コロナ禍で、生活サイクルテレワークが定着した人からよく聞かれるのが「運動不足になった」との声です。テレワークへの切り替えで通勤時間が減少、あるいはなくなったことで、日常生活上で「歩く」機会が大幅に減り、「1日の歩数が50歩の日があって、さすがにだめだと思った」「買い物に出る日以外はほとんど歩いていないかも」「通勤は立派な運動だったんだな」と感じる人もいるようです。

 運動不足が慢性化すると、体のさまざまな不調につながるといわれていますが、中には「最近、段差がないところでよくつまずく」「よろけて転びそうになることが増えた気がする」という声の他、「運動不足で骨折しやすくなるって本当?」といった疑問の声も聞かれます。

 運動不足によって転びやすくなったり、骨折しやすくなったりすることは実際にあるのでしょうか。お茶の水セルクリニックの寺尾友宏院長(整形外科)に聞きました。

刺激不足で骨密度低下

Q.そもそも、運動不足とはどのような状態のことを指すのでしょうか。

寺尾さん「世界保健機関(WHO)は週に150分の緩い運動、もしくは75分の激しい運動を行っていない状態を『運動不足』であるとしています。厚生労働省は1日あたり、男性9200歩、女性8300歩の歩行や、週2回以上、1回30分以上の運動を行うことを勧めていますので、これらの条件を満たしていない場合、運動不足といえます」

Q.運動不足を自覚する人の中には「段差がないところでつまずくようになった」「転びそうになる回数が増えた」などの変化を自覚する声があるようです。実際に運動不足によってこういったことは起こり得るのですか。

寺尾さん「運動不足で転びやすくなることはあります。原因として考えられることは(1)筋力の低下により、自分で思っているような動作ができていない(2)バランス感覚の低下により、思ったような動作が行えない、の2つです。

まず(1)ですが、筋力が低下すると、以前と同じように体を動かしているつもりでも違う動きになっていることがあります。例えば、歩いているとき、通常でも足は地面から数センチ程度しか上がっていないのですが、筋力が低下するとさらに上がらなくなるため、低い段差でもつまずいてしまいます。その結果、転倒してしまうことがあるのです。

(2)についていえば、日常的に体を動かしていないとバランス感覚が衰えることがあります。つまり、極端に体を動かしていない状態では、バランス感覚の低下によって転倒してしまうリスクが上がるのです」

Q.運動不足によって、骨折のリスクが上がるのは事実でしょうか。

寺尾さん「事実です。骨は刺激を受けなくなると密度が下がります。宇宙飛行士が長時間、無重力空間で生活すると骨密度が低下するのと同じ原理です。骨密度が下がってしまうと、転んだだけで骨折してしまうことがあるため、運動不足によって骨折のリスクが上がる可能性があるといえます」

Q.専門医からみて、運動不足が原因と考えられる骨折とそうでない骨折には、何らかの違いがあるのでしょうか。

寺尾さん「運動不足による骨密度の低下に関連して骨折を起こす場合、手首や股関節、背骨などを骨折してしまうことがあります。また、運動不足で筋力やバランスが極度に低下している場合、小さなけがでも大きな骨折につながることが考えられます」

Q.慢性的な運動不足を自覚している人が新たに運動を始めようとするとき、気を付けた方がよいことや意識すべきこととは。

寺尾さん「急に過激な運動を始めると思わぬけがをすることがあるため、徐々にレベルを上げていくことが大切です。軽い運動からスタートし、1週間ごとにレベルを上げていくのがよいでしょう。厚生労働省が発表している、運動習慣を確立するための指針『アクティブガイド』を活用するのもよいと思います」

Q.整形外科医として、運動不足の人が新たに始めやすい、骨の強度を維持・強化するためにおすすめできる運動はありますか。

寺尾さん「個人的には、歩く程度のゆっくりした速度で走る『スロージョギング』をおすすめします。足踏みや、ゆっくりと腿(もも)上げを行うだけでもよいでしょう。振動刺激が加わることで骨の強度が上がりやすくなります」

Q.新たな運動をすること以外で、運動不足解消に役立つことや、骨折を防ぐためにできる食生活の工夫などはありますか。

寺尾さん「骨折を防ぐには、カルシウムの摂取と日光を浴びることが基本です。カルシウムは乳製品から摂取した方が吸収がよいといわれているので、アレルギーがなければ、チーズや牛乳などをおすすめします。日光浴の時間は夏は木陰で30分程度、冬は顔や手に1時間程度、日光が当たるだけで十分といわれています」

オトナンサー編集部

ステイホームが骨折リスクに?