大麻の取締り強化などについて議論する厚生労働省の有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」の第2回が本日(2月25日)、開催される(開催場所は非公開)。

初回の検討会は1月20日におこなわれ、2月には議事録(注)が公開されている(詳しくはこちら:「大麻規制の見直し、何が争点なのか? 初回検討会、論点を整理する」)。

初回は、検討会を担当する医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課から議題である「薬物対策の現状と課題」についての説明があり、その後に質疑応答があった。

大麻の危険性や有害性、どのように医療目的の使用を可能にし、取り締まりをおこなうのかなど、具体的な議論がおこなわれるのは、第2回以降になりそうだ。

大麻取締法のあり方に疑問を抱き続けてきた亀石倫子弁護士と正高佑志医師は初回の議事録に何を思ったのか。話を聞いた。(編集部・吉田緑)

●「医療目的の使用」と「取り締まりの強化」別の話では?

正高:戦後70年間、大麻取締法を見直そうということはなかったので、僕は検討会が開かれたということ自体が重要だと思っています。

亀石:検討会委員の中には、ダルク(編注:薬物依存症の回復支援施設)の職員などもいらっしゃり、議事録を読むかぎり、想像していたよりも真っ当な意見が多く出されていたと感じました。

ただ、いろいろな分野の人たちがいることもあり、意見が混在していると思いました。

また、医療目的の使用と「使用罪」(取り締まりの強化)はまったく別の話ですよね。それを一緒に議論できるのだろうかという疑問も抱きました。

医療目的での使用について議論をするのであれば、それに特化し、海外の知見をふまえて議論すべきではないでしょうか。「使用罪」について検討するのであれば、ある委員の話にもありましたが、厚生労働省だけではなく、法務省も入って考えた方がよいと思いました。

【実際に委員からは下記の発言があった(議事録より抜粋)】
「手を出してしまった人がその後どうするのかというようなこともすごく大事だと思っています。薬物に手を出してしまった人を排除するということではなくて、その人たちをどのように処遇していくのかというような視点からも、これは厚労省を離れて法務省が考えなければいけないところも含まれるかもしれないのですけれども、規制一辺倒ということではなく、そのあたりまで議論を広げていければいいなと思っています」

正高:ほかにも、流通や栽培をどうするかということもあるので、農林水産省経済産業省も入って、ともに考えるべきではないかと思いました。

●「有害」というならば、まずはエビデンス

正高:監視指導・麻薬対策課の説明では、大麻が「有害」であるという前提で、話が進んでいるように感じました。

亀石:大麻が「有害」であるというのであれば、やはりエビデンスを示していく必要があると思います。

検討会では、大麻の危険性、有害性について、医師から「我が国の精神科医は大麻の健康被害や精神障害に関して十分な知見はない状況」「医療サイドではデータがない」などのお話がありました。また、大麻単体で依存症になる人はほとんどいないという話や、依存症治療につなぐこと、刑事司法のレールに乗せることへの疑問なども出ていました。

【実際に委員からは下記の発言があった(議事録より抜粋)】
「果たして大麻、マリファナというか、そういうマリファナアディクションというものが医療だったり、司法のレールに乗せることが本当に正しいのかというのも私の中では疑問があります」

覚醒剤取締法には「保健衛生上の危害」の防止という目的規定があります(同法1条)が、大麻にも「保健衛生上の危害」といえるような健康上の害や二次被害などの社会的害悪があるのかを考える必要があるでしょう。これまで、エビデンスがないままに規制されてきたのではないかと思います。

次回以降の検討会で「有害」であることを示すために、どのような資料が提示されるのかに注目したいです。エビデンスが示されないままに規制を強化することはあってはならないと思います。大麻と覚せい剤などの他の薬物は分けて考えなければいけません。

正高:まさにそのとおりで、大麻と覚せい剤を同じように考えている人たちは少なくありません。弁護士の中にもいると思いますし、医師の中にも一緒くたに考えている人たちはいます。しかし、この2つは別の薬物なので、線引きしなければならないと思います。

大麻使用と健康への影響については、僕が代表理事をしているGreen Zone Japanと国立神経・精神医療研究センターと共同で実態調査(オンラインのアンケート調査)をおこないました。4795件の回答が集まり、いま分析中ではありますが、実際にどのような被害が起きているのかを示すことができればと思っています。

初回の検討会では、大麻は覚せい剤などの害が強いドラッグへのゲートウェイになるという話もありましたが、この調査で大麻使用者の約87%が覚せい剤を一度も経験していないこと、ハードドラッグに移行していないことなども分かっています。

●若者の「大麻乱用」、大人がすべきことは?

亀石:コカインヘロインより害は少ないとはいえ、私は大麻を「無害」とは思っていません。未成年が使うことはよくないと思いますし、海外でも年齢制限があります。

ただ、若者への蔓延を防ぐために「使用罪」を創設するなど、取り締まりを強化することは、対策として間違っていると思います。

逮捕して司法のレールに乗せることは、正しいことといえるのでしょうか。子どもたちは学校をやめないといけなくなり、社会からはみだしていくことになってしまいます。

正高:未成年が薬物を使わない方がよいのは当然のことです。ただ、タバコを吸っただけの子どもに厳罰を科すことはありませんよね。毎日タバコを吸って、お酒を飲んでいるような子どもがいたとして、厳罰を科すことに価値はあるのでしょうか。

大人のすべきことは「辛いことあるの?」と聞くことではないでしょうか。大切なのは、手錠をかけて抑圧することではなく、どういうサポートをするか、だと僕は思います。

亀石:初回の検討会では、これまで「使用罪」がなかった理由について「受動喫煙や麻農家の農作業における麻酔いなど、刑罰をもって臨むのは不適切な場合がある」などの説明も少しありました。

そうであるならば、「使用罪」を創設した場合、今後大麻を吸っていた人のそばにいて吸引してしまったケースなどで誤認逮捕もありうると思います。これを技術的にどうするのかということも考えなければなりません。

●THCは「悪いもの」、CBDは「よいもの」?

正高:初回の検討会では、大麻の成分であるTHCは「悪いもの」、CBDは「よいもの」と、とらえられているのではないかと思う発言もみられました。

たしかに、THCには精神作用はありますが、THCを全てひとくくりに「悪いもの」と規制してしまうと、医薬品として使えるものが限定されてしまいます。

医療大麻といっても可能性は広く、THCが含まれているものでも効果が期待できるものがあります。実際に、てんかんの特効薬にはTHCが微量に含まれています。そこで、諸外国では、THCの含有量の上限が決められています。

亀石:THCを微量でもダメと規制してしまうと、医療用に使えるようにしようということと整合性が合わなくなってしまいますよね。そこをどうするのかも課題だと思います。

THCが微量含まれていたとしても「有害」でなければ、流通・栽培ができるようにすべきだと思います。

●社会の問題・健康の問題として考えてほしい

正高:亀石弁護士はChange.orgで署名活動(編注:「厳罰化は誰も幸せにしない。薬物政策をハームリダクションへ転換を!大麻等の薬物取り締まり強化と『大麻使用罪』創設に反対します!」2月25日現在、9762の署名が集まっている)をおこなっていますよね。

亀石:大麻に興味がなかったり、使ったりしたことがない人たちにも、社会の問題・健康の問題として、考えて賛同してほしいと思いました。でも、まだまだ難しいなと感じました。中には、自分に矛先が向くのではないかと署名を躊躇している人もいると思います。

私は大麻を使いたくて発信しているわけではありません。人権の問題、刑事政策として関心をもっています。エビデンスといえる資料が提示されたのかチェックするのはもちろんのこと、引き続き今後の議論に注視していきたいです。

法律家を含め、日ごろから人権を考えている人たちや、SDGsに取り組んでいる人たちがもっと関心をもってくれていてもいいのかなと感じています。

正高:僕も今後の議論を追い続けたいと思います。ここというときに声を上げていきたいです。

(注)議事録は厚生労働省のホームページに公開されており、誰でも閲覧できる。発言者の氏名は「氏名を公にすることで発言者などに対して外部からの圧力や干渉、危害が及ぶおそれが生じる」ために非公開とされている。

<プロフィール>

【亀石 倫子(かめいし・みちこ)弁護士】 クラブ風営法違反事件(2016年最高裁で無罪確定)、GPS捜査違法事件(2017年最高裁大法廷で違法判決)、タトゥー彫り師医師法違反事件(2018年大阪高裁で逆転無罪)等の刑事事件を多数手がける。2016年に「法律事務所エクラうめだ」を開設。

【正高 佑志 (まさたか・ゆうじ) 医師】 1985年京都府生まれ。熊本大学医学部医学科卒。医学博士。2016年にカリフォルニア州にて医療大麻の臨床応用の実際を目の当たりにする。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、医療大麻に関するエビデンスに基づいた啓発活動を行う一般社団法人Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事として活動している。

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