カルテット」「東京ラブストーリー」などで知られる坂元裕二が脚本を務め、菅田将暉×有村架純のW主演で話題を呼んでいる『花束みたいな恋をした』(公開中)。菅田演じる山音麦と有村演じる八谷絹が、東京・京王線明大前駅で終電を逃したことをきっかけに、あっという間に恋に落ちてからの5年間を描いた本作は、2人の出会いの場所でもある京王線沿線をロケ地としており、早くも恋の聖地として注目を集めている。

【写真を見る】『花束みたいな恋をした』のロケ地マップに問い合わせが殺到!

今回、このロケ地にまつわる制作秘話を聞くため、本作の制作プロデューサーである土井智生(つちいともお)、調布フィルムコミッションの山口季紗、映画やドラマのロケにまつわる 様々なサポートを行う東京ロケーションボックスの遠藤肇に集まってもらった。撮影エリアをよく知る3人に、撮影裏話や映画公開後のロケ地に関する反響、それぞれのお気に入りのシーンやおすすめスポットについて、たっぷりと語ってもらった!

■「基本的にはすべてリアル。現実世界にあるものを具体化しています」(土井)

――調布市でロケを行うことになった経緯を教えてください。

土井智生(以下、土井)「坂元さんからあがってきた脚本に、きっちりと場所の名前が書かれていたというのが大きな理由です。絹ちゃんの家が飛田給にあり、麦くんが調布近くのアパートに住んでいる、という設定がありました。なのでリトルモアの有賀高俊プロデューサーと土井裕泰監督とも『正直に制作していきましょう』という話をしていました。裏を返せば『嘘をつかない』ということです。坂元さんの想いが凝縮されている脚本を活かし、忠実に撮影をしていくことを第一のテーマとして掲げました。本作を観る方が、嘘や作りものと感じない映画にしたいという気持ちで、設定に忠実に、極力設定に近い場所をロケ地として選んでいきました」

――脚本に忠実にとなると、ロケ地選びはかなり大変だったのではないでしょうか?

土井「今回撮影を行ったロケ地は80か所ほど。同じ規模の映画だと半分くらいが普通なので、どれだけこだわり、大変だったかというのが数字でもわかってもらえるかと思います(笑)。ロケ地だけでなく、実在する書籍や映画といった2人の会話に出てくるものは、基本的にはすべて現実世界にあるものを具体化しています」

■「“新宿”も一つの大きなポイントになる」(遠藤)

――脚本に忠実ということで、東京ロケーションボックスさんや調布フィルムコミッションさんがとても重要な存在となってくるわけですね。

山口季紗(以下、山口)「私自身は撮影当時の担当ではなく、現在の担当者なのですが、前担当者から聞いた話によると、土井さんたちから調布市が舞台の作品だと伺って、“映画のまち調布”として、どんな場所でも撮影できるように協力したいと強く思ったようです。調布市は、これまでもロケ誘致に積極的にかかわってきた経緯があるからこそ、今回のようなお話をいただけたので、全力で撮影をサポートしたいという思いで取り組んだそうです」

遠藤肇(以下、遠藤)「京王線沿線で撮影し、完全な地域密着型の作品にしたいという気持ちがありました。先ほど山口さんもおっしゃっていたように、調布市は“映画のまち調布”を掲げていることもあり、映画作りに積極的だということはよくわかっていたので、ご協力いただけるだろうという安心感がありました。しかし、今回は調布市だけでなく京王線沿線が舞台になるので、“新宿”も一つの大きなポイントになると思いました。5年という長い時間を描く話なので、季節は何度もめぐりますしね。撮影はたしか、冬でしたよね?」

土井「2020年1月11日クランクインして、2月26日クランクアップしています」

遠藤「そうそう。すごく寒い時期でした。私が担当した西新宿の地下道タイムズアベニューの撮影も寒かったですよね」

土井「夏の設定なので麦くんはTシャツ短パンでしたね」

遠藤「足元はビーチサンダルでした。就職活動で疲れ切った絹を麦が迎えに行くあのシーンの撮影は、寒い時期だったので、役者さんにできるだけ風が当たらないようにしたいという配慮もあり、ビルの谷間などがロケ地の候補にあがっていました。実は、西新宿のあの地下道が撮影で使われることはほとんどないらしいんです。管轄は新宿警察署と東京都第三建設事務所なのですが、警察からは人目につきにくい場所での撮影は避けてほしいという話もありました。夜の撮影ということもあり、新宿警察署は都庁などの要所や歌舞伎町を抱えていますから」

土井「それはそうですよね」

遠藤「夜間における撮影で人通りがないのは、撮影には向いていますが、警備には向いていないですから。ですが、これまで我々が新宿警察署と築き上げてきた信頼関係もあったので、無事に撮影許可が下りてほっとしましたね」

土井「撮影自体は20時から22時の2時間だけでしたが、いろいろと大変だったと思います」

遠藤「人通りがない場所とわかっていたのですが、もし人が通ったらとか、ロケだと気づかれたらなどいろいろと考えました。いまの時代、SNSなどもあるので情報を拡散されてしまったら、あっという間に人が集まる可能性もあるわけですから。そこは細心の注意を払い、対策・体制もバッチリ取っていました」

土井「我々の窓口である製作部とフィルムコミッションさんの密接な打ち合わせで、想像し得る問題点を潰していくことで、撮影の妨げになるような出来事を未然に防ぐことを念頭に置いていました。そういう意味でも、打ち合わせや信頼関係は、映画の撮影ではとても重要な要素になっています」

■「ロケ地や実際のシーンを紹介するパネルを置いた展示ブースも作っています」(山口)

――拡散されて盛り上がるのは、映画が公開されてからが理想ですよね。そして今回、映画もヒットし(週末映画動員ランキングで2週連続1位)、ロケ地も注目され話題になっています。

土井「映画のヒットが、撮影に協力していただいた方たちへ感謝の気持ちを伝えるのに、一番わかりやすい方法です。今回のような鼎談ができるのも、ヒットしたおかげですしね」

――ロケ地に関するお問い合わせも多いのではないでしょうか?

山口「調布市でロケ地マップを作成したのですが、全国からたくさんのお問い合わせが来ています。いまはコロナ禍で現地に行けないので、ロケ地マップだけ送ってくださいという声が本当に多くてありがたいです。私が所属する(調布市)産業振興課では、ロケ地や実際のシーンを紹介するパネルを置いた展示ブースも作っています。メディアにもたくさん取り上げていただき、うれしい限りです!」

――特にお問い合わせが多いスポットはありますか?

山口「サイクリングロードを含めた多摩川沿いと、麦と絹のキスシーンが撮影された御塔坂橋交差点横断歩道です。公園がすぐそばにあるので、そこにパネルを設置しています」

土井「あのキスシーンは撮影するなかでも重要課題の一つで、信号が“夜間押しボタン式”であるということに、絶対に嘘をつけないと考えていた場所です。映画を観てロケ地を訪れた方が、『押しボタンじゃない!』とならないように、正直に取り組んだ一つの結果があのシーンです」

山口「お問い合わせをいただくのは、キャストファンで女性が多いかなという印象がありますが、幅広い年齢の方からもお問い合わせいただいてます。調布の映画館に足を運んだ際には、ファミリーの方も多いなという印象を受けました。映画を観たあとに、窓口にお問い合わせに来るという方も大勢いらっしゃいます」

遠藤「若い人だけじゃなく、幅広く観ていただけるのはうれしいですね」

土井「ありがたいです」

■「観ていて興奮するのは多摩川沿いと御塔坂橋の交差点」(山口)

――みなさんそれぞれのお気に入りのスポットはありますか?

土井「僕はなかなか選べないですね、どこも思い入れが強すぎて(笑)

山口「映画自体が好きなので、全部と言いたいところですが、観ていて興奮するのは、お問い合わせも多い多摩川沿いと御塔坂橋の交差点です。2人の物語が動き出すワクワクするシーンが、美しく映しだされていて大好きです」

遠藤「仕事として関わったシーンはもちろんですが、私は京王線沿線がホームグラウンドだったので、調布駅前のPARCOですね。僕が住んでいた時代の駅前とは、雰囲気がちょっと違いますけど」

土井「2015年から2020年の5年間に駅前は大きく変わっているんですよね」

遠藤「線路が地下を通っていますからね」

土井「そうなんです。なので、アングルをかなり絞っての撮影を試みました」

土井「調布PARCO前はほとんど変わっていないので、調布をよく知っている方も違和感なく、作品に没頭していただけるという自信があります」

遠藤「たしかに」

土井「調布には、日活調布撮影所、角川大映スタジオと撮影所も2つあるので、京王線沿線を知り尽くしたスタッフが多く、『5年前ってどんな感じだった?』という会話が、スタッフ同士だけでもできちゃうほどでした」

遠藤「明大前駅が出てきた瞬間に、青春時代がよみがえりました。終電を逃してあの距離を歩く2人の姿を観て、『すごいな』と思いながら冒頭から涙がちょちょ切れましたよ(笑)

土井「実際に僕も歩いてみましたが、3時間半くらいかかったかな。麦と絹のように話をしながらだともっとかかるかもしれないですけど。あのルートを決める時も、京王線沿線を知り尽くしたスタッフたちが、『僕が麦だったら…』とそれぞれの思い入れを熱く語ったりして。その象徴の一つがつつじヶ丘駅ですね。終電が出たあと、ホームに誰もいないところをねらって撮影を行いました」

■「映画の世界にだけでなく、現実にもその場所がある」(土井)

――熱い想いが詰まっている本作ですが、初めて観る方に向けてメッセージをいただけますか?また、映画を観てロケ地を巡り、また映画を観るというリピーターも増えると思うので、そういった方々にも一言お願いします!

遠藤「京王線沿線に思い入れがある方は、私のように涙がちょちょ切れるかと思います。愛すべき京王線沿線が登場する、いわば“沿線映画”とも言える本作をぜひ楽しんでください」

土井「“沿線映画”、おもしろいですね」

山口「すてきなお話のなかに、調布の様々なスポットが映っています。感染状況が落ち着いたら、ロケ地マップを片手に、調布市を訪れて“なりきり”をしながら楽しんでほしいです」

遠藤「“花束みたいな恋”をしてほしいですよね」

山口「そうですね。キュンキュンしてほしいです」

土井「ロケーションについて、脚本に正直に撮影できたのは、フィルムコミッションさんや東京ロケーションボックスさんのご協力があったからこそです。映画の世界にだけでなく、現実にもその場所がある。ロケ地マップなどをうまく活用して、ブラブラと街歩きをしていただけたら、こだわって撮影した甲斐があったと心から思えそうです。“正直に作る”を実現させてくれた皆さまに感謝しながら、作品のさらなるヒットを願うばかりです」

取材・文/タナカシノブ

京王線沿線を歩く麦と絹/[c]️ 2021『花束みたいな恋をした』製作委員会