―[魂が燃えるメモ/佐々木]―


いまの仕事楽しい?……ビジネスだけで成功しても不満が残る。自己啓発を延々と学ぶだけでは現実が変わらない。自分も満足して他人にも喜ばれる仕事をつくる「魂が燃えるメモ」とは何か? そのヒントをつづる連載第240

◆なぜ仕事に私情を挟んだのか?

 漫画『呪術廻戦』に登場する呪術師伏黒恵は、第2話で虎杖悠仁の助命を嘆願しました。虎杖は「両面宿儺の指」という呪物を取り込んだことで、強力な呪霊に身体を乗っ取られる恐れがあります。その危険性から本来ならば処刑対象でしたが、伏黒は「でも死なせくない」と訴えました。

 伏黒は自分の判断を「私情だ」と認識しています。「仕事に私情を挟まない」という考えは当たり前になっている社会通念の一つです。その社会通念に逆らって行動するにはそれ相応の理由がいります。その理由になっているのが、義姉である伏黒津美紀です。

 津美紀は正体不明の呪いの影響で昏睡状態に陥っています。伏黒は津美紀のことを「疑う余地のない善人」だと評価していました。そんな津美紀が呪いに倒れるという理不尽を被ったことで、伏黒は「不平等な現実のみが与えられている」「因果応報は全自動ではない」「少しでも多くの善人が平等を享受できる様に、俺は不平等に人を助ける」と考えるようになりました。

 伏黒は虎杖に「危険だとしてもオマエの様な善人が死ぬのを見たくなかった」と話しています。つまり、目の前の虎杖に、呪いから助けられないままでいる義姉を重ねたことで、「この人を助けたい」と考えたということです。

◆信念の源泉は人間関係

 人間が何かを成し遂げる時は、信念の力が働いています。その信念の源になるのは人間関係です。誰かに心を揺さぶられて何かを連想すると、その連想が自分の信念になります。

 伏黒の父親は身勝手な人物でした。伏黒が小学一年生の時に、津美紀の母親と再婚しましたが、そのあとすぐに姉弟を置いて夫婦揃って失踪します。そんな父親のことを面白く思うはずもなく、中学時代の伏黒は荒れていました。

 ふてくされて生きていた伏黒にとって、品行方正に生きる津美紀は煩わしい存在でした。しかし、その津美紀が呪いで昏睡した時に、その認識は一変します。喧嘩っ早い自分を諌めてくれたのは、自分のことを心配していたからだったと気づいたのです。「相手を選んで助ける」という伏黒の信念は、「相手を選んで心配する」という津美紀の振る舞いをお手本にしています。

 信念に基づいて行動する時は、その信念に影響を与えた人物の面影が心に浮かんできます。「危険だとしてもオマエの様な善人が死ぬのを見たくなかった」と伏黒が虎杖に話すコマには、「ヒマワリに囲まれてたたずむ津美紀」という伏黒の心象風景が描かれています。漫画でよく使われるこの表現は、信念が単なる観念ではなく、特定の人間関係に根ざしていることを意味しています。

マインレコーディングとは?

 信念を持つには、「テーマを決める」「ヒントを集める」「エピソード思い出す」「フレーズを作る」「アウトプットで確かめる」という5つのステップがあります。私はこの仕組みを『マインレコーディング』と呼んでいます。

 伏黒の場合、「善人だった義姉の昏睡」というアクシデントがきっかけで、「不平等に人を助ける」という信念を持っています。そのため、あらかじめ定めていたテーマや、集めていたヒントなどはありません。

 そのかわり、伏黒は「不平等に人を助ける」という信念自体をテーマにしています。そしてこのテーマについて、「義姉に似た境遇を持つ虎杖」をヒントにして、「義姉の昏睡」という体験を改めて思い出し、「不平等に人を助ける」という信念を強くしています。このように信念は一度見つけて終わりではなく、その信念の源となった体験を繰り返し思い出して、強化あるいは修正していくものです。

 伏黒は自分と義姉の間に、「相手を選ぶ」という共通点を見出しています。普段当たり前のように一緒に暮らしている家族に対して、私たちは赤の他人に対するものとは比べ物にならない強い感情を秘めています。ただ、その秘めた感情を自覚できるのは、伏黒のように家族に異変が起きた時がほとんどです。当たり前が当たり前でなくなるほど、心を揺さぶられることはありません。

 伏黒の「呪術師」は一種の職業です。そして職業に対する信念は、その人の社会との接し方を決定しています。この社会との接し方の基本を、社会の最小単位である「家族」に発見するのは自然な成り行きです。仕事とプライベートの間には確かに仕切りがありますが、自分が育った家庭環境によって仕事観が形成されるのもまた確かです。

佐々木
コーチャー。自己啓発ビジネスを結びつける階層性コーチングを提唱。カイロプラクティック治療院のオーナー、中古車販売店の専務、障害者スポーツボッチャ」の事務局長、心臓外科の部長など、さまざまな業種にクライアントを持つ。現在はコーチング業の傍ら、オンラインサロンを運営中。ブログ星を辿る」。著書『人生を変えるマインドレコーディング』扶桑社)が発売中

―[魂が燃えるメモ/佐々木]―


※写真はイメージです