今やプロの将棋界において、欠かせない存在となりつつあるソフトを使っての研究。若手棋士が率先して取り入れ、棋力を高めていったのに対し、ベテラン棋士が後発ながら導入、また活躍し始めるといった例も生まれてきている。2月18日の放送対局で共演した森内俊之九段(50)と増田康宏六段(23)は、まさにこの事例に当てはまる。ただ、将棋ソフトに対しての思いは少し異なるようで、視聴者たちが興味津々となる場面があった。

【動画】将棋ソフトについて語る森内九段と増田六段(7時間1分ごろ~)

 2人が共演したのは、竜王戦2組ランキング戦で藤井聡太王位・棋聖(18)と広瀬章人八段(34)という好カードABEMAで放送された時のこと。永世名人の有資格者で、いわゆる“羽生世代”の実力者として知られる森内九段と、「東の天才」とも呼ばれ、早くからその実力を認められてきた増田六段。2人は、対局が硬直状態に入ったのを見計らってか、ソフトによる研究について語り始めた。

 増田六段が「森内先生はコンピューター将棋で研究されてから、レイティングが200点ぐらい上がったと聞きました」と尋ねると、森内九段は「自分の気分ですけどね」と笑いつつ、「今日も1つ、新手を見つけたんです」とにっこり。これには増田六段も「え、新手ですか!?」と素直に驚いた。

 森内九段の世代としてみれば、棋譜を取り寄せるのもひと手間かかり、ましてや現在のように放送対局も多くはなかった時代も長かった。ソフトによる解析、評価値などが出てきたのは、つい最近のことだと思うだろう。逆に増田六段ほど若くなると、いわば「AIネイティブ世代」。ソフトがあって当たり前の状況から、将棋を学んできた。同じ棋士とはいえ、ソフトに対しての印象は、これだけ違う。

 この1年ぐらいで本格的に取り入れた森内九段からすれば、未知の手が示されるソフト研究は、実に楽しいのだろう。「毎日並べていると、新手が見つかるのでおもしろいです。若い人たちには当たり前かもしれないですが。まだまだ学ぶ余地があるなと思います。藤井さんなんか、それでこれからもっと強くなるんでしょうね。若い人からしたら、無限の可能性があると思うんじゃないですか」と、目を輝かせながら増田六段に問いかけた。

 ところが増田六段の反応は違った。「コンピューターを使って研究していくと、結局行き詰まっていくんです。どの変化もコンピューターに最善を尽くされると有利にならない。何をやってもうまくいかないという行き詰まりを感じています。結局うまくいかないことが多い、何をやっても難しいんです」と悩みを吐露した。

 人ではたどり着けないスピードで指し手を解析するソフト。なんでもすぐに数字で答えてくれると言えば便利に見えるが、出てくる数字は新たな可能性を探るものにとって、プラスなものばかりではない。この手はどうか、あの手ならいけるか。ソフトに問いかけても「それでは有利にならない」という答えが続けば、研究者としては滅入ってくる。そういう領域の話だ。

 この話を聞いても前向きなのが、永世名人・森内九段だ。「何をやっても難しいなら、何をやってもいいのかなと思います。戦型にこだわらないというか。どんな将棋になっても、そこそこ戦えるのかなと」と、致命的なミスさえしなければ、中盤・終盤と力勝負に持ち込めると考えた。研究範囲外になってしまえば、事前準備の差ではなく、人と人の勝負になる。ここをポイントとした。

 一方の増田六段の思いは、また少し違った。「コンピューターを使うからには、なるべく序盤から優勢を築きたいんですよ。なのに、なかなかうまくいかない。最近、作戦負けが多いくらいです」と語った。ソフトという強い武器を使いこなせれば、早い段階から勝機にもっと近づけるはず。なのに、むしろ遠ざかる。そんなジレンマに陥っている様子だった。

 最近になってソフトに振れたことで新たな将棋の世界を感じたレジェンド森内九段と、ソフトと長く付き合ったことでむしろ違う道を探すことの難しさを知った増田六段。こういった思いや考え方の重なりによって、また将棋史に残る名局が誕生する。
ABEMA/将棋チャンネルより)
森内俊之九段「まだまだ学ぶ余地がある」増田康宏六段「行き詰まりも感じる」将棋ソフト研究におけるレジェンドと若手の意見の違いにファンが興味津々