企業では、メンバーの価値観が多様化しているため、リーダーの一律の指示・命令による従来のトップダウン型のマネジメントでは、メンバーは積極的に働こうとしなくなり、受け身に回ってしまいがちです。そのため、リーダーはメンバーをうまく巻き込むようなボトムアップのリーダーシップを発揮する必要があります。そこで、今回は、メンバーが自ら率先して行動するようになる方法について解説します。この方法は3歳の子どもにも効果があるのです。

5つの質問を繰り返すだけで…

 筆者は以前から、リーダーシップの実践力を高める演習プログラムを実施しています。その演習参加者に対し、メンバーの能動性を高める方法として、会話の冒頭で次の5つの質問を繰り出すことをおすすめしています。

(1)やってみてどうでしたか?
(2)うまくいったことは何でしたか?
(3)うまくいかなかったことは何でしたか?
(4)改善したいことは何ですか?
(5)サポートを得たいことはありますか?

 一方的に指示・命令するだけでは、メンバーは理解、納得していないかもしれず、受け身になりがちで自発的な行動を促すことができないかもしれません。その結果、成果が出にくくなります。成果が出ないからといって、さらに指示や命令を重ねると、メンバーはますます受け身になったり、抵抗感を覚えたりして、成果はさらに低下してしまいます。

 しかし、この5つの質問の手法を使えば、リーダーは質問をするだけなのでメンバーが進んで話すようになります。メンバーが自分で考えて、自分の行動を修正していくことができるようになり、その結果、メンバーの能動性が高まり、成果が出やすくなるのです。

 何もトップダウンの指示・命令を全くしてはいけないと言っているわけではありません。会話の冒頭に5つの質問をして対話をし、その上で指示・命令をすれば、メンバーの巻き込み度合いが高まるため、その後の指示・命令の効き目が格段に高まるのです。

 この手法を紹介すると「5つの質問をしても、メンバーから答えが返ってこない」「能動性が低い人には、この手法は使えないのではないか」といった質問をよく受けます。メンバーから答えが返ってこない場合は返答を強要しないで、「次回また、同じ質問をするので聞かせてくれ」と言って、繰り返し実施するとよいでしょう。

 返答できない人はいつの間にか、指示・命令のトップダウンに慣らされてしまって、後天的に能動性が低下しているだけなのです。なぜなら、この5つの質問は3歳の子どもの能動性を引き出すのにも効果があるからです。

 実際に、筆者の演習プログラムに参加した自動車メーカー勤務の母親が毎日の保育園の帰りに、この5つの質問を自分の3歳の子どもに数週間実施してくれました。そのときの会話の実例が表の通りです。これは一例ですが、5つの質問に対する的確な返答をほぼ引き出してくれています。

 3歳にもなると、ある程度自己主張できるようになります。その主張を通そうと泣いて自分の意見を通そうとすることもあり、母親は働きながら子育てをする限られた時間の中で、つい怒ってしまうこともあったそうです。多くの親が経験していることだと思います。

 ところが、同じ形式と順番の5つの質問を繰り返し実施する中で、母親としても「ああしろ、こうしろ」と指示・命令する代わりに、子どもに質問しようという気持ちが常に持てるようになりました。また、息子さんも質問されることで、これまでのようにわがままを言って母親が構ってくれるのを待つのではなく、自分から進んで道筋を立てながら話そうとするようになったそうです。

 そして、自分の身に起きた出来事を真剣に聞いてくれていると認識してくれるようになり、その気持ちが芽生えたからか、自分のやりたいことを落ち着いて説明するようになって、過度な自己主張をする回数が確実に減ったといいます。まさに巻き込み型のリーダーシップが発揮された事例です。

 3歳の子どもができることをビジネスパーソンができないはずがありません。できないとすれば、過度な指示・命令のトップダウンのマネジメントにより、メンバーの能動性が一時的に低下していることが考えられます。5つの質問による会話を通じて、家庭においても職場においても家族やメンバーの能動性を高めたいものです。

モチベーションファクター代表取締役 山口博

メンバーの行動を促すには…