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残念ながら2021年も継続してしまった“コロナウイルス”はもう見たくも聞きたくもないワードとなり、感染以外の問題が次々と浮上し始めている。“ロックダウン”から“ワクチン”へと主役のバトンは渡され、世界は期待と不安の渦の中にある。そんな中でも絶望せずにいられるのは、新しい出会いとカルチャーへの希望があるからだ。 『104Galerie』は東京の中心地にありながらベルリンのミニマルで退廃的な空気を感じさせてくれる貴重なスポット。そのオーナーであり、ベルリンのアートカルチャーを自らの足で追い続けているのが、セットデコレーターのENZO氏だ。手掛けてきたこれまでの活動とともに『104Galerie』を紹介したい。

「昔から、音楽・プロダクト・車など、ドイツ製のものが好きだった。 ベルリンのアートを通して、改めて見直したい。」

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ENZO氏

ベルリン訪問歴15回以上、自らの感性と足でローカルアーティストやローカルアートを発掘しては、交渉し、東京でエキシビジョンを行ってきたENZO氏。私の周りにも多数いる“ベルリン好き”の間でもここまで極めている人は他に知らない。洗練されたスタイリッシュさを求め、パリやロンドンへ行ってしまう人が多いからだ。ベルリンに魅了されて何度も訪れている人は間違いなく、ちょっとマニアックで独自の感性の持ち主と言える。誤解のないように言っておくが、私にとって、これは最高の褒め言葉である。私自身マジョリティーな世界にはあまり興味がない。だからこそ、この街に長年住んでいるのだろう。 今でこそネットで検索さえすれば、ベルリンの情報は様々なメディアから知ることが出来る。しかし、有数のローカルクラブ硬派なポリシーを持つバーやレコードショップは撮影も取材も受け付けていない。だから、“一見さんお断り”オーラを全開で放つ店には、自ら出向き、自分の目で確かめないと何も得ることは出来ない。ベルリンという街は、実際に訪れてこそ知り得るアングラかつマニアックを楽しむための場所であるとも言えるだろう。そこにローカルのアテンドがいれば、決して表には出ない、出したくない究極のアングラ体験が出来るチャンスにも恵まれるのだ。 残念ながら2020年は、近隣諸国の友人たちを除いては誰一人来ることが出来なかった。今年は、せめて夏の間だけでも誰か訪ねて来てくれるのを期待せずにはいられない。しかし、リアルなエンターテイメントが消え失せている今の状態が変わらなかったら、私自身も消え失せているだろうし、来独する価値もないと言える。何より、いろんなリスクや負担、我慢を強いられる状況では感性も薄れていってしまう気がするのだ。

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104Galerie

EZNO氏とは友人を通して、ギャラリーマネージャーの方から連絡をもらった。実は、5年前にも一度連絡をもらっていたらしい。返信さえもしなかったという無礼な私は一体どこで何をしていたのだろうか? メールのアーカイブを探しても見つからない。しかし、人との出会いは全てタイミングであり、必然だと思っている。コロナ禍の今だからこそ、東京とベルリンを繋ぐ架け橋として、出会うタイミングだったのではないだろうか。オンラインで顔合わせをして、オンラインで『104Galerie』や作品展示の様子を見せてもらう。それだけでも、“おもしろい”と思うポイントや感覚が一致した。

UARADWIMPSといったアーティストのCDジャケットやミュージックビデオをはじめ、UNDERCOVERのキャンペーンビジュアルや回顧展などを共同で手がけてきた、アートディレクター永戸鉄也氏とのコラボレーション。ベルリンの街中の壁から剥がし収集した総重量150kgにおよぶポスターを素材に、手作業を駆使したコラージュ、インスタレーションを発表した。

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ベルリンに来た人なら誰しも知っていると思うが、街中の壁や塀、柱には一面にポスターステッカーが貼られている。A1サイズに収められたカラフルグラフィカルなデザインは、コンサート、ライブイベント、クラブイベント、アートエキシビジョン、写真展など、ベルリンで開催される文化イベントの情報がぎっしり。街中の壁や塀が掲示板となり、日々アップデートされ、アーカイブされていくのだ。ベルリナーにとっては当たり前過ぎる日常の風景である、しかし、そこにアートの可能性を感じ、作品にしよう! と思い付いたのはENZO氏だけだろう。毎日何時間もかけて、ベルリンのあらゆるところからポスターを剥がしパッキングしては日本へ送り届けたという。

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ベルリン滞在中、毎日朝と夜にポスターを剥がしてたんですけど、ある日“その仕事、僕もやりたい!”と声を掛けられたことがあって(笑)まさかこれがアート作品になって販売されるとは誰も思わなかったでしょうね。大量に必要だったから手伝ってもらえば良かったです(笑)」 と、いったおもしろいエピソードも。確かに、ポスターを貼る仕事の人は見かけたことがあるが、剥がす仕事の人は見たことがない。アーティスト活動をしながら日雇いバイトをしている人も多いベルリンならではである。他にも、大量にパッキングされたポスターの山を税関で怪しまれ、“単なるゴミです!”と説明して無事に持ち帰れた話など、おもしろいエピソードが続く。剥がされて“単なるゴミ”となったポスターたちは二人のクリエイターによって、アップサイクルされ、一点物のアート作品として小さな額縁や壁に展示された。かなりの盛況だったという同展の第二弾を是非とも開催して欲しい。次回は私もポスター剥がしから参加したいと思う。

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永戸鉄也 ENZO 「Paper Show」at 104Galerie

他にも、ベルリン中の壁にジャックし続けているグラフィティアーティスト・EL BOCHOの初個展<BERLIN TOKYO>を2016年に開催し、その後、2回目となる<GOLDEN TIMES>を2018年に開催。

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東京の壁もジャックするEL BOCHO

また、2019年4月5月には、生粋のベルリンっ子で、ニューヨークベルリンロンドン、パリなど世界各地でエキシビジョンを開催している気鋭の画家・Pius Foxの個展<Der Trommler>(太鼓たたき) を開催している。

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Pius Fox個展「Der Trommler」

──ENZO氏がベルリンを訪れるようになったきっかけは一体何だったのだろうか? ENZO もともと、音楽やプロダクト、車など、ドイツのものが好きだったんです。でも、ヨーロッパはパリ、ロンドンオランダベルギーとかいろいろ行っていたのにドイツだけは行ってなかったんですよね。ベルリン在住の友人にもおいでよと言われていたのに、なぜか行ってなくて。パリに何度も足を運んでいる時に、フランスの装飾的なモノとかに飽きてきちゃったんです。そんな時にベルリンへ行こうと決めました。視点を変えたかったのもあるし、バウハウスとかもちゃんと見たかったのもありましたね。あと、若い頃好きだった音楽、例えば、ドイツのバンドのノイバウテンアインシュテュルツェンデ・ノイバウテン)とか、いろいろ知って、自分なりに消化してきたつもりだったんですが、また大人になってから見直そうと思ったことがきっかけでもあります。

今後もベルリンのローカルアーティストやアートカルチャーを発掘し、“104Galerie”で発信し続けたいと語る。そして、私は、現地のリアルな情報をリアルタイムで提供したくてこの地に住んでいる。 ロックダウンの終焉とともに、ローカルカルチャーはまた勢いよく動き出すことだろう。その証拠にすでに水面下では期待せずにはいられない活動が始まっている。一刻も早く””の世界から抜け出し、生きたカルチャーを全身で感じたい。

ENZO 1972年生まれ。R.mond inc.主宰。 PVやCMなどのムービー撮影、雑誌や広告等のスチール撮影、店舗デザイン、展覧会などのオブジェ製作などあらゆるメディアにおける美術制作を手掛ける。 2013年夏、104GALERIEをオープン。国内外問わず、独自の審美眼によって精選した作家の展覧会を行っている。

宮沢香奈さんの記事はこちら

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