
輝かしい未来を見据えて猛勉強。努力が実って難関大学に入学、卒業し“高学歴”という肩書を得たにもかかわらず年収300万円という低収入に陥っている人がいる。彼らはなぜエリート街道から外れてしまったのか。東京大学・大学院の修士課程を終了も、現在の年収250万円になった40代男性を取材。言うに言えぬ低収入の理由とその背景に迫る!
◆「東大だからできるでしょう?」予想だにせぬ過酷な現実に心身摩耗
▼東京大学(偏差値72・理系大学院卒)→年収250万円
北島章介さん(仮名・45歳)は、東京大学の理系の大学院にいたが、研究者の道を諦め、修士課程を終え高校教師になった。
「大学院にいると、周囲には研究者としての能力が高い人ばかり。ここで競うよりは、理科の楽しさを若者に教える仕事に就こうと思ったんです。私が通っていたのは、県下トップの中高一貫校で、個性豊かな同級生と先生に恵まれ、毎日が充実していました。あの幸せな青春時代を子供たちにも体験してもらいたかったんです」
北島さんが赴任したスポーツ強豪高校は校長らの主導で進学校へのシフトを計画。その「秘密兵器」として迎えられる格好となった。
「ところが、理想と現実は違いました。私が進学実績を上げるための施策を提案するたびに、先輩教員から文句がくるんです。『そういうやり方はウチの文化じゃない。先輩の言うことが聞けないのか』と。ラチが明かないので校長や教頭に直談判したんですが、『仲良くやってくれ』と現場のマネジメントを放棄するありさまで……」
◆「東大出身なら結果を残せて当然」という無言の圧力
一方、生徒からは「勉強しなくても東大の先生なら実力を伸ばしてくれるに違いない」と期待が集中。早稲田や慶應を筆頭とする先輩教員からは「東大出身なら結果を残せて当然」という無言の圧力。
担任したクラスの保護者からは、昼夜を問わず家庭で解決すべきレベルの生活指導面の相談電話が。
「3年目の夏に体調不良が続いたので医者にかかったところ、診断は心の病。学校には担任を外してほしいと訴えましたが、人手不足を理由に希望は通らず、薬を飲みながら教壇に立ち続けました」
その後7年間勤めたが、病状は悪化の一途を辿り、ついにドクターストップ。退職の運びとなった。
「学校は硬直化した組織なので、結局どこに転職しても状況は変わらないだろうと悟りました。でも教育に関わる仕事にはこだわりがあったので、今は某学校法人の事務方として働いています」
500万円ほどあった年収は半分になったが、心の平穏は取り戻した。東大卒ならではの学歴プレッシャーは人の一生を狂わせる。
◆出身大学別年収ランキングでも東大が1位
社員による企業評価を掲載しているサイト「OpenWork」の調査によれば、高偏差値大学出身者の平均年収は厚労省統計による大卒・大学院卒30歳の平均年収321万円より明らかに高い。だが、低収入に陥っている“高学歴”の人もいるのが現実だった。
◆<出身大学別年収ランキング>
※30歳時の年収
1位 東京大学 810.9万円
2位 一橋大学 739.6万円
3位 京都大学 727.6万円
4位 慶應義塾大学 726.6万円
5位 東京工業大学 708.2万円
(2019 OpenWork調べ)
<取材・文/山田剛志(清談社) 撮影/渡辺秀之>
※1/26発売号の特集「高学歴貧困の末路」より

コメント