河野太郎ワクチン担当相人事で、菅首相に二階幹事長が不快感!? 後藤謙次徹底解説「菅政権失敗の本質」 から続く

 昨年9月の政権発足直後、60%台の高支持率でスタートした菅義偉内閣の支持率が30%台にまで急落した。この5カ月間、コロナ対策を最優先に進めてきたはずの内閣はなぜ躓いてしまったのか。遅きに失したGoToトラベル全国一斉停止、緊急事態宣言の再発令、ワクチン配布スケジュールの混乱、そしてオリンピック……。政権内で今一体何が起きているのか。昨年10月、政権発足直後に菅政権の将来を分析した政治ジャーナリストの後藤謙次氏に改めて「菅政権の本質」について聞いた。(全2回の2回目/前編はこちら)

強い言葉が一向に聞こえてこない、発信力の弱さ

 菅義偉内閣の支持率が急落している背景には、首相の発信力の弱さがあると指摘されることがあります。首相としてこのコロナ禍にどう立ち向かうのか。力強い言葉が一向に聞こえてこないというのです。

 確かに1月18日に行った国会での「施政方針演説」を聞いていても、菅首相は各省庁がまとめてきた方針を七夕の短冊のように羅列して述べるばかりでした。最後に突然、故・梶山静六氏から言われた「国民の食い扶持をつくっていくのが、お前の仕事だ」という言葉を紹介し、「これらの言葉を胸に、『国民のために働く内閣』として、全力を尽くしてまいります」と結びましたが、そこに魂に響く言葉があったとはなかなかいえないでしょう。

官僚答弁が身についてしまったという不幸

 首相動静を見ていても、菅首相が、施政方針演説について、専門家と推敲を重ねた形跡は見られません。しかし、政治家にとって「言葉は武器」です。そのことは、二階俊博幹事長の例と比較するとよくわかります

 二階幹事長は国会で代表質問をするとき、まず自民党の専門の職員に下書きをつくらせます。そして、福井照という官僚出身の二階派の議員が、その下書きを二階氏の言葉に合わせて、書き換え、原稿を仕上げていく。そうして完成した原稿をもとに、二階氏は幹事長室で代表質問の練習をしているのです。結局、本番の代表質問では、野党のやじにカッとなってしまって、原稿とは関係がない演説に最後はなってしまいましたが、やはりそこは、政治家として「言葉の一つ一つがいかに重みをもつか」をしっかり理解している。

 しかし、菅首相は幸か不幸か、7年8カ月もの長きにわたって、官房長官を務めました。そのことで権力にも近づいた一方、その間巨大な官僚システムの上に立ってきたせいか、答弁そのものも、みずから発する言葉というより、中央省庁の組織全体の整合性の中で話しているような感じが見受けられるようになってしまいました。「官僚答弁」が身についてしまった不幸というのは、ある気がします。

孤立する菅首相 介在できる側近がいないという現状

 ただし、菅内閣にとって、首相の言葉以上に一番大きな問題は、菅首相自身が「無派閥出身」であることです。首相が無派閥ゆえに、現在のように内閣支持率が30%台にまで落ち込んでしまった緊急事態でも、「殿、大丈夫でしょうか」と自民党内から援軍がなかなか来ない。

 菅首相が官房長官だった時は、その援軍が二階俊博氏でした。官房長官という立場なら、党の幹部ともこまめに連絡がとれたのですが、首相という立場になってしまってはなかなか連絡がとれない。本来ならば、安倍政権における菅官房長官と同じ役割を果たす側近がいるべきなのですが、介在できる側近がいないというのが実情です。その意味では、加藤勝信官房長官があまり機能してないともいえるわけです。

 ここでもチーム菅が、見えてこないという問題がある。唯一、菅首相のために泥をかぶる覚悟で仕えているのは、森山裕国対委員長ぐらいではないでしょうか。ある自民党幹部は、「森山さんが官房長官だったら一番よかったが、そうだったとすると国対委員長がいない」と言っていました。菅首相には本当の意味での「側近」がいないのです。

当選同期、秋田人脈、神奈川人脈……菅“一族”政権の中身とは

 私は「菅“一族”政権」と名づけていますが、菅政権で重用されているのは菅首相の「一族」です。つまり要職についている人たち全員が菅首相と個人的な関係を持っている。たとえば首相の選挙区がある神奈川人脈(小泉進次郎河野太郎)や出身県である秋田人脈から要職についている議員が多い。また、菅首相が一番いま、頻繁に面会しているのは山口泰明選対委員長や佐藤勉総務会長といった「当選同期組」です。こういう「一族」の人たちが周りにいて、密接に連絡をとってはいるが、トータルとして、党全体に影響力を与える議員と、あまり密接に連絡をとっている節が見えません。

 野球に例えるなら、今の自民党ボールを見るだけで立っているだけの選手が多い。普通、強いチームは、守備についた全員が、かかとを上げて、どんな状況でも、膝をやわらかくしてボールが飛んでくるのを待っているものですが、今の自民党はみんなべたっとかかとをつけて立っているだけ。お手並み拝見みたいな空気が強くある気がします。

北海道2区の候補者擁立見送りが今後の火種になる可能性

 しかし、だからといって「菅おろし」が始まるわけでもない。今国会での野党の対応を見ていればわかるように、このコロナの中で、「菅おろし」を始めたら、世論の強烈な反発があるのは火を見るより明らかです。自民党は「なにやってんだ」という声が起こることが怖いのです。過去そのパターンで、何度も痛い目にあってきましたから。「身内の嫌気」がいちばん選挙に影響することを彼らは骨身にしみてわかっています。

 ただ、「菅おろし」がすぐに活発化することはないにしても、今後の火種としてくすぶってきそうなのは、収賄罪で在宅起訴された吉川貴盛元農相の議員辞職に伴う北海道2区の衆議院補欠選挙(4月25日投開票)で、自民党が候補者擁立を見送ったことでしょう。

 2000年の秋に、春は4月、秋は10月に統一補選を行う方式になって以降、補選で自民党が候補者擁立を見送ったのは2回しかありません。1回目は2000年小野寺五典氏の議員辞職に伴う補欠選挙。このときに候補者擁立を見送ったのは、議員辞職した小野寺氏の議席をあけておこう、もう一度再起の芽を残そうという理由でした。

「悩みに悩み、断腸の思いだった」候補者見送り

 そして2回目が、2016年宮崎謙介氏の議員辞職に伴う補欠選挙です。この時は自民党の中では候補者を立てるべきという声がとても強かった。小選挙区制度のもとでは、議席を一度明け渡すと、なかなか取り戻せません。宮崎謙介氏の件は個人の不始末だから、まったくスキャンダルとは無縁の候補を立てたほうがいいという声もあったのです。しかし当時の谷垣禎一幹事長が、猛烈に反対して、見送られました。その後、同選挙区は補選で勝った野党の泉健太氏の指定席になりました。

 今回の補選でも、候補者は出した方がよいという声が自民党内では圧倒的に多かった。しかし、山口選対委員長が「悩みに悩み、断腸の思いだった」と語り、見送る決断をしました。この決断の背後には菅首相の意向もあったのでしょうが、この「見送りの判断」がのちのち政権運営に影響を与えるかもしれません。それほど今回の候補者擁立見送りは、党内で評判が悪いのです。

石破氏、岸田氏ら「ポスト菅」の動き

 実際、「ポスト菅」をにらんで具体的な動きも少しずつ出てきています。石破茂氏が緊急事態宣言首都圏4都県で始まった1月8日に、福岡県内で9人で会食をしていたと報じられましたが、あれは明らかに、多数派工作。いずれ来る総裁選のための推薦人集めだったのではないかと想像がつきます。しかも石破派(水月会)は1月21日の会合で、会長を退いた石破氏を顧問に充てる人事を決めました。顧問というのは、普通は会長を辞めたときになるものです。しかし、このタイミングで慌てて顧問になったというのは、少し永田町がざわついてきたということの証左です。

 また、最近では菅首相と昨年総裁選を戦った岸田文雄元外務相が頻繁にテレビに出て、コメントを発信しています。ある番組では司会者に問われる形で「(総裁選について)コロナが最優先だけど、チャンスがあれば出たい」と、早々宣言していました。こうした動きに、あるベテラン議員は「はしゃぎすぎるな」と岸田氏に釘をさしたそうです。

 河野太郎氏をワクチン担当相に任命したのも、菅首相が後継者に、と考えた結果だという見方もできます。緊急事態宣言下で、政治家も人と直に会えない状態が続いています。「会食は飯を食うためにやってるわけではない」とまで言っていた二階幹事長ですら、今は幹事長室で一人で弁当を食べているそうですが、実は、みんなそれぞれ、たった一人ろうそくの炎の下で刀を研いでるのです。

コロナが下火になったら、菅首相に風が吹くか

 今後のポイントは、緊急事態宣言が終わって、コロナがある程度下火になってきた時でしょう。うまくこの医療ひっ迫の状況を乗り切ったら、もしかしたら菅首相に風が吹くかもしれません。

 内閣支持率は30%台になりましたが、私は、なにか大きな不始末をしないかぎり、これ以上支持率が下がることはないと思っています。12月に菅首相に会った時にも言ったのですが、総理大臣というのは避雷針です。国民の不満は全部、みんなそこに落ちてくる。しかし、雷(コロナ)がある程度大人しくなれば、避雷針もだんだん安泰になる——。

 むしろ、首相が「切り札」と位置付けるワクチン接種が順調に進めば、一気に支持率が上昇に転じる可能性は高いと思います。

内村航平の言葉が政権内の合言葉になっている

 あとはやはりオリンピックでしょう。国際社会全体の流れに、決定的な影響を与える問題について、菅内閣はどう対応するか。

 1月27日に、世界全体でコロナに罹った累計患者数が1億人を超えました。WHOは、アスリートにワクチンを優先することには懐疑的だとも言われています。こういう国際社会の声に対して、どういうメッセージを発するのか。

 去年の11月、体操の内村航平選手は国際大会の閉会式のスピーチで、東京五輪について触れ、「“できない”ではなくて、“どうやったらできるか”を皆さんで考えて」と語りました。この言葉が、今、政権内や組織委員会の中でも「合言葉」のようになっているそうです。しかし、一方でオリンピックは止めるべきだという世論も大きい。オリンピックに対する判断が、政権の浮沈を決めるという可能性も今後は出てくるでしょう。

 これは、55年体制時代からの、政権運営の「いろは」ですが、「重要問題は、ばらして処理する」ことが鉄則です。重要問題に対する決断の時期が重なると、結局、その決断の重みの中で潰れてしまって、何もできないことがよくあるのです。

 今、菅首相が本当にやらなければならないのは、まず大きな重要課題を、一つ一つ切り離して決断していくことです。コロナも、ワクチンも、オリンピックも、衆議院解散も、全部一緒に考えるとしたら、行き詰まってしまう。ここをどう乗り切るかに、今後の政権の行方はかかっているといえるでしょう。

(後藤 謙次/Webオリジナル(特集班))

施政方針演説をする菅首相 ©️時事通信社