プロ野球の春季キャンプが開催中だ。毎年、助っ人として駆り出されるのが臨時コーチ。中日で立浪和義氏、ヤクルトでは古田敦也氏が招かれたが、ロッテではダイエー(現ソフトバンク)時代の2004年に平成で唯一となる三冠王に輝いた松中信彦氏(47)がキャンプ期間限定で若手選手らを熱血指導している。

ロッテの安田(右)を指導する松中信彦臨時コーチ(鶴田真也撮影)

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 「引き出しが多い方が選手としては助かる。もっといろいろな練習方法を教えていきたい。選手個々がその中からチョイスして、1年間でルーティンの練習をつくって試合に入る、というところを形作ってもらえれば」

 ロッテは昨季のチーム打率が12球団ワーストの2割3分5厘。主力として期待される4年目の安田尚憲内野手、3年目の藤原恭大外野手ら左打者の有望株の打力向上は急務だった。ところが井口資仁監督や河野亮打撃コーチがいずれも右打ち。そこで左打ちの指導者が必要と考え、松中氏が沖縄県石垣市でのキャンプに臨時コーチとして招かれた。

 松中氏は独立リーグ球団の香川オリーブガイナーズで昨季まで1年間ながらゼネラルマネジャー兼総監督としてチームを率いたが、NPBでのコーチ経験はゼロだった。それでも井口監督とはダイエーで同期入団の間柄。指揮官も現役時代から練習量や打撃の引き出しが多いことを知っており、「松中臨時コーチとは、下(半身)を使って打つという考え方が共通している」と思い切ってオファーをしたという。

 松中氏はキャンプ初日から言葉や身ぶり手ぶりで若手の左打者を中心にアドバイスを送り続け、午後5時半ごろまで居残り練習に付き合った。2日目にはフリー打撃で打撃投手の肩慣らしの時間を利用してケージに入り、デモンストレーションを兼ねて自慢の長打力を披露。わずか7スイングで3本の柵越えを放った。

 「僕もまだちょっとは打てる。言葉よりも、実際に打ったほうが伝わる」と振り返り、プロ野球でのコーチングも「やっぱり若い選手に教えるのはすごく楽しい。有望な選手については前から知っていたので、そういう選手を教えるというのも僕自身、勉強になる」

 特にティー打撃では左の軸足の使い方について徹底的にたたきこんでいた様子で、体で覚えさせようと20本連続で自らトスをすることもあった。藤原がフリー打撃に入った時は、片足で立つ時間を長くさせ、1球ごとにフォームの良しあしについて声をかけ続けた。

松中信彦臨時コーチ(左)は打撃ケージに入る藤原にも熱心に声をかける(鶴田真也撮影)


 そんな指導の的確さを見て、ロッテの球団フロントも松中氏をキャンプだけでなく、シーズン中を含めて通年で若手を指導できないか本格的な検討をスタート。河合克美オーナー代行兼球団社長も「指導がすごく分かりやすい。選手たち一人一人に対し、丁寧にやっていただいて、それがどんどん成果として出てきてる。今は臨時コーチという形だけれども、ぜひシーズンを通して、アドバイスを継続して頂けたらと思っている。どういうふうにしていくか球団本部でも考えている」とした。

 ロッテの監督・コーチ陣にはダイエーソフトバンク出身が多い。井口監督のほか、新加入の森脇浩司野手総合兼内野守備コーチ鳥越裕介2軍監督、河野打撃コーチ清水将海バッテリーコーチ的場直樹戦略コーチバッテリーコーチ補佐、大隣憲司2軍投手コーチの計7人もいる。

 昨季日本一になったソフトバンクが唯一負け越した相手がロッテ。対戦成績はロッテの12勝11敗1分けだった。元鷹メンバーが指導者に多いことも相性が良い要因の一つと言えるかもしれない。

 松中氏は2016年3月に引退を表明後は古巣ソフトバンクからコーチとしての復帰の声が1度もかかっておらず、因縁めいたものもささやかれるが、「ソフトバンク(への対抗心)のことをよく言われるが、そういうのは全くない。球界をこれから引っ張っていく安田、藤原を育てていかなければいけない」と淡々と答えるのみだ。

 ロッテにとっては指導者として再評価されている松中氏が球団に残ってくれれば、鬼に金棒。一方の松中氏にとってもNPBでの本格的な指導者の第一歩として願ったりかなったりだろう。注目したい。

[文・写真/中日スポーツ・鶴田真也]


※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

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