新型コロナウイルスの流行をきっかけに、自宅で料理を作る機会が増えた人も多いのではないでしょうか。しかし、調理する機会が増えればその分、火災の危険性も高まります。例えば、調理中の不注意で、ガスこんろの火が服や物に燃え移ってしまうケースも珍しくないようです。

 もし、調理中に服や物に着火した場合、どのように対処すればいいのでしょうか。また、調理中の火災を防ぐためには、普段から、どのような対策が求められるのでしょうか。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)製品安全センターの担当者に聞きました。

ガスこんろ火災は4月、5月に2割増

Q.新型コロナウイルスの流行以降、調理中の火災による事故は増えているのでしょうか。

担当者「東京消防庁によると、2020年に発生したガスこんろによる火災は前年比52件増の397件でした。特に、緊急事態宣言が発令された4月、5月の件数が増えており、4月は34件(前年27件)、5月は46件(同33件)と前年よりも2割以上増加しました。

ガスこんろによる火災が増えた理由について、当機構では『新型コロナウイルスの影響で在宅時間が増え、自宅で調理する機会が増加した』『普段、ガスこんろを使い慣れていない人がテレワークなどを機に調理をするようになった』ことが主な要因ではないかと推測しています」

Q.調理中、ガスこんろの火が物や服に燃え移らないようにするためには、どのような対策が求められるのでしょうか。調理時の服装も含め、教えてください。

担当者「火を使っている間はガスこんろ周辺が広範囲にわたって高温となるため、注意してください。見た目では分かりませんが、たとえ火が直接触れなくても、火から放射される熱によって着火する場合もあるため、ガスこんろの近くに可燃物(布巾、タオルなど)やカセットボンベ、スプレー缶を置くのは絶対にやめましょう。着火や爆発の恐れがあります。料理に使う食材や調理器具(まな板など)などは、ガスこんろから15センチ以上離して置いてください。

調理するときは、スカーフなど垂れ下がりやすい物はあらかじめ外してください。また、袖や裾が広がっている服を着ているときは、袖や裾が火に触れないように注意しましょう。服への着火が不安なようであれば、防炎加工のエプロンやアームカバーを着用するとよいでしょう」

Q.もし調理中、周囲の物に着火した場合、どのような方法で消火すればいいのでしょうか。

担当者「消火は出火してから3分以内が勝負といわれています。もし、物に着火した場合、すぐに水道水や消火器で火を消してください。近くに消火器がない場合は、座布団クッションで火をたたいたり、ぬれた毛布やタオルなどで火を覆ったりすると消火できます。

グリルで魚などを焼いているときに、グリルの内部から出火した場合は、操作ボタンや器具栓つまみを消火の状態に戻し、火が消えるまで絶対にグリルの扉を開けないでください。扉を開けると空気が供給されることで火が大きくなり、やけどを負ったり周辺に燃え広がったりする可能性があります。なお、火が天井に達した場合、自力で消火するのは困難です。すぐに避難して119番通報してください」

Q.では、服に着火した場合はどのように対処すればいいのでしょうか。

担当者「服に着火したときは絶対に走り回らないでください。かえって火の勢いを強めてしまいます。可能であれば、すぐに衣服を脱ぎ捨てて消火するか、燃えている部分に直接、水道水をかけて消火してください。

服を脱ぎ捨てたり水道水で消火したりするのが難しい場合、直ちにその場に倒れて、燃えている部分を床に押し付けてください。その後、倒れた状態で左右に転がってください。転がることで、服についた火を窒息消火(燃焼の原因となる酸素を取り除いて消火すること)させるためです。

なお、燃えている部分を床に押し付けるときは、床と体の間にできるだけ隙間ができないようにしてください。また、顔へのやけどを防ぐため、左右に転がるときは両手で顔を覆いましょう。やけどを負った場合、やけどをした部分を氷や水で冷やしてください。やけどがひどいようであれば、すぐに119番通報して救急車を呼びましょう」

Q.そのほか、調理中に心掛けるべきことや注意点について教えてください。

担当者「基本中の基本ですが、調理中はガスこんろから絶対に離れないでください。ガスこんろから一時的に離れたことが原因で起きる火災は非常に多いです。物や服に着火した場合でもすぐに対応できるよう、台所に消火器などの消火用品を置くとよいでしょう。

また、ガスこんろは普段から、小まめに掃除をしましょう。グリルに油がたまったまま調理をしたことで、火災に発展した事例もあります。このほか、調理中に『ガス臭い』と感じたら、すぐに火を止めてガス栓を閉め、契約しているガス会社に連絡してください。

なお、新型コロナウイルスの影響でアルコール消毒液を使う機会が増えていますが、手や指に消毒液が付いたまま調理をしないでください。手指にアルコールが残っていた場合、引火してやけどする可能性があります」

オトナンサー編集部

ガスこんろの火が服に燃え移る様子の再現(独立行政法人製品評価技術基盤機構提供)