累計発行部数37万部を超える島本理生による直木賞受賞作を、北川景子主演、堤幸彦監督のタッグで映画化した『ファーストラヴ』。2月11日(木・祝)からの公開に向け、作品への期待を高める解説動画が到着。本稿では、この動画をもとに本作の見どころをチェックしていきたい。

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■“心の闇”にスポットを当てる、スリリングかつ深みのあるストーリー

アナウンサー志望の女子大生が父親を刺殺するという衝撃的な導入から幕を開け、“稀代の問題作”とも称された原作を完全映画化した『ファーストラヴ』。本作では、主人公である公認心理師の真壁由紀(北川)が、父親殺しの容疑者との面会を通して事件の真相に迫っていく。

「動機はそちらで見つけてください」という挑発的な言葉で世間を騒がせていた父親殺害の容疑者、聖山環菜(芳根京子)を取材することになった公認心理師の由紀(北川)。夫の義弟で、大学時代の同級生である弁護士の庵野迦葉(中村倫也)とともに、動機を探るべく環菜と面会を重ねていくが、しだいに彼女と自らに似た部分を見いだした由紀は、蓋をしていた自身の過去と向き合うことになる。

「なぜ父親を殺さなければならなかったのか?」という動機を巡るサスペンスであり、環菜のミステリアスな存在感や二転三転する供述などが観る者を翻弄する本作。環菜以外の登場人物の過去にもなにやら暗い影が…と、物語が進むにつれて加速度的に疑問が浮かび上がる、スリリングな展開で興味を持続させていく。

そんなサスペンス的なおもしろさの上に加わってくるのが、“心”に重きを置いたストーリーだ。島本作品といえば、これまで映画化された「ナラタージュ」や「Red」などのように、女性の心の内面が繊細に描かれていることが特徴の一つ。

本作では、心に問題を抱える人やその周囲に対し心理状態の観察や分析、さらに助言や援助を行う職業である公認心理師を主人公に据えることで、心理学の要素を作品に取り入れ、女性が抱える心の闇に深くメスを入れていく。

解説動画内で北川が「外側から見たら完璧で羨まれるような女性だけど、実は心に傷を負っていて、それをなかったことのようになんとか折り合いをつけて生きている」と語っているように、由紀もトラウマを抱える人物。彼女が環菜との面会を通して、過去を乗り越えようとしていく姿が、作品の大きな軸となっている。

事件の謎と直接的に結びつく環菜の内面はもちろん、彼女以外の登場人物たちの心も掘り下げることで、深みのある物語が生みだされている。

■豪華キャストたちによる、見ごたえのある演技

このような重厚なストーリーを成立させているのが、豪華なキャスト陣だ。北川、芳根、中村のほか、迦葉の義理の兄で由紀の夫である真壁我聞役に窪塚洋介、環菜の両親役に木村佳乃と板尾創路、由紀の母親役に高岡早紀と実力派たちが名を連ね、演技合戦を繰り広げていく。

心の闇をひも解いていくシリアスなストーリーや、複雑に絡み合った人間関係に加えて、面会室や法廷といった話し手に焦点が当たるシチュエーションも多いため、役者たちの演技を存分に堪能することができる本作。

北川が「完璧な女性だけど、どこか危うさや脆さがあるというふうに表現できたらいいなと思った」と話し、中村が「自分の経験と迦葉の経験してきたものの感覚が、どうにかリンクできないかと常に考えていた」と言うところからも、それぞれが演じるキャラクターが抱える複雑な心情を表現しようと向き合っていたことがわかる。

そのなかでも特に、引き込まれるような演技を見せているのが芳根だ。挑発的な顔や冷ややかな一面など場面ごとにコロコロと表情を変え、謎めいた印象を与えたかと思えば、「いまからでも私が彼女を救えるなら救いたいと、すごく思った」と、同情にも近い感覚を環菜に対して覚えたという言葉通り、キャラクターの内面に寄り添ったエモーショナルな芝居を披露。面会室で涙ながらに思いをぶちまける一幕など、感情を爆発させる演技は圧巻の一言だ。

■登場人物に感情移入させる、巧みな映像表現

さらに、ストーリーや役者たちの演技に加えて注目したいのが、それらを支える映像美だ。メガホンをとった堤幸彦監督といえば、映画、ドラマのみならずCMやPVを手がけてきた豊富な経験があり、独特のカメラワークをはじめ、映像的な表現の巧みさで知られている。

本作を手がけるにあたり、「非常に細やかな心の闇というところを映像で表現するにはどうすればいいのだろうと、とにかく不安だった」とこぼしている堤監督だが、面会室のシーンでは、差し込む光の色味に変化をつけ、キャラクターの心情を表現するなど確かな手腕を発揮。

中村も「映像表現という意味でも、物語の登場人物にグッと入っていく」と絶賛しており、どんよりとした空の下を、血まみれの環菜が包丁を手にとぼとぼと歩く映像表現など、作品のダークな雰囲気を生かしつつ、観る者の興味をガッチリとつかむ見せ方で仕上げている点はさすがと言える。

誰もが少なからず抱える、心の闇というテーマを中心に据えつつ、そこにサスペンスのテイスト、役者たちの熱演と映像美が加わったことで、万人が共感できるエンタテインメントとして仕上がっている『ファーストラヴ』。ぜひ劇場で、物語の全容を見届けてほしい。

文/サンクレイオ翼

極上のサスペンス・ミステリー『ファーストラヴ』の見どころは?/[c] 2021「ファーストラヴ」製作委員会