コロナ禍において、「普通のライブをオンライン配信する」形で広まっていったオンラインライブだが、一般化した今、リアルライブとは差別化されたオンラインならではの演出を実現する技術も進化している。

(参考:【写真】バーチャル空間でももクロがパフォーマンスを披露)

 最新鋭の技術で臨場感溢れるオンラインライブを実現し、2020年6月の提供開始から約半年間で総動員数が250万人を突破した(※)テレビ&ビデオエンターテインメント「ABEMA(アベマ)」の『ABEMA PPV ONLINE LIVE(アベマ ペイパービューオンラインライブ)』の仕掛け人である、サイバーエージェント執行役員の藤井琢倫と、ももいろクローバーZのプロデューサーである川上アキラに、昨年11月に配信された、ももいろクローバーZの“視聴者参加型”配信ライブ『PLAY!』の話から、オンラインライブのこれまでとこれからについて話を聞いた。(鈴木梢)

※2020年6月20日12月31日までに「ABEMA PPV ONLINE LIVE」にて開催されたオンラインライブの視聴者数をもとに算出

・コロナ禍におけるオンラインライブの進化

―― 2020年から続くコロナ禍で、オンラインライブの形は徐々に変化してきたかと思います。この半年以上のオンラインライブの進化をどう見ていますか?

藤井琢倫(以下、藤井):オンラインライブにおける演出技術は、この半年で著しく成長したと思っています。ももいろクローバーZさんの『PLAY!』もそうですが、嵐さんが活動休止前最後の単独ライブでARやLEDを駆使した演出は非常にクオリティが高いものでした。ハイクオリティなXR演出や視聴者とのインタラクティブな企画を “リアルタイムに”できるようになってきたのがこの半年の進化だと感じています。

川上アキラ(以下、川上):『ABEMA PPV ONLINE LIVE』の技術は「こんなことまでできるようになったんだという」驚きの印象がありました。僕自身、今の生配信においてやっておくべきことは、生の反応をちゃんと取り入れていくことだと思ってて。それがスムーズにいけばいくほど、生のライブにおけるコール&レスポンスみたいになるじゃないですか。だから『PLAY!』では視聴者とのインタラクションのクオリティを突き詰めたんですけど、スムーズすぎて「これ、本当に生でやってるの?」って疑われたほどでした(笑)。

―― 昨年11月に開催されたオンラインライブ『PLAY!』は、リアルタイムな視聴者体験が重視されたそうですが、具体的にはどんなものだったのでしょうか?

藤井:今回の『PLAY!』で採用されたのは、ライブ開始前の視聴者の高揚感を高める場所として「カウントダウンラウンジ」の設置、楽曲のセットリストリアルタイムの視聴者投票で決める仕組みや、カメラを切り替えてライブを視聴できる「マルチアングル」機能です。それらの機能を活かしてももクロライブチームで演出してくださいました。

川上:僕らもこのコロナ禍で、オンラインで様々な取り組みをしてきました。それ以前には生のライブもたくさんやってきて、じゃあ今、ABEMAさんやクリエイターの方々と一緒に「今の僕らにできることを突き詰めたエンタメ」はなんだろうと考えた結果ですね。視聴者の方々の反応をリアルタイムに見ていても、僕らが共有したかった体験は共有できていたと感じました。

藤井:今回の『PLAY!』は、オンラインだからこそ作り出せたライブだったと思います。技術的により映えるという意味でも、体験としても。これまでオンラインライブってなかなか心の準備ができていないまま始まるみたいなところがあったと思うんですけど、今回のカウントダウンラウンジはライブ前の高揚感を高める前座的な立ち位置で当日はサプライズでメンバーの“影アナ”が流れ、モノノフのボルテージは最高潮に上がっていました。コメント欄では「本当のライブみたいだ」って声はけっこうあがってましたね。

川上:マルチアングル機能にしても、好きなものを自分でライブ中に選択できる楽しさは、アトラクション的な要素があって、ファンの特性に合っていると感じました。ライブを作っていても面白かったですね。

―― 『PLAY!』の演出アイデアは、ABEMAの技術ありきだったのか、川上さんやクリエイターの方々のアイデアありきだったのか、どちらが先にあったものなのでしょうか?

藤井:僕らは新しいオンラインライブの形を作るために環境や技術を進化させていたので、川上さんに「こんなことができるようになりました」とご紹介したんですよね。

川上:そのあとすぐに話が広がりました。「僕たちは次のオンラインライブでこういうことをしたい」と言ったときに、「ちょうどこんな技術がありまして……」と。

藤井:そうです。視聴者の方々が参加することによって面白くなるライブを、ちょうどお互い考えていたんですよね。

川上:ずっと「普通のライブをただ配信するだけ」というのが多かったと思うんです。でもそれが悪いというより、そうやって試行錯誤している時期だった。僕らもそういったライブはすでにやっていたので、せっかくやるなら次は違う形でやってみたいと思っていました。

・オンラインライブにおける現場の課題

―― 現状、オンラインライブにおける課題はどんなところにあると思いますか?

川上:藤井さんとは立場が違いますけど、アーティストマネジメント側はお客さんとの共通の体験をする時間をいかに楽しんでもらえるかを中心に考えています。その方向性は多分通常のライブをやっているのと配信ライブやっているのと変わらない。だから先ほども言ったように「今の僕らにできることを突き詰めたエンタメ」を作るという考え方が一番大事ですね。

 オンラインライブの技術がしっかりあることは確かです。アイデアも。ただ、実際に形にしようとすると費用やマンパワーなど、まだまだいろんな制約がある。そこが追いついて一緒に伸びていけたら、もっとすごいことになっていくのは間違いないと思います。

藤井:確かに、今の技術を最大限生かそうとすると膨大なコストがかかりますよね。本来はアナログだったものをオンライン化するとコスト構造が大きく変わり、利益改善につながるはずなのですが、まだファンの方々に何が喜んでもらえるのかを色々と試しているフェーズでコストをかけたライブが中心ですよね。

―― では、その課題を解決していくためにはどうしたらいいでしょうか。

川上:昨年夏にも、藤井さんたちと『ももクロ夏のバカ騒ぎ2020 配信先からこんにちは』でご一緒させていただいて、ひとつのマリーナを借り切ってライブハウスではできないようなライブを配信しました。今回の映像技術を駆使した『PLAY!』も、いずれもその時期にお客さんに提供できる最大限のライブを作ることを意識しています。お客さんを入れられないのであれば、入れられない状態でのベストを尽くす。方法はどうであれ、それだけを大事にしています。いつだってお客さんが一番なので。

藤井:リアルライブと違う点として、技術だけでなく演奏する場所の選択肢が広いという点はありますよね。2020年のオンラインライブは無観客なのに大きな会場でXRを駆使したコストも大きくかかるし、派手な演出をするアーティストが多かった印象があります。でも、たとえば思い出のライブハウスで行うとか、コロナで卒業式ができないから学生のために学校でライブをするとか、カラオケ店を復活させるためにカラオケ店を使ってライブをするとか。映像もスマホで見ている人が大半です。極端な話、スマホで撮影してもいいのかもしれません。ビジネスにしていくためのチャレンジはまだまだできると思います。

川上:単純に、「ライブはライブハウスでするもの」という固定観念があると思ってて。『ABEMA PPV ONLINE LIVE』の技術があれば場所の制約なくVR、XRなどを使って画を変えて、場所の特性に合わせた企画が実現できる。

藤井:今後リアルライブが戻ってきたときに、「オンラインライブはコンセプト重視で」などの棲み分けが生まれてくるのかなと思います。

川上:オンラインライブはオンラインライブで好きなので、リアルライブが戻ってきても残り続けて欲しいですね。「どんな技術を使って演出をしたら面白いか」はやってみないとわからない。オンラインライブではまだまだ試せることがあると思います。

―― ももいろクローバーZのメンバーの方々は、今回の『PLAY!』の手応えをどのように話されていましたか?

川上:終わった後の満足度や興奮度は、通常のライブと変わらないくらいのテンションでした。夏のライブはある程度想定内だったというか、通常のライブの枠組みでも考えられる範囲でのことだったんですけど、今回に関しては「ライブってこうだよね」という感覚がガツっとハマった感じがありましたね。カウントダウンラウンジとか、視聴者の投票でリアルタイムセットリストが変わる演出など、視聴者と一緒に作っていく感覚がアーティスト側の高揚感につながったと思います。

藤井:ライブが終わった後のコメント、感想合戦がめちゃくちゃ盛り上がるんですよね。モニター上にお題を出して、視聴者の方々にコメントしてもらうんですけど、アクティブ率がめちゃくちゃ高くて。

川上:ももクロのファンは昔からコメントと親和性が高いんですよ。コロナ禍に限らず配信はずっとやってきていたので。リアルなライブのときも終わってからの感想合戦が醍醐味なとこもありますし。

 例えば『灰とダイヤモンド』って曲の中で「砂にまかれても」という歌詞を佐々木彩夏が落ちサビで歌いあげるところがあるんですけど、曲が始まったときから「今日は巻かれないぞ」と皆でつぶやき合うっていうお約束があって。で、「砂にまかれても~」ってなったら「まかれた~」ってなるっていう(笑)。それはコメントをしながら楽しむ文化ですよね。 こういった文化が生まれたのは、実況をしながらというところからですよね。

・2021年、オンラインライブはどうなるか

―― もしコロナ禍が落ち着いてリアルライブが復活してきたら、オンラインライブはどうなると思いますか? なくなってしまうのか、共存していくのかなど、ご意見伺えれば。

川上:僕はもうその都度考えていくというか、「1カメだけでやってみよう」という日もあれば、すごく狭い空間の中でライブをして、皆がそこを覗き見るような形もありだし、今回の『PLAY!』でオンラインライブというものにすごく可能性を感じたので、試行錯誤していきたいと思いますね。

藤井:世の中的の流れとしてはオンラインライブが減ってリアルライブが増えるとは思います。でも、「ツアー最終日はオンライン配信を行うのは一般化すると思います。「最前列オンライン席の販売」とか、「ライブ直後のオンラインファンミーティング」とか、そういったオンラインだからできることは残って、共存していくと思っています。

川上:コロナ禍に限らず会場に来られないお客さんは存在するので、そこでABEMAさんが持っている技術などでより臨場感が演出できるようになって、リアルライブとオンラインライブが同時進行するような、ハイブリッドなものになったらいいですよね。オンラインライブが、より会場にいることに近づいていくというか。

藤井:「リアルライブに近い臨場感の追求」「オンラインライブだからこそできる楽しみ方」を技術面で実現して、リアルライブと補い合うというか、共存する形を考えていきたいですね。

左から川上アキラ氏、藤井琢倫氏