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仮想通貨ビットコインのバブルが止まらない。

2月9日には、1ビット=500万円のラインを突破。さらに20日には600万円のラインに到達した。

ネットでは《ビットコインの強さに驚いてる》《ビットコイン強すぎですね》との声が上がっている。いっぽう、その好調ぶりの陰で泣く人もいるようだ。

「売らずに持っておけばよかったなって、今なら思いますよ。早く下がればいいのに。みんな僕と同じ思いをすればいいのに……。『人生うまいこといかへんな』とため息をついています」

こう語るのは、システムエンジニアとして働く会社員のMさん(32)。“恨む節”を漏らすのも無理はない。18年の年初にあった暴落で窮地に立ち、夢も潰えたためである。

Mさんは、そもそもビットコインを始めたキッカケについてこう語った。

ビットコインが流行っているとニュースで知って、試してみることにしたんです。当時は1ビット30万円くらい。ひとまず3ビット、100万円程度を購入しました。すると、あっという間に1ビットが100万円に!正直『すごい儲かるんだな』と思いました」

そうして、ビットコインにのめり込んでいくことに。高騰も続き、次第に歯止めがきかなくなっていったという。

「買えば儲かるので、1,000万円単位でどんどん買っていきました。いちばんヒートアップしたのが、17年の末から18年の年初。ビットコイン以外にも手を出して、当時は5,000万円分の仮想通貨を持っていました。家族は『もう売った方がいいんじゃない?』と心配していましたが、『まだまだ上がるぞ』と。『買いたくてしょうがない!』という気持ちでもありました」

■2,700万円分が消失。冷や汗と震えが止まらなかった

「中毒みたいになって、ほんまにヤバかったです」と当時を回想するMさん。そして「18年の、1月16日でした」と、日付をゆっくり口にした。

「今でも、その日が忘れられません。突如、暴落し始めたんです。1日ごとに数百万円ずつ、僕の5,000万円が減っていくんです。1ビット200万円だったのが、半分以下の80万円くらいになって。『もうダメだ』と。そこで売ることにしました。最終的に5,000万円が2,300万。つまり、あっという間に2,700万円分が消失してしまったんです」

そんなMさんに、さらなる追い討ちが。同じころに仮想通貨の取引所であるコインチェックがハッキングされ、仮想通貨NEMが流出。その影響で、コインチェックのサービスが一時停止する事態となった。

「コインチェックには、2,000万円ほど置いていたんです。でも、いっさい出金できなくなって。『もし潰れたら2,000万円がパーになる……』と祈るような日々でした」

ビットコインとNEMによる、ダブルの“仮想通貨ショック”。その影響でMさんは体を壊すことに。

ビットコインを早めに売っておけばよかったっていう後悔と、コインチェックはこれからどうなるんだろうという不安がすごくて。1ヵ月間、ずっと体調が悪かったです。仕事をしてても、冷や汗や手の震えが止まらないし。胃もずっと痛くて。大好きなアニメも、人生で初めて観る気をなくしました」

Mさんは後悔や不安を抱えながらも、その苦しみを誰にも打ち明けることができなかった。それが何よりも辛かったという。

「みんなに『ほら見たことか』って言われるだろうと。それに1,000万円単位の額をどんどん振り込んでいたとか、それほどの資産を持っていたとか大きい声では言えない話ですよね。コインチェックの取引が再開したら、すぐに出金してひと段落しましたが……。仮想通貨ショックのことは、3年越しでやっと話せるようになったんです」

■ただ、“億り人”になりたかった

現在もビットコインが高騰中だが、一連の騒動で懲りたMさんは「そんなニュース見たくないです……。あれ以来、投資にはいっさい手を出してません」と語る。

なぜ、それほどお金が欲しかったのか。そう率直に訊ねると、Mさんは「ただ、“億り人”になりたかったんです……」と語り始めた。

「億り人とは、投資によって1億円以上の資産を築いた人のことです。17年ごろ、与沢翼さんに憧れていて。その生活ぶりを見て『贅沢っていいな!』って思っていました。海外に住んだり、高級マンションに住んだり……。まぁ、ステータスが欲しかったんですね。

1ビット580万円になったのですから、売らずに3年持っていたら億り人になっていたでしょう。でも、当時は精神的に耐えれなかった。夢は打ち砕かれて、もうボコボコ(笑)。見事な“リタイア負け”です」

それでもMさんは「学びがあった」という。

「『資産運用は余剰資金でするに限る』ということです。僕は借金をせずに運用していたし、長いスパンでみると損はしてないんです。

コインチェックでは、チャット欄が用意されています。当時、そこには熱狂する人たちの声であふれていて。中には『もっと上がるぞ!』と、消費者金融に手を出してまで買ってる人も見かけました。その人たちが今どうしてるのか、思い出しては心配になるんですよね……」

ビットコインバブルの光と影を見たMさん。そんな彼に、幸あれだ。