年が明け、今年度から我が子が小学校入学を控えている家庭では、その準備に忙しいことでしょう。同時に、心配事が増えていっていませんか?

保育園ママが戸惑う…小学校の「当たり前」

「友達はできるかしら?」「学校生活のリズムや勉強についていけるか心配」「給食を食べられるかな」「保護者同士の付き合いうまくやれるかしら」など、不安は尽きないもの。

それに加えて、コロナ禍の影響による不安も。

そこで今回は、これらの不安や心配に対して、専門家にアドバイスをいただきました。

お話を伺ったのは、名古屋大学 未来社会創造機構の特任助教であり、大学の非常勤講師として心理学を教えたり、心理学の知識を生活に活かすための講演等を行いながら、精力的に研究を行っている小嶋理江さんです。

一般社団法人子ども子育て・教育研究所(クペリ)の相談員でもあります。ご自身も2人の小学生のお子さんの子育てをしながら活動しています。

心理学の知識と子育て経験を踏まえたアドバイスは参考になりますよ!

ママがいつも頭に置いておきたいこと

小嶋さんは、我が子の小学校入学を目の前にして不安になるママに向け、まずはこんなメッセージをくれました。

小嶋理江さん(以下、小嶋)「我が子が新しい環境に無事適応できるかどうか、親にとって不安は大きいと思います。いつも頭に置いておきたいのは、私たち親が子どもにとっての安全地帯(安全基地)となることだと思います。

新しい環境となって不安なのは子ども自身も同じです。一緒になって親も不安になってしまうと、子どもはさらに不安になってしまいますよね。

安心して帰ってこられる場所があるからこそ、人間関係を広げ、好奇心や探究心を持って行動範囲を広げ、失敗や成功のさまざまな体験をしながら、大人になることを学んでいくのだと思います」

そして「それでもやはり心配はあるかと思います」と小嶋さん。ママたちの具体的な心配に対してアドバイスいただきました。

入学前の子を持つママへアドバイス

1.「友達ができるかどうか心配」

小嶋「友達とただ一緒に遊んでいた幼稚園や保育園の頃とは異なり、小学生になると、遊びを通して周囲の仲間とうまく付き合っていくことを学んでいきます。

子どもの小さなコミュニティの中で、最初は物理的な距離で友達関係ができていたものが、徐々に友達の人格的な部分で尊敬したり、共感したりしながら友達関係が親密になっていくように、友達との関係性も発達していくことになります。

仲間との関係の中で、自分のふるまいを学びます。子どもの小さなコミュニティは、時として、仲間はずれやいじめなどが起きる場合もあります。ですから、親としては心配ですよね」

●毎日、子どもの話に耳を傾ける

小嶋「毎日の子どもの話に耳を傾け、子どものコミュニティの中でどのようなやりとりがあったのかを確認しながら見守りましょう。

小学生になると、学年が進むにつれ、親よりも友達からの影響のほうが強くなります。良いか悪いかに関係なく、魅力を感じれば友達の真似をします。

ですから、どういう友達ができるか、どういう友達がクラスにいるのかは、それとなく把握しておきたいと私は思います」

事故と犯罪の予防策も忘れずに

●大人目線の客観的な評価はせずに受け止める

小嶋「子どもの話に耳を傾けるときに心がけたいのは、子どもがどう外の世界を捉えようとしているかに注目すること。子どもは子どもの目線で、子どもがとらえた世界を、子どもなりに解釈して、理解して、説明しようとしています。

ですから『それは嘘だ』『それは間違っている』『そんなことはおかしい』などと、大人目線の客観的な評価はせずに、受け止めるようにしたいですね」

●客観的な事実と子どもの主観的事実を比べて

小嶋「子どもが例えば『今日、〇〇くんにこんなひどいことを言われた』『今日先生がこんなひどいことを言った』などと話したとします。

そんなときも、あわてて先生に抗議の電話をするというのは避け、まずは子どもがどのように出来事をとらえたのかを受け止めた後、先生や他の人の話を聞いて、客観的な事実と、子どもの主観的な気持ちがどのような方向にどうズレているのか、なぜそうなったのかを、親として分析してみるのも良いかと思います。

もちろん、子どもの率直な話の中に大変な事実が含まれていて、すぐに対応が必要なときもあります。見逃さないようにするために、やはり日頃から子どもの話に耳を傾けることは習慣にしたいですね」

2.「学校生活のリズムや勉強についていけるか心配」

小嶋「学校生活や勉強、給食など、適応できるかなどの心配ごとは、率直に担任の先生に話をしてみるのも良いかと思います。学校や先生の対応はそれぞれ異なると思いますが、親身に対応してくれる先生もいます。

一人で抱え込んでしまうより、頼るのも良いと思います。学校での我が子の様子は、我が子の話に耳を傾けるだけでは把握しきれない場合もあります。

もし学習障害などの発達の問題があるのではないか?と不安になった場合には、学校側と連携を取っていったほうがよいこともあるため、あらかじめ関係を作っておくためにもおすすめです」

●評価の発言・他人との比較は控える

小嶋「もし本人が学校生活についていけないようなそぶりや発言をしたときには、どれくらいそれに対して苦痛を感じているかも、親として受け止めたいものです。ただし、ここでも大人の評価的発言は控えたいですね。

また、他人と比較しないことも、子どもの自尊心を傷つけないために重要だと思います。

『誰々は勉強できるのに、あなたは…』『誰々は給食を早く食べ終わってるのに、あなたは…』と、他人と比較して評価をするのではなく、我が子の中で比較するのが良いと思います。

『昨日は、時間がなくて給食一品食べ残したけど、今日はあとちょっとだったんだ。頑張ったねー』と子どもの中でどう努力し成長したかを基準にすることを心がけたいですね」

3.「PTAへの参加は必須?どのくらい関わればいい?」

PTAはメリットもあり。役員になったらポジティブにとらえて

小嶋「PTAに関しては、さまざまな話が飛び交っているので、躊躇することもあるかもしれません。学校によっても地域によっても活動内容や仕事量は大きく異なると思われます。色々な親御さんがいることも忘れてはいけないことです。

ただ、PTAに参加することにはメリットもあるので、何らかの役割を担った場合には、上手にやりたいところです。

PTAの会合が学校で行われれば、こっそり子どもの様子をのぞくことができたり、担任の先生と仲良くなれるチャンスも増えることから、ポジティブな関係を築けたりすることも。また、子どもも親が学校に関わる機会が増えることで安心したり、心強く感じたりします。

PTA役員になったら自分や子どもにとってプラスにするにはどう関わろうか?と前向きに考えるのが良いかと思います」

良い仲間ができることも!

●「初めてなんです」と率直に。良い仲間ができることも

小嶋「どのくらい関われば良いか分からない場合には、『初めてなんです』とやんわり主張して、何をすれば良いか、どこまでやれば良いかのアドバイスをもらうと良いかと思います。

私は上の子が小学4年生、下の子が小学1年生のとき、下の子の選出でPTA役員になってしまいました(笑)。

引っ越してきたばかりで地域のこともよく分かっていない中でしたが、『この機会に学校のことも、地域のことも色々と知っちゃおう!』と前向きにとらえました。

結局は文化厚生部の部長になってしまったのですが、引っ越してきたばっかりなのと、新1年生の親であるということで、他のメンバーの方々の精神的なサポートをたくさんいただき、楽しく1年を終えることができました。

今ではメンバーの3分の1くらいが呑み会メンバーとなっています」

交通事故と犯罪についての予防策も忘れずに

ところで、小嶋さん自身、お子さんが小学校入学前には、もっと別のことに不安を感じていたようです。

小嶋「私は、我が子が交通事故と犯罪に関わるのではないかということがとても心配でした。犯罪とは、犯罪に巻き込まれることと、加害者になることの両方。そしていじめは犯罪だと考えています。

その心配は今でも変わりません。私自身の専門分野であるからということもあるかもしれません。

子どもを行ってらっしゃいと見送って、交通事故に遭ってしまうといった悲惨な出来事は、まれではありますが、実際に起きているわけです。犯罪も同様です。

小学生になり、行動範囲が広がると、交通事故や犯罪に巻き込まれる確率も上がります。命を落とすようなことは、親として受け入れられないことです。

交通事故と犯罪に関しては、予防策を教えることができても、それを上回るものであれば防ぎようがありません。ですから、日々交通事故と犯罪のことは、子どもたちに予防策も含め、対話し続けています」

コロナの影響で大変! 心構えは?

今後も、コロナの影響で臨時休校など、イレギュラーな対応をしなければならないこともあるかもしれません。ママとしてはどのような心構えでいればいいでしょうか。

小嶋「育児は、イレギュラーな出来事の連続。親は翻弄される毎日です。さらにコロナによる影響で様々な対応を迫られています。正直言えば、大変に苦しいです。

昨年の休校期間も、午前中は、私自身が家で子どもたちに勉強を教える『ママ学校』タイム、午後は私の仕事をする『テレワーク』タイムと、本当に大変で、目が回るような毎日でした。

最近でも、休みになると、下の子が『ママ学校やろうよー』と言ってくれます。疲れているし、面倒ですが、笑顔で言われると『しょうがないねー、2コマだけやろうか!』なんてことに。

大人と子どもの時間感覚や刺激に対する感受性は同じではありません。大人にとっては少しの刺激でも、子どもたちはその少しから想像もつかないほどたくさんのことを吸収します。ですので、少しの工夫をすれば、子どもたちが大いに喜んでくれたりします。

臨時休校や外出自粛などイレギュラーな出来事で落ち込んだりすることもありますが、『そうきたかー!』と、子どもと一緒に工夫しながら楽しめると良いのかもと思います。

時間も生活もギリギリで苦しい日々ですが、笑い飛ばせる心の余裕を、ほんの少し、特に子どもの前では、持つだけで良いのかなと思います」

そこから何を学んでもらいたいか?

●子どもへの声かけや対話を大切に

小嶋「例えば、子どもが飲み物をこぼして、ぎゃー!!と怒る…という気持ちも分かりますが、こぼした経験によって得るものがあります、そこから何を学んでもらいたいかだと思うのです。

『こぼして、叱られた』というつながりだけではなく、例えば、親が困った顔、悲しい顔をして、『こぼれてしまって、もったいないね、もう飲めないね…』『どうしてこぼれた?』『こぼれないようにするにはどうしたら良い?』『これからは、倒さないようにしたいねー』など、声かけの仕方によって、次につながるように思考回路を作ってあげることができるのではないかと思います。

家庭内のコミュニケーションの仕方を、子どもは外の世界でも使います。子どもは、常に親の日頃の言動を観察しているわけです。

ですから、どういう声かけをするのか、どう対話するのか考えながら、大人の時間感覚や価値観を押し付けず、焦らず、徐々に成長していくまぶしいくらいの我が子を見守る姿勢を忘れたくないと思っています」

●楽観的に子どもと一緒に乗り越えていく“家族の形”もあり!

小嶋「『楽観性が高い人は、文脈に応じて行動を調整する柔軟性に優れている』といわれています。

現実には本当に大変なことが起きており、真剣に対応する必要があるのですが、カリカリ、イライラしそうになったときには、『楽観性大事!』と、子どもと笑顔の時間を共有したいものです。

将来、柔軟に、できれば有意義に生きていってもらうために、『コロナ禍で一緒にどう対応していく?』と、子どもという“小さな大人”に意見を聞くなど、対話しながら一緒に乗り越えようというのも、“家族の形”として取り入れていただいても良いのかもしれません」

来年度はコロナ禍真っ只中の小学校入学となり、不安も大きいものですが、先輩ママからのアドバイスからはたくさんのヒントが得られます。

ぜひ前向きに対策を立てながら、我が子の小学校入学の準備を、物質面、メンタル面の両方から万全にしていきましょう。

【取材協力】小嶋 理江(こじま・まさえ)さん

名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所 特任助教
名古屋大学未来社会創造機構特任助教。博士(環境学)。現在、小学生2人の子育てをしながら、講演等や交通心理学に関わる研究を行っている。『司法・犯罪心理学入門~捜査場面を踏まえた理論と実務』(福村出版)の執筆者の一人。一般社団法人子ども子育て・教育研究所(クペリ)にも在籍。