指導中の事故をめぐり、福岡市の親子が全柔連(全日本柔道連盟・東京都文京区、山下泰裕会長)を訴えていた裁判で、両者が2月9日、東京地裁で和解した。父親らが同日、会見で明らかにした。

全柔連が暴力の根絶に努めること、コンプライアンスホットラインについての関係規則を1年以内に改正すること、通報を受けたとき、双方の意見を十分に聴取すること。改善に向けた取り組みの内容をウェブサイトに掲載するなどして、透明性を持たせることなどが盛り込まれた。慰謝料330万円の請求は放棄した。

「今回の和解はスタートラインにも立っていない。全柔連が1年後に対応策を決めてからが本当のスタートだと思っている。今度こそ、暴力を根絶できるように実効性のある対策を全柔連にもとめたい」

中学時代、指導者からの技で2度失神

全柔連を訴えていたのは、福岡市の石阪正雄さん(50)と勇樹さん(20)の親子。

勇樹さんが中学2年生(13歳)だった2014年10月福岡市の柔道場で指導者からかけられた「片羽絞め」という技で、2度も失神させられて「迷走神経性失神及び前頸部擦過傷」との診断を受けた。失神のショックで柔道をやめざるをえなかったという。

正雄さんは、この柔道場と住所をともにする福岡県柔道協会に相談するも、対応を受けられなかったことから、全柔連の内部通報制度「コンプライアンスホットライン」に通報。全柔連は、親子や指導者への聞き取りなど十分な調査をしないまま、県柔道協会からの報告を受けて「問題とすべき事実は確認できない」とした。

親子は、2019年4月19日、全柔連を相手取り、計330万円の慰謝料をもとめて東京地裁に裁判を起こしていた。提訴会見では、通報した被害者と加害者に聞き取りすらしない全柔連のホットラインの姿勢を批判した。

違法性はすでに認められている

この訴訟の前に、親子は指導者らに損害賠償請求訴訟を起こしている。

福岡地裁は、技を使ったことの違法性を認め、指導者に慰謝料の支払いを命じた(福岡高裁は控訴・附帯控訴を棄却する判決)。

2018年6月、指導者の最高裁への上告申し立てが却下されたことで、4万4000円の支払いを命じる判決が確定している。

和解の内容

会見では、和解の内容が発表されるとともに、和解条項の評価は、実際に全柔連がどのように変革されるかで決まることが強調された。

代理人の宮島繁成弁護士は「地方の中学生だとしてもかろんじず、ひとつひとつの通報に丁寧に耳を傾け、中立な態度で取り組むべき」とした。

正雄さんは「いろいろな事件がありながら、組織として変わってこない歴史をもつ全柔連という巨大な敵に立ち向かえた」と話す。

とはいえ、和解によって、全柔連が変わることには期待を寄せている。

改善がみられない場合は、申し入れなどを起こすことも考えている。

息子からのLINE

和解の成立をLINEで報告すると、勇樹さんから「長い間お疲れ様。十分満足している」と返答があった。

「和解か判決を求めるかの岐路で、息子には戦ってほしいという気持ちも見えていた。このLINEがその通りなのかは…本当は悔しかったんじゃないかという思いもある。父親としては」

「暴力の根絶に努める」柔道指導で失神、全柔連が被害者と和解 相談対応など改善約束