「的を射る」と「的を得る」。どちらの表現が正しいのか、迷ったことがある人も多いことでしょう。

一般的には「的を射る」が本来の言い方とされていますが、以前からさまざまな説があり、現状ではどちらが正しいかについての論も分かれています。

意味や用法、言い換え表現なども含めて調べてみました。

■「的を射る」の意味や成り立ち

まずは「的を射る」の意味や語源を紹介します。

◇意味は「物事の肝心な点を確実に捉えること」

平成15年度と平成24年度に行われた『国語に関する世論調査』で、文化庁は「物事の肝腎な点を確実に捉えること」を意味する本来の慣用句は「的を射る」であるとしています。

また、辞書にも次のように載っています。

まとをいる【的を射る】
物事の肝心な点を確実にとらえる。
(『広辞苑 第七版』岩波書店

以上のことから、「的を射る」とは「物事の要点や本質、肝心な点を的確に捉えていること」を意味する言葉です。

◇成り立ちは「目標を目指して、矢を放って、当てること」

ここでは「的を射る」を構成する要素を調べてみましょう。

「的を」と「射る」から成り立っており、それぞれ次のような意味があります。

まと【的】
(1)弓や鉄砲の発射練習をする時、目標として立てておくもの。
(2)めあて。目標。目的。
(3)紋所の名。

いる【射る】
(1)弓につがえて、矢を放つ。
(2)矢や弾丸を目標にあてる。
(3)(光が)鋭くあたる。
(4)ねらって取る。
(『広辞苑 第七版』岩波書店

それぞれの意味を考え合わせると、「的を射る」とは、「目標を目指して、矢を放って、当てること」です。

「矢」は言動や行動など、「目標」は「物事の本質や要点、目指すところ」の比喩であり、「当てる」ことは「物事の肝心な点を確実に捉えていること。本質や要点を捉えていること」の比喩であると考えられます。

以上のことから、「本質や要点を確実に捉える」ことを意味する言葉として「的を射る」が成り立っています。

■「的を得る」は誤用なのか?

ここでは、本来の言い方であるとされている「的を射る」に対して、よく目にする同様の意味を表した「的を得る」という言い方が誤用なのかどうか、ひもといていきます。

◇「的を得る」は必ずしも誤用とは言えない

冒頭でも述べたように、長らく「的を得る」「的を射る」はどちらが正しいかという正誤論争があり、はっきり決着しているわけではありません。

『三省堂国語辞典 第7版』では、「的を得る」を採録。「得る」には「当を得る・要領を得る・時宜を得る」の用法と同様に「うまく捉える」という意味があることから、「的を得る」を誤りではないとしました。

一方で、それ以降も「的を得る」誤用説を載せている辞書、誤用説を載せていない辞書、「的を得る」誤用論には触れないまま「的を射る」のみ採用している辞書などが混在しています。

つまり、辞書によっても立場が分かれており、「的を射る」「的を得る」両方の用法が混在しているのが現状です。

◇日常生活では「的を射る」「的を得る」どちらでも通じる

それでは、「的を得る」「的を射る」は、それぞれ実際にどの程度、認知されているでしょうか?

平成24年度に行われた『国語に関する世論調査』において、「“物事の肝腎な点を確実に捉えること”を表現する時、どちらの言い方を使うか」という問いに対して、「的を射る」と答えた人は約5割、「的を得る」と答えた人は約4割、その他は約1割でした。

調査では、全ての年代で「的を射る」を使うと答えた人の割合が、「的を得る」と答えた人の割合を上回っていますが、大差なく使われているわけです。

このように、どちらも同じくらいの割合で使われていて、前段でも触れた通り辞書でも両方が混在していることから、日常生活ではどちらでも通じると見ることができます。

◇公式な場では「的を射る」を使う方が無難

ここまで、「的を射る」「的を得る」の両方が混在していることについて述べました。

ただし、ビジネスにおいては、公的な文書やウェブサイト、公式な場での用法を統一する方が、混乱は起きません。

新聞記者やテレビ局アナウンサーが表記の基準とする各社のハンドブックがあります。その中では、「的を得る」をただちに誤りとするものではないとしながらも、「的を射る」に統一するケースの方が多く見受けられます。

ビジネス文書などの書き方は、文化庁や報道の動きに準じることが多いため、今のところは「的を射る」の方が優勢である印象を受けます。

もちろん、日常会話におけるコミュニケーションでは、どちらでも理解されると考えて良いでしょう。

■「的を射る」はどんな時に使えるのか?(例文付き)

「的を射る」という言葉は、主として意見、説明、発言、解釈、議論、記事、コメントなどの表現について使われます。

◇会議などで述べられた意見について語る時

会議やミーティングで出た意見や議論のあり方そのものが的確かどうかについて語る時に使います。

☆例文

・彼の意見は非常に的を射たものだと思います。

◇質問や指摘の確かさについて述べる時

人やその考え方について質問や指摘を行う際、それが確かで核心を突いている時に使います。

☆例文

・記者からの的を射た質問によって、会見は緊張感あるものとなった。

◇企画書や提案などの説明について述べる時

提案書における書き言葉や、プレゼンテーションなどの説明について述べる時、要点をうまく捉えているという意味で使います。

☆例文

・課長から「大筋は的を射ているが、もっと書き出しを工夫するように」と企画書を返された。

■「的を射る」の言い換え表現

「的を射る」と似たような意味を持つ表現を紹介します。

◇「核心を突く」

「物事の中心である大切なところを突く」ことを意味する言葉です。

☆例文

核心を突かれてはぐらかすようでは、リーダーとして大した器ではない。

◇「要を突く」

かなめをつく」と読み、「物事の大切なところを突く」という意味です。

☆例文

・社長の話はいつも要を突いている。

◇「要を得る」

「ようをえる」と読み、「物事の大切なところをおさえる」という意味です。

☆例文

・簡にして要を得ている。よくできた企画書だ。

◇「正鵠を得る」

「正鵠」は「せいこく。せいこう」と読み、「要点、急所」のこと。

「正鵠を得る」とは、「急所をぴたりと突く」という意味です。「正鵠を射る」と書かれることもあります。

☆例文

・彼女の推察が正鵠を得ていたのか、彼はたじろいだ様子を見せた。

◇「当を得る」

「とうをえる」と読みます。

「道理にかなっている」という意味です。

☆例文

・本日の会議は、当を得た意見が多く、大変有意義でした。

■全ての辞書が同じ意見とは限らない

いかがでしたか? 「的を射る」「的を得る」について、辞書の表記が分かれていることや「的を射る」の意味、使い方、言い換え表現について説明しました。

私たちは、一般的に、辞書をめくればそこには正しい答えが必ず載っていると考えます。

そのため、今回のように「どちらも間違いとは言い切れない」ケースもまれにあることは、驚きに近いものがあることでしょう。

しかしそこにまた、言葉の面白さや奥深さがあるともいえるのかもしれませんね。

(前田めぐる)

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どっちが正しい? 「的を射る」と「的を得る」