1976年大会、米国デンバーからオーストリアのインスブルックへ)。

開催延期を決めた昨年3月に比べ、国内外のコロナ感染状況は大幅悪化

もう一つ改めて確認するべきは、1年延期を決めた昨年3月下旬と直近の感染状況です。開催地である東京都の新規感染者数(1日当たり、以下同)を見ると、昨年3月下旬は概ね60~70人でしたが、直近は概ね1,500人前後です(注:曜日によってバラツキがあるので中心値を算出)。

昨年3月に比べると検査数が格段に増えているため、単純比較が適当かどうか定かではありませんが、桁違いに拡大していることは確かです。

また、全世界ベースでは、昨年3月下旬が6~7万人だったのに対して、直近は60~80万人で推移しており、ザックリ言って10倍です。なお、新規感染者数のみならず、死亡者数、入院者数、重症者数など全てのデータにおいて、昨年3月下旬より大幅に悪化しています。特に、欧米や南米などでの感染状況悪化が際立っているのが特徴と言えましょう。

外国人入国制限が続く中、無観客開催しか選択肢がないのか?

この国内外における感染状況を見る限り、半年後に東京五輪を開催するのは現実的でないと言わざるを得ません。仮に開催となれば、現在は全面停止している外国人の新規入国規制を早急に大幅緩和する必要がありますが、これも非現実的です。

確かに、出場するアスリートとその関係者だけを特例扱いして、事実上の無観客で開催する案もなくはないでしょう。しかし、無観客で開催するスポーツの祭典、平和の祭典にどれだけの意味があるのか甚だ疑問に思う人は多いはずです。また、いわゆる経済効果も期待できないでしょう。

それでも、現時点では、東京都や日本政府を含む実行委員会は、「人類がコロナに打ち勝った証としての大会」を掲げており、少なくとも表面上は、開催中止を想定していないようです。この熱意は通じるのでしょうか。

東京五輪の主催者はIOC、開催決定の可否を含む全ての権限を有する

そして、最も重要なことがあります。それは、東京五輪の主催者はIOC国際オリンピック委員会)であるということです。東京(日本)は、あくまでIOCから開催を委託されている形に過ぎません。もっとハッキリ言うと、東京五輪の開催中止や延期に関する全ての権限はIOCにあるのです。IOCが開催と言えば開催、中止だと言えば中止になります。

東京がIOCの承認なしに行える権利は、83年前(1937年)のような開催権の返上のみですが、この時期に開催権返上は到底あり得ない選択です。

こうした過去の事例と、IOCが全権限を有した主催者であるという現実を踏まえ、開催中止や延期の可能性を考えてみましょう。

再延期の可能性は限りなくゼロに近い

まず、再延期の可能性は限りなくゼロと考えていいでしょう。今回の1年延期により、他の大きなスポーツイベント(世界陸上、世界水泳、ハンドボール世界選手権など)が日程変更を承諾しましたが、2年続けてお付き合いするとは考え難いと言えます。

特に2022年は、冬季五輪の北京大会に加え、夏季五輪と並ぶ世界規模のスポーツイベントであるサッカーW杯が開催予定です。開催時期こそ異なりますが、同じ年にこれだけ大きなイベントが相次ぐと、各々のイベント価値が相対的に低下する他、スポンサーの分散にもつながります。

したがって、1年延期となった東京五輪は、開催か中止の二択しかないと言えるのではないでしょうか。

結局、最後はIOCの判断がどうなるのか?ということに尽きます。

IOCは開催中止に傾いていた? 安倍氏のインタビュー記事

そのIOCの最終判断を予想するのに参考になるのが、安倍晋三氏が首相退任後に応じた日刊スポーツ紙のインタビュー記事です(昨年10月20日掲載)。

一般に、政治家は職務を離れると、重圧から解放されたためかどうか分かりませんが、自身が関わった経緯や裏話を明らかにするクセがあります。政治家が後々に回顧録を出版するケースが多いのがその証拠であり、中には“暴露本”の類も珍しくありません。

安倍氏は政治家を引退したわけではありませんが、首相退任でリラックスしたのか、記事では昨年3月の延期決定時の経緯も話しています。その中に、「中止だけは避けたかったため、早い段階で延期を申し出、IOCや国際社会の了解を得るべきだと思った」とありますが、これはIOCが中止の方向で動いてたことを示唆しているとも受け取れます。

安倍氏はコロナ感染が拡大し始めた昨年2月現以降、IOCバッハ会長と頻繁に電話会議を行っていましたから、東京五輪中止の可能性を感じていたのかもしれません。自らも最終プレゼンで登場して誘致成功を導いた東京五輪を中止にしたくなかった気持ちは理解できます。

IOCによる正式発表“Xデー”はいつになるのか

あれから10カ月経ちましたが、前述の通り、全世界でのコロナ感染状況は悪化する一方です。そして現実に目を向けると、開幕まであと半年しかないのに、東京五輪に出場するアスリートの代表が決定していない国が数多くあります。球技など、五輪最終予選の開催が決まっていない競技も少なくない状況です。

そこに出てきたIOC会長の中止・再延期否定という報道。これは本気の発言なのでしょうか? それとも”ちゃぶ台返し”があるのでしょうか…。IOCによる正式発表がいつになるのか注目したいと思います。