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近年、日本ではBL漫画を原作にした映画が多数公開されている。

昨年を振り返ると関ジャニ∞の大倉忠義(35)と成田凌(27)がメインキャストを務めた「窮鼠はチーズの夢を見る」、そして古川雄輝(33)と竜星涼(27)の「リスタートはただいまのあとで」が公開に。さらに今年1月には岡田将生(31)と志尊淳(25)のW主演映画「さんかく窓の外側は夜」が封切りとなり、話題沸騰中だ。

またBLドラマにも注目が集まっている。昨年、“チェリまほ”こと「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(テレビ東京系)が大ヒット。町田啓太(30)と赤楚衛二(26)はSNSのフォロワー数が急増し、それぞれの写真集も重版される事態となっている。

いっぽう昨年、タイのBLドラマ・タイBLも話題を呼んだ。「SOTUS」や「2gether」を筆頭に注目を集め、そのブームは世界規模に拡大。俳優陣のInstagramは瞬く間に拡散され、ブライトの愛称で知られる俳優・Bright Vachirawit Chivaaree(23)は現在658万人、さらにウィンことWin Metawin OPAS-iamkajorn(21)も476万人ものフォロワー数を誇る。

そんな注目を集める日本のBLとタイBLだが、両者を比較したときに違いも見られるという。

■同じBLでも、日本とタイとではカメラワークに違いが

「日本ではもともと00年代の後半から10年代の前半にかけて、BL映画を盛んに製作する時期があったんです。とはいえミニシアターでの上映とDVD化がメイン。今のように人気俳優が出演することは、まずありませんでした。

ところが、近年は著名な俳優がBL映画で主演を務めています。またBL映画だけでなく、同性愛者を主人公にした映画も多数公開されるようになりました。昨年の『his』では宮沢氷魚さん(26)と藤原季節さん(28)が、そして『影裏』では綾野剛さん(39)がメインキャストに。男性同士の物語に人気のある俳優が出演するようになったのは、時代の変化を感じます」

こう語るのは、映画学を専門としている金沢大学の久保豊氏だ。久保氏は先月まで、早稲田大学演劇博物館で企画展「Inside/Out─映像文化とLGBTQ+」を開催。日本の映画やドラマでLGBTQ+の人々や同性間の親密さが、どのように描かれてきたのかを紹介した。同展は多くのメディアで取り上げられるなど大きな反響を呼んだ。

タイBLについて「話の質がすごく高い。男性同士の物語をメインストリームに向けて多数提示しているのもいいこと」という久保氏。続けて、タイBLの“時代性”についてこう話す。

「タイBLはYouTubeやLINE TVなど、若い人たちがアクセスしやすいものにプラットフォームを置いて、多言語字幕付きで発信されています。“どうすれば見てもらえるのか”を戦略的かつ丁寧に考えているのでしょう。ですから、視聴者の幅がグローバルになっているんだと思います」

そんな日本のBLとタイBLを作品で見比べたとき、どんな違いがあるのだろうか?久保氏は「カメラワークにそれぞれ特徴があります」と語る。

「日本のものは主人公の顔をメインで見せるようになっているので、“見つめ合う”という行為が一つの大きなスペクタクルになっています。『チェリまほ』も結ばれた後のベッドシーンは、バストショットを軸に表情を強調していましたね。

対するタイBLは身体全体を使い、惹かれ合う2人が“どのように互いの距離を詰めていくか”を演出する傾向があります。カメラワークが違うということは、感情移入のさせ方が違うということ。そういう観点で見比べるのも面白いですよ」

■「溝口健二や河瀬直美と競うような作品を作り上げられれば」

いっぽう、それぞれに過渡期ゆえの課題もあると久保氏は指摘する。

「タイBLは編集に雑さを感じることがあります。『どうしてこんなショットのつながりになるんだろう?』と気になる点が多々あります。

あと大学や学校など、いわゆる“学園もの”の物語が同じような空間で繰り広げられるんですね。ちょっとハイランクだったり。同性愛以外にも多様な性表現(見た目や言動などで表す性)を描く点も魅力だと思いますが、『Manner of Death』のようにさらに設定の幅が広がると、より多くのファンが生まれるのではないでしょうか」

そして日本のBLについて久保氏は、自身の体験談を交えて話す。

「実は男性同性愛者の登場する映像作品について調べていた際、『そういう枠で作品を紹介しないで欲しい』という意見が芸能事務所から出るケースもあると知りました。たとえ俳優がその役を演じていなくてもです。まだまだ同性愛嫌悪が根強いのではと考えています。

また作品で同性愛をテーマとして扱っているにもかかわらず、制作陣が配慮に欠けた発言をすることも多々あります。そのことで映画への興味をなくしてしまう人たちもいるはず。制作陣や宣伝配給側が世界水準の価値観を学び、アップデートし続けることも大事だと思います」

久保氏は「日本で同性愛を描く作品が増えるのはいいこと」といい、「タイBLブームで、さらに後押しされるのでは。“同性愛の商品化”には注意が必要ですが、もしかするとBL作品は日本映画界の興行的な面で、希望となりうるかもしれません」と期待を寄せる。

「日本のBL漫画には、もともと色々なタイプの物語があるんです。高齢のキャラクターもいますし、それぞれの愛情表現があります。つまり、直接的な“愛情の示し方”ばかりではないということ。そんな多様な男性同士の物語を映像化するには、丁寧で巧みな脚本づくりと“誰も傷つけない”演出への強い志が必要です。

BL映画は原作が豊富で、マーケットも出来上がっています。それは編集だったりカメラワークだったり、音楽だったり、創作面で挑戦できる土台があるということ。作品として、例えば溝口健二監督や河瀬直美監督と競うようなものを作り上げられれば、国内外での日本映画の評価も高まりますし、映画界に新たな風を吹き込むことになるかもしれません」

期待を乗せたBL映画。次はどんな作品が届けられるだろうか?