NHK受信料の値下げが検討されているようですが、NHKは受信料ではなく税金で運営すべきだ、と筆者(塚崎公義)は考えています。

受信料は逆進的

NHKの運営費用は、受信料で賄われています。それが今回値下げされるかもしれないと報道されています。しかし、これを機に受信料制度を廃止してNHKを税金で運営すべきだ、と筆者は考えています。

その理由の一つは、テレビ所有者には収入等にかかわらず、一律の受信料が課されているため、逆進的(貧しい人の負担が重い)だからです。

所得税は、累進課税です。所得が増えると払う税金が増えるわけですが、所得が2倍になると払う税金が3倍にも4倍にもなりかねません。それは、所得が増えると税率が上がるからです。豊かな人には多く負担してもらい、貧富の格差を縮小しよう、というわけですね。

それに対して、消費税累進課税ではありません。所得が2倍になって消費額が2倍になっても、税率は一定です。それを以て「貧しい人に負担が重くなる逆進的な悪税だ」という人もいますが、とにかく所得が2倍の人は2倍の税金を支払っているわけです。

それらと比べると、受信料は定額ですから、これは貧しい人に重い負担を強いる逆進的な制度だと言わざるを得ないでしょう。これは望ましいとは言い難いと思います。

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受信料徴収はコスト高

受信料の徴収にコストがかかる、という点も問題です。受信料が自動引き落としであれば、それほどの手間ではないのかもしれませんが、中には自動引き落としの手続きをしていない人もいて、係員が集金に回らなければならないかもしれません。

それ以前に「テレビを持っているのに受信料を払っていない人」を探し出して受信料を払うように頼むという作業には、多大なコストがかかるはずです。中には拒否する人もいて、それを説得するのにも多くの手間がかかるはずです。

説得しても受信料を払わない人がいると、払っている人の不公平感が募りかねないので、説得するコストの方が説得によって得られる受信料よりも多くかかったとしても、説得を止めるわけに行かないでしょう。

税金で運営すれば良い

ほとんどの人がテレビを持っているでしょうから、「テレビ保有の有無にかかわらず全国民の義務として受信料を払わせると法律で決める」というのは選択肢でしょう。

「テレビは持っているけれどNHKは見ない」という人からも徴収することを考えれば、テレビを持っていない人からの徴収も不自然ではなさそうですから。

しかし、そんなことなら税金で運営費を賄った方が遥かにコスト面でも安上がりなはずです。税務署が一括して税を徴収してくれるわけですから。しかも、受信料が逆進的である、という問題点も解決するでしょう。

娯楽番組等は分社化して民営化

税金で運営するとなると、娯楽番組まで税金で制作するのか、という疑問が湧きます。政見放送であるとか災害時のニュースであるとか、どうしても税金で放送すべき番組のみを残して、他は分社化して民営化する、ということも選択肢でしょう。

娯楽番組等は、受信料を払った人だけが見ることのできる番組として、分社化して独立した会社が製作するのです。

実際の切り分けは容易ではないでしょうが、そこは今後広く議論していけば良いでしょう。「美しい景色を見て楽しむための番組」ならば娯楽番組かもしれませんが、「日本の美しい自然を広く国民に知ってもらうための番組」ならば税金で製作しても構わない、といった議論が必要でしょうね。

国営だから政府の言いなり?

「税金で運営すると、NHKが政府の言いなりになるので反対だ」という意見が当然出てくるでしょうが、筆者はそれに対して二つの反論を用意しています。

第一は、「政府が介入できるなら、今でも介入しているはずだ」というものです。政府を信じる人は「今でも介入していないし、税金で運営するようになっても介入しないだろう」と考えるでしょうから、反対する理由はないでしょう。

政府を信じない人は「今でも介入しているはずだ」と考えるでしょう。今でも介入しているのだとすれば、税金で運営するようになっても事態が悪化することはなさそうですから、税金での運営に反対する理由はなさそうですね。

筆者の反論の第二は、より説得力があると思います。それは、「国立大学の教授が政府の言いなりになっているわけではないので、心配無用」というものです。国立大学の教授で、正面から政府に反対している人は大勢いますから。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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