中心市街地の空洞化によって、日本の多くの商店街が抱えるようになったシャッター通り問題。しかし、地域ならではの知恵を絞ったユニークな取り組みで、元気を取り戻した街の話題もちらほらと聞こえてくる。今回取材に伺った別府駅北高架商店街も、自然と人が集ってくる素敵なにぎわいをもった商店街のひとつだ。

一軒のカフェからはじまった商店街のつながり

九州でも有数の温泉地として知られる別府。その駅前からちょっと離れた場所にある北高架商店街。もともとは、飲食街としてにぎわっていたそうだが、駅前にできた大型店や駐車場によって、駅からのつながりを分断されたこともあり、数年前まではその半数のシャッターが締まったままの商店街だった。

そこに、2011年4月オープンしたのが商店街入口に面した「CUE CAFÉ+(キューカフェ)」だ。この高架下は、周辺の住民にとって駅までの近道であるものの、当時はあまりの暗さに遠回りする人も多かったそう。そんな場所への出店に不安はなかったのか?現在、このカフェの店主を務める木部真穂さんのご主人がその決断に至ったそうだが、この独特の雰囲気をもった商店街の魅力に「シャッターは必ず開く」と確信したそうだ。

【画像1】ギャラリーとしても使われるCUE CAFE。商店街の入口として、人や事いろんなものを受け入れる場所。(写真撮影:アポロ計画

「人が人を呼ぶ」という言葉通りに、「CUE CAFÉ+(キューカフェ)」のオープンに続いて、もともと別府でレコードショップを経営していた日名子英明さんが移転してくる。日名子さんの場合は、以前のお店が入っていたビルの改装に伴っての移転だったそうだが、この商店街に移ることには多少の不安も感じていたそう。しかし、今ではこの商店街になくてはならない顔になっている。

【画像2】中心メンバーの一人・日名子英明さん。まずは、自分たちが楽しめなくてはと語る通り、話しの端々に街への思いが伝わってくる。(写真撮影:アポロ計画

【画像3】日名子さんの経営するブック&レコードショップ「ReNTReC(レントレック)」。アナログレコードがズラリ。(写真撮影:アポロ計画

【画像4】他にも、雑貨店や洋服のリメイクショップなど、わざわざ足を運びたくなるようなユニークなお洒落ショップがそろっている。(写真撮影:アポロ計画

毎週土曜、ゆるやかに人が集まるフリーマーケット

なくてはならないといえば、日名子さんたちが中心となって運営する2012年4月から毎週土曜日にスタートしたフリーマーケット。その名も「Slowly Market」。取材当日は、小雨模様の土曜日。マーケットの出店者が、各々好きな時間にやってきて商店街の通路にお店を出してゆく。お菓子を売る店もあれば、古着を売る店、占いもある。気負わず、みんなが思い思い好きな感じで集まっているまさにスローリーな様子だ。

【画像5】500円のワンコインで誰でも参加できるフリーマーケット。気づけばおしゃべりに花が咲いている。(写真撮影:アポロ計画

もともと、音楽関係のイベントを開催することの多かった日名子さん。しかし、この商店街では、打ち上げ花火的なイベントではなくて、偶然通る人も、わざわざやってくる人も、いろんな人が自由に自然に集まってくるには、
フリーマーケットが一番しっくりくる」仕掛けになると感じていたそう。

「とりあえず3年間は毎週土曜日に休まず開催する予定」だが、ゆっくりゆっくり、続けていくために、明確な役割分担はあえて避けて、出来る人が出来るときに善意でお世話をする。そんな依存しない関係性も紡いでいるそうだ。このフリーマーケットの参加がきっかけで、2週間後にはこの商店街への出店を決めたお店もある。日名子さんも、「フリマへの参加するなかで、商売としてチャレンジしてくるような人が出れば」とも話す。

【画像6】近隣に暮らす人にとっては、安心できる生活道路にもなっている。(写真撮影:アポロ計画

この商店街をにぎやかにしているもう一つの立役者は、アートだろう。地元のアーティストが手掛けたという作品が、ここかしこを彩っている。こんな自由なことができるのも、「この商店街を管理する会社側の理解があってこそ」とみんな口をそろえる。これまでには、高架下ならではのメリットを活かしてファッションショーなどを開催したこともあるそうだが、そうした企画にも理解を示してくれているそうだ。

【画像7】共同トイレを彩るのは、地元のアーティストの作品。(写真撮影:アポロ計画

もちろん、昔からここに店を開いている方々の理解も大きい。「先輩たちが迷惑に感じることはしない」のが暗黙のルールなのだとか。新旧入り交じった独特の雰囲気は、この商店街の魅力を倍増いることは間違いない。人のつながりによって、商店街の魅力を復活した別府北高架下商店街。多くの問題を抱える日本の商店街のヒントがみつかる場所となりそうだ。

【画像8】古きと新しきが絶妙に混在する街。「おはよう」「ありがとう」と街角で、挨拶が行き交う風景も心地よい。(写真撮影:アポロ計画

別府駅高架下フリーマーケット
HP:http://slowlymarket.jimdo.com
写真撮影:アポロ計画