平面なのに立体的な形を浮かび上がらせるホログラム映像は、かつてSFの中のものでしかなかった。
今ではレーザー技術の発達によって実用化され、クレジットカードの偽造防止やデータ記録など、さまざまなものに応用されている。亡くなったミュージシャンをイベントなどで再現する技術も、ホログラムの応用だ。
そんなホログラフィーはまた新たな飛躍の時を迎えているようだ。それを可能にするのはレーザー技術ではなく、量子力学に基づく技術である。英グラスゴー大学のHugo Defienne氏が、革新的な量子ホログラフィーについて『The Conversation』で解説している。
「ホログラフィー」は、1947年にハンガリーの物理学者ガーボル・デネーシュによって考案された。3Dの映像をホログラムといい、それを撮影する技術がホログラフィーだ。
我々が目で物体を見ることができるのは、物体に当たって反射された光にさまざまな情報が含まれているからだ。たとえば、光の波長から色を区別することができる。また振幅によって明るさも判断できる。写真はこれを記録する技術だ。
ホログラフィーの場合、それらにくわえて光が移動してくる方向――「位相」を記録することができる。ホログラムが立体的に見えるのはそのためだ。
一般的なホログラフィーで物体を撮影するには、まずスプリッターで1本のレーザーを2本に分けなければならない。1本目のレーザー(物体光)は、撮影したい物体に照射される。2本目のレーザー(参照光)は、物体のない方向へ向けられる。
その後、2本に分けられたレーザーは、鏡で反射させて1枚の感光媒体へ向けられる。感光媒体で再会したレーザーはお互いに干渉しあう。それはプールの波にも似ており、打ち消しあったり、強めあったりしながら複雑なパターンを描き出す。これが「干渉縞」というもので、ここに光の位相に関する情報が含まれている。
ホログラフィーに必須のコヒーレンス
ただし、光と光を干渉させるためには、その周波数がどこでも同じでなければならない。このことを「コヒーレンス(干渉性)」という。従来のホログラフィーに光のコヒーレンスが必要なのは、ホログラムを描くために光の干渉を利用しており、光が干渉するにはコヒーレンスでなければならないからだ。
レーザーによって放たれた光はコヒーレンスで、だからこそホログラフィーではこれが一番よく使われている。しかし光の中にはコヒーレンスでなくても干渉できるものがある――それがもつれた光子で作られた光だ。
Defienne氏らが考案した量子ホログラフィーでは、光子の間に生じる「量子もつれ」を利用して、コヒーレンスを回避してしまう。
量子ホログラフィーの利点
もつれた粒子のペアには、本質的な結びつきがあり、空間によって隔てられていたとしても、1つの物体として振る舞う。そのため、ペアの片方で計測すれば、その作用はもつれたもう片方にも反映される。
量子ホログラフィーでは、スプリッターでレーザーを分割したのと同じように、光子のペアをそれぞれ別方向へと飛ばす。対象物へ向けられた光子は、物体光として働く。もう片方は対象物がない方向へ向けられ、参照光として働く。
物体光役の光子が対象に当たると、その厚みに応じてほんの少しだけ進路が曲がったり、減速したりする。
ポイントは量子物である光子には、粒子として振る舞いながらも、波としても振る舞うという驚くべき性質があることだ。そのために、それが命中したまさにその場所の厚さだけでなく、全体の厚みまで計測することができる。つまりサンプルの厚みと、その3次元構造が光子に”印刷”されるのだ。
するとその情報はもう片方のペアに即座に伝えられる。これはペアが離れていても起こるので、わざわざ分けたレーザーを再び再会させる必要もない。別々のカメラで2つの光子を検出し、その相関を測定すればホログラムが得られる。
量子もつれには、そこに手をくわえたり、制御したりすることが難しいという性質がある。これは欠点などではなく、外部からの影響を受けにくいという長所になる。非常に安定性しており、ノイズにも強いのだ。
こうした強みは、たとえばホログラフィーで生物を撮影しようとする際に活きてくる。これまで難しかった生物の構造や細胞の中身を鮮明なホログラム映像にできるということだ。さて、みんなならどんなものを量子ホログラムにしてみたいだろうか?
References:Quantum leap: how we discovered a new way to create a hologram/ written by hiroching / edited by parumo
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