まさに“ビッグサプライズ”となった。東北楽天ゴールデンイーグルスが28日、ニューヨーク・ヤンキースからFAとなっていた田中将大投手との契約について基本合意に達したと発表。田中も自身のツイッター、インスタグラムを通じて8年ぶりに古巣復帰を果たすことを認め、日本プロ野球の2021年シーズンはレジェンドの東北凱旋で話題を独占しそうだ。

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 楽天とは2年契約となり、推定年俸は日本プロ野球界で史上最高の9億円プラス出来高。事実上の永久欠番となっていた背番号「18」を再び背負うことも決まった。

ヤンキースでの7年間で通算78勝、文句なしの実績

 メジャーリーグ新型コロナウイルスの感染拡大による影響で移籍市場が低迷し、FA大物選手の所属先も軒並み不透明なままの状況となっている。田中も例外ではなかった。ぜいたく税の上限が今オフ編成費の足かせとなっているヤンキースへの残留は厳しい流れとなり、獲得に興味を示すMLB他球団の動きも鈍いことから“ラブコール”を送られていた楽天への復帰を決断した。

 とはいえ、コロナショックの不可抗力さえなければ、ほぼ間違いなく田中はヤンキースからFAで退団することになってもMLBの他球団でプレーしていただろう。

 依然としてトップクラスのメジャーリーガーである評価に変わりはない。名門ヤンキースに7年間在籍し、通算78勝をマークした実力は“異次元レベル”。田中の能力と商品価値はNPBの中でも突出している。楽天の球団側、そしてファンが8年ぶりのチーム日本一へと導く指南役として、日本が誇るレジェンド右腕を三顧の礼で迎えようとしているのも頷ける。

「田中復帰」で日ハム・斎藤佑樹にもスポット

 ピンストライプのユニホームを身にまとい、MLBの荒波を乗り越えながら“神の域”にまで達した田中が楽天復帰後もしばらく注目の的となるのは必至だ。ただ、その一方でひっそりと忘れられた元ライバルの存在も一部の球界関係者の間では静かに話題を集めている。北海道日本ハムファイターズ斎藤佑樹投手である。

 あれから、今年の夏で15年になろうとしている。2006年夏の甲子園決勝で当時、早稲田実業の斎藤は駒大苫小牧の田中との引き分け再試合を制し、チームを初優勝へと導いた。この伝説の両エース対決は語り草となり、斎藤は投球の合間に白いハンカチで汗を拭う爽やかな姿から「ハンカチ王子」「佑ちゃん」などのニックネームまで授けられて一躍時の人となった。しかしながら、もうその伝説の死闘も今となっては「そう言えば、そんなこともあったね」と何かのタイミングで思い起こされる程度の昔話になった。実際に若年層のプロ野球ファンは知らない人も増え、その多くは興味すら抱いていないようだ。

 プロ入り後、両者の立場はアッという間に逆転した。2006年のドラフトで1位指名された楽天に入団した田中はスター街道をバク進し、2013年のシーズンでは開幕から24連勝無敗の日本記録を作るなどチーム初の日本一へ大きく貢献。その年のオフにヤンキースへ移籍し、海を渡った田中の脳裏にはもはや「斎藤佑樹」という存在すらインプットされていなかったであろう。

 一方の斎藤は早実から早稲田大学へ進学し、野球部のエースとして数々の実績を残した後に田中よりも4年遅れでプロ入りを果たした。2010年のドラフトで1位指名された日本ハムへ入団したもののルーキーイヤーの2011年にマークした6勝が自己最高の勝ち星となり、プロ2年目の2012年も僅か5勝止まり。その後も2013年・0勝、2014年・2勝、2015年・1勝、2016年・0勝、2017年・1勝と白星を挙げることすらできなくなっていった。そして2018年以降は未勝利が続いており、ついに昨季はプロ入り後初めて一軍昇格なしのままシーズンを終えた。

 プロ入り後に3度実現した田中との直接対決で斎藤は3連敗。2012年7月13日の試合を最後に両者の対戦は実現していない。今年、田中の日本球界復帰が決まったことで9年ぶり4度目の顔合わせが実現する可能性も出てきたが、今となっては超格差対決となるだけでとてもまともな勝負にはならないだろう。ましてや昨年10月に右肘の内側側副じん帯断裂と診断された斎藤は手術を回避し「PRP療法」からリハビリを重ね、一軍マウンドへの復帰を目指している段階だ。チームの戦力にすらなれない斎藤が、田中の先発登板する対楽天戦で一軍マウンドへ送り出されるシナリオはまず考えにくい。いくら斎藤への対応に関して「甘い」ともっぱらの日本ハム栗山英樹監督でもさすがに現実を見定めるはずである。

 現状で言えば、田中と斎藤はライバルでも何でもない。意識し合ったのも遠い過去の話だ。田中は元ライバルについてなど眼中にすらなく、斎藤も自らのことで精いっぱいだろう。

MLBならクビになった選手から訴訟を起こされかねない契約

 それでも、とにかく摩訶不思議なのはここまでプロ14年、日米通算177勝の田中が日本球界へ復帰した今オフ、元ライバルの斎藤もこれだけ低迷続きでありながら現役続行となったことだ。プロ10年で通算15勝、昨季は3年連続の未勝利に終わり、右ひじに致命的な“爆弾”も背負ってしまった。しかしながら何事もなかったかのように斎藤が日本ハムから契約を更新されたことには、海の向こうのMLB関係者からも「田中の元ライバルが奇妙な温情契約でプロテクトされている」と驚嘆の声が上がっている。

 実際、アメリカン・リーグの古豪球団に籍を置く日本人スカウトに「斎藤の現役続行」に関して話を聞くと次のような言葉が返ってきた。

「まずMLBでは絶対に成立しないケース。彼の経歴から判断すれば、どんなに大甘であったとしても2015年シーズンの時点でファイヤー(クビ)でしょう。それが今オフも契約更新となることは『アンビリーバブル』としか言葉が浮かばない。やはりファイターズを含めNPBの球団の中には人気面や話題性を多分に加味した温情査定という日本独特の文化が未だ根強く残っている証と言えると思います。

 しかも非常に驚くべきは、この契約延長がコロナショックの中で成立している点です。もしこれがMLBならば、彼よりも成績が上であるにもかかわらず契約を切られた他の選手から訴訟を起こされる危険性もあり得ない話ではない。

 そう考えれば、よく有識者の間から指摘されているようにNPBMLBと比べてコロナ禍にあっても各球団の経営的な打撃は少ないと評せると思います。田中がMLB残留を選択せず楽天復帰を決めたのも、コロナ不況に関係なく豊富な資金力をキープし続けている古巣のジャパンマネーが大きくモノを言ったのは間違いないところです」

 奇しくも田中の日本復帰によってMLB関係者の間から“スポット”を当てられた元ライバル・斎藤。その特殊な契約によって今もしぶとく生き残る姿はレジェンドにまで上り詰めた田中とは実に対照的であり、ミステリアスに映っているようだ。

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楽天への復帰が決まった田中将大投手。2019年6月撮影(写真:AP/アフロ)