ラプターズとの本契約が現実味を帯びてきた渡邊(右)。もともと評価の高い守備力が、チーム戦術にフィットした
ラプターズとの本契約が現実味を帯びてきた渡邊(右)。もともと評価の高い守備力が、チーム戦術にフィットした

NBA3年目にして、渡邊雄太がついに本契約獲得のチャンスをつかんでいる。これまでは基本的にマイナーリーグ(Gリーグ)所属で、シーズン中に一定期間だけNBAに昇格可能な「2ウェイ契約」でプレーしてきた。

それが今季は、トロント・ラプターズの一員として力を発揮し、シーズン序盤で見事にローテーション入りを果たしているのだ。

昨秋、保証のない立場でラプターズのトレーニングキャンプに参加した渡邊は、プレシーズン3戦で平均4.7得点(FG成功率57.1%、3P 60.0%)をマーク。数字以上にプレーの内容がよかったこともあり、2019年の王者で、8年連続プレーオフ進出を目指すラプターズとの2ウェイ契約をゲットした。

渡邊は過去2年もメンフィス・グリズリーズと同契約を結んでいたが、今季は無保証の立場から、実力を見せつけて勝ち取った新契約だけに大きな価値がある。かねて渡邊も、ニック・ナースHCが標榜(ひょうぼう)する守備重視の戦術とのフィットを強調していた。

「ラプターズは全員が運動量を増やしてディフェンスし、(ボールを)取ったら速攻を狙う。僕もリバウンドを取ってそのままプッシュするのは得意。そこから自分のリズムがつかめてくるので、自分に一番合っているところなんじゃないかな、と思います」

その言葉どおり、渡邊は開幕後も献身的な守備で存在感を誇示している。最初の数戦こそ大差がついた時間帯での出場だったが、1月6日(現地時間・以下同)のフェニックス・サンズ戦以降は、第1、2クオーター途中など早い段階で起用されるようになった。

同10日のゴールデンステイト・ウォリアーズ戦では、2度のシーズンMVPを受賞しているステフィン・カリーのショットをブロック。14日のシャーロット・ホーネッツ戦では、ルーズボールに飛びついてスティールし、ファンを歓喜させた。

そして31日のオーランド・マジック戦では、リーグ屈指のセンターであるニコラ・ブーチェビッチのショットをブロックするなどアピールしている。

「とにかく頑張りが素晴らしい。シーズンが進むにつれて成長しているし、堅実な選手がいてくれることはうれしい」

ナースHCは渡邊をそう絶賛していたが、常に全力で相手選手を追いかける渡邊のエネルギーとスタミナは、ひいき目抜きに「驚異的」としか言いようがない。

当初は、ほぼ守備のみの貢献だったが、徐々にオフェンスでもインパクトを示すようになった。1月29日サクラメント・キングス戦で自己最多の12得点を挙げると、続く31日のマジック戦でも11得点をマークして自身初の2試合連続2桁得点。

この2戦合計で3Pシュートを6本中5本決めるなど、目標に掲げていた「シーズン平均の3P成功率40%」をクリアする、42.9%(2月9日時点)という高水準を保っている。

地道な努力を続けてきた渡邊が、26歳にして開花のときを迎えている印象がある。1月下旬には一時、カナダのツイッターで「Yuta」がトレンド1位になったことも。評価と人気が高まり、今後どんな契約を手にするかに注目が集まっている。

1月19日、ラプターズは不調だったアレックス・レンとの契約を解除。ロースター枠(公式戦に出場できる資格を持つ選手枠)に空きができた。"渡邊株"が急上昇していることもあり、地元メディアからも本契約への昇格を予想する声が出ている。

「渡邊はとてもいいプレーをしているから、いずれ本契約を与えないわけにいかない。賢明で効果的なディフェンダーの数は十分ではない。渡邊は重要な選手。シューターとしても向上したように見える」

2月1日、地元紙「トロント・サン」のベテラン記者、ライアンウォルスタット氏も渡邊を絶賛。また、スポーツ専門ニュースサイト『The Athletic』のブレイクマーフィー記者も2月5日、「ラプターズは2ウェイ契約選手の渡邊を50試合で選手登録できることになっており、まだあと29戦(当時)も残っているのだから、焦って判断する必要はない」とした上で、「私は渡邊がどこかで本契約に昇格するんじゃないかと思っている」と私見を述べた。

もちろん今後、何が起こるかはわからない。常に故障は起こりえるし、ハードにプレーしている渡邊が、NBAの厳しい日程で疲労をため込まないか心配ではある。マーフィー記者の言葉どおり、2ウェイ契約はチーム側の使い勝手がいい契約のため、ラプターズもシーズン後半までじっくりと様子を見るつもりかもしれない。

ただ、たとえそうだとしても、NBA1年目から目標にしてきた本契約を実現する寸前まで来た、と言っても大袈裟(おおげさ)ではないだろう。

「とにかく与えられたチャンスをモノにするようにやっていきたい。2ウェイ契約だろうが本契約だろうが、自分が活躍したら使ってもらえますし、活躍できなかったら使ってもらえなくなる。

契約は、自分がコートでしっかり結果を残した後についてくるものなので、あまり意識せず、やれることをしっかりやっていこうと思っています」

依然として謙虚な姿勢を保つ渡邊に朗報は届くのか。このままシーズンを通じてハイレベルのパフォーマンスを保てば、その日は必ずやって来る。世界最高のバスケットボールリーグで、八村 塁、渡邊というふたりの日本人選手が本契約を得る瞬間はもう間近に迫っている。

取材・文/杉浦大介 写真/アフロ

ラプターズとの本契約が現実味を帯びてきた渡邊(右)。もともと評価の高い守備力が、チーム戦術にフィットした