これまで韓国人は様々な韓国起源説を主張してきた。日本関連だけでも相撲や歌舞伎、醤油、日本酒、うどんなど、例を挙げればキリがない。だが、韓国のアイデンティティとも言えるキムチを巡り、中韓でキムチ起源論争がわき起こっていることをご存じだろうか。

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 2020年11月、中国四川省の塩漬け発酵野菜「泡菜(パオツァイ)」の製法や保存法が国際標準化機構(ISO)の認証を受け、中国共産党の機関紙「環球時報」は「キムチ宗主国の屈辱」と報道した。韓国の人気モッパン(飲食の様子を撮影した動画)ユーチューバー Hamzyさんは「中国人がキムチやサムなどを自国の伝統文化だと主張する」とコメントしたが、すべてのコンテンツが中国のSNSや動画共有プラットフォームから突然削除されるなど、韓中間でキムチ起源論争が巻き起こった。

キムチはパオツァイの派生形

 キムチと聞くと唐辛子で漬けた赤いキムチを連想するが、元来、キムチという語は漬物の意味で使われた言葉だ。1760年代の韓国の飢饉時に、高騰した塩の代替品として唐辛子が使われたのが現在の韓国キムチの始まりだ。

 中国がISO認証を受けた「泡菜(パオツァイ)」は「塩に漬けた野菜」という意味だが、高麗時代の書物『高麗史』に記述された韓国最初のキムチは祭祀のお供え物「沈菜(チムチェ)」で、塩漬けした野菜に、ニンニクショウガを入れて作られている。記述だけを見れば、パオツァイとキムチの元祖であるチムチェは何ら変わりがない。それぞれの国でそれぞれの風土や国民性、生活習慣に合わせて少しずつ変化したに過ぎない。

 キムチが日本で知られるようになったのは、1910年の韓国併合以降だ。朝鮮漬けと呼ばれ、辛くて臭いものという認識から、それほど普及はしなかった。そのキムチが日本で普及したきっかけは、1988年ソウル五輪に伴う韓国ブームだ。テレビや新聞、雑誌などが韓国特集を組んだことで韓国に「好感」を持つ人が増え、2002年の日韓ワールド杯がキムチブームに火をつけた。

 さらに、2003年に韓国のテレビドラマ冬のソナタ」が放映されて、第一次韓流ブームが巻き起こり、エンターテインメントと韓国料理のブームが始まった。これを契機に新大久保コリアタウンの日本人客が増加。オールドカマーのコリアンタウンとして知られる東上野のキムチ横丁や大阪・鶴橋駅付近にも日本人客が押し寄せた。「近くて遠い国」といわれていた日韓の距離が近づいた瞬間である。

台風19号で「辛ラーメン」だけが売れ残った理由

 北朝鮮に対する日韓のベクトルが同じ時、両国の距離は近づく。北朝鮮に強硬に対応した朴政権と対北朝鮮圧力路線を取る安倍政権は強い連携関係を作ったが、対北朝鮮融和政策を取る現政権下で日韓の距離が遠のくのは必然だ。

 日韓関係が悪化した2019年、韓国内で日本製品不買運動が広がった。

「NO Japan」「NO 安倍」が叫ばれた2019年10月、50年に一度と言われる大型台風19号の来襲で、日本人は食べ物を確保するため、スーパーやドラッグストアに駆け込んだ。この時、韓国の「辛ラーメン」だけが売れ残り、韓国では日本人が韓国製品の不買運動をしていると報じられた。実際の理由は「辛い韓国ラーメンは、辛い食べ物に慣れていない日本人の非常食として合わない」からだが、韓国人は事態を深刻に捉えていた。

 日本人が嫌韓というのは韓国人の杞憂だ。もちろん、嫌韓世代がいることは否定できない。2019年の日本政府による「外交に関する世論調査」で、「韓国に親しみを感じる」という回答は、18~29歳は45.7%、70歳以上は17.4%と3倍近い差があった。その結果を反映するように、10~20代の若者を中心に第三次韓流ブームがSNSで拡散し、余韻が冷めやらぬ2020年、「愛の不時着」「梨泰院クラス」が人気となって第4次韓流ブームが巻き起こった。

 生まれた時から韓国ドラマや韓国料理が身近にある世代は、韓国の化粧品やグルメにお金を使う。不買どころか積極的に消費する動きを見せている。報道に左右されず、自分で判断したい日本人の意識の表れだ。日本製品不買運動が今でも続く韓国と違って、現在の日本で、政治情勢が個人の行動に大きな影響を与えることはない。

 新型コロナウイルス感染症の拡大以降、発酵食品の需要が増え、韓国のキムチ輸出量は過去最大となった。韓国農水産食品流通公社のキムチ輸出入情報によると、2020年8~12月(5カ月間)のキムチの輸出は3万9748トン、1億4451万ドル(約158億円)に上っている。主な輸出国は日本、米国、香港だ。

 過去最大という言葉だけを聞くと素晴らしい数字に見えるが、実際は異なる。

 日本で韓国産キムチ中国産キムチに押されているが、韓国内も同様だ。韓国の飲食店では注文した料理と別にお代わり自由のキムチが必ず提供される。飲食店経営者にとってこのキムチの無料提供の原価負担は大きく、外食産業が韓国のキムチ輸入量の増加を後押しする。

 そして、輸入元は主に中国だ。2020年8~12月(5カ月間)の韓国のキムチ輸入量は 28万1000トンで、同時期のキムチ輸出量の約7倍。それにもかかわらず、輸入金額は約1億5242万ドル(約167億円)で輸出金額と大差はない。韓国は安価な中国産キムチ無しには食生活を維持できないのだ。

ソウルフードを中国からの輸入に頼る韓国

「第35回童謡こどもの歌コンクール こども部門」で銀賞を受賞した村方乃々佳ちゃん(2歳)に対する韓国の一部のネットユーザーの度を越した悪質コメントが物議を醸しているが、韓国人は反日だけでなく、反中国、反〇〇と何に対しても過剰に反応するようだ。反日不買運動と言いながらニコンやリンナイ、プレイステーション、また生活に密着しているもの、代替不可能な必需品を何の抵抗もなく購入する姿は、キムチの起源は韓国だと言いながら安い中国産キムチを買い漁る姿と重なる。

 韓国が攻撃的にならず、歩み寄りや共存の姿勢を示せれば新しい関係を生み出していけると信じるが、果たしてその日はやってくるのだろうか。このまま反日不買運動が続けば国内の韓国産キムチ中国産に代わられているように、韓国製品が別産地の製品に取って代わられるのも時間の問題だろう。

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