国内で最初の感染者が出てから1年あまり。第三波の到来、二度目の緊急事態宣言発令およびその延長と、わたしたちの行動に少なからぬ制約を及ぼしている新型コロナウイルス

とりわけ仕事や収入の減少に伴い、生活面で大きな打撃を受けているのが、自粛を要請される飲食・宿泊を主としたサービス業や文化産業にかかわる人、非正規雇用者、そしてアルバイトで生計を立てていた大学生や留学生だろう。

こうした状況下、食の支援を必要とする人たちを支えているのが、日本初のフードバンクとして、20年にわたって活動を続けている認定NPO法人セカンドハーベスト・ジャパンだ。

全国で食料支援を必要とする人が間違いなく増えている中、利用者だけでなく、ボランティアやスタッフの感染リスクを避けることを徹底して活動を続けるセカンドハーベスト・ジャパンにコロナ禍における支援の実情と課題を聞いた。(取材・文/塚田恭子)

●フードパントリーの利用者が増えた

安全性は保証されているにもかかわらず、諸般の事情で市場には出すことができず、そのままでは廃棄されてしまう――。

セカンドハーベスト・ジャパンは、そんな余剰食品等を活用して、食、支援を必要とする個人や団体に食を届ける。食品を集めることと、組織・団体や個人向けに食品を提供することを活動の柱に、政策提言などもおこなっている。

活動拠点となっている東京・浅草橋では週4回、フードパントリー(個人向けの食品配布)がおこなわれているが、昨年、最初の緊急事態宣言が発令される前後で、その利用者数は大きく変わったという。

「それまでは毎回80~90人でしたが、緊急事態宣言以降、利用者は200人以上に増えています。浅草橋では、スーパーマーケットのように必要な食品を自分で選んでもらう方式を取っていましたが、こうすると密になったり、並んで待つ時間が長くなってしまうので、今はこちらで世帯人数に応じてバランスと適切な量を考えつつ、スタッフがパッケージした食品をお渡ししています」(広報担当)

配布方法を緊急体制にシフトしたほか、子ども食堂の機能と併せて学習支援などもおこなっていた「キッズカフェ」は、密を避けるために現在は休止。また、週に一度、上野公園で300食余りのホットミールを提供しているハーベストキッチン(炊き出し)は、パックした食品の提供へと切り替えている。

「ホットミールの場合、どうしてもその場に人が滞留しがちであるうえ、用意する側も密になりやすいので、今は事前にパックした食品を渡して、受け取った方にはすぐにその場を離れてもらうようにしています。とにかく人と人との距離を確保し、滞留時間をできるだけ短くすること。

利用者だけでなく、スタッフやボランティアのみなさんも密になってはいけないので、より少ない人数で作業できるよう効率化を図る、時間を区切る、日にちを分けて作業するなど、作業体制も見直し、その都度、改善していきました。現在まで一人の感染者も出ていないことから、こうした取り組みは奏功していると思っています」(広報担当)

●適切な在庫管理などが重要になってくる

昨春以降、ひとり親家庭や学生、そして地域として潜在的な需要の大きい沖縄への支援もおこなってきたセカンドハーベスト・ジャパン。フードパントリーのニーズは高止まり状態が続いているが、食品の寄付の申し出についても、何か変化はあるのだろうか。

「学校給食がなくなる、営業自粛を要請されるという状況下で(食品寄付の)申し出はいただいていますが、どんなものも、どのタイミングでも受け入れられるというわけではありません。

たとえば、業務用の食品は、賞味期限が個別に記されていなかったり、量が多すぎるので、個人にはお渡しできなかったりします。また、大容量の食品の場合、一度、開封すると衛生上の問題もあります。

受け入れる量と配布する量のバランスをはからず、出す当てがないまま受け入れれば、二次的な食品ロスが生じてしまう。それを避けるためには計画が必要で、こうした諸々の兼ね合いがフードバンクの難しいところです」(広報担当)

フードパントリーの利用者が増え続ける中、団体では、より多くの食品の寄付を必要としている。だが、安心・安全なかたちでフードバンク活動をおこなうためには、適切な在庫管理やコールドチェーンなど、システムの確立が不可欠であることがわかる。

●行政や民間との「協働」に力を入れていく

2016年にセカンドハーベスト・ジャパンが掲げた「東京2020:10万人プロジェクト」。これは企業、行政、NPOなどが協働してフードパントリーの立ち上げ支援をすることで、2020年末までに1都2県で16万人に生活を支える食べ物を渡すという目標のもと、具体的には東京で73、神奈川で9、埼玉で18のフードパントリー開設を目指していた。

「今日は大丈夫でも、もし明日、突然何かトラブルに巻き込まれたら、警察に相談するように、食の支援が必要になったとき、誰もが駆け込むことができる。そんな食における交番のようなセーフティネットを構築するため、フードパントリーを全国に設置するための一つのマイルストーンとして、1都2県にフードパントリー開設の目標を掲げました」(広報担当)

ちなみに食料支援の先進地ニューヨークには1100、サンフランシスコは250、香港は160カ所のフードパントリーがあるという(2018年現在)。現在、東京と神奈川はそれぞれ50カ所、9カ所、これに対して埼玉県では目標を超える56カ所のフードパントリーが開設されている。

埼玉県が目標数を大きく上回っている理由の一つとして、埼玉県では支援団体と行政の協力体制が取れていることが挙げられる。

「大切なのは行政とNPOを始めとする各団体が協力することで、いずれかのノウハウだけでは多くをなし得ることはできません。たとえば、行政はひとり親世帯がどこにいるか、どの人が、どういう状況で困っているかを把握していますが、われわれNPOや民間は行政のように個人情報を扱うことはできません。

行政からはさまざまな支援が必要な方に通知がいくので、そこに”困ったときにここに行けば、食品を配布しています”と、一言書き添えてもらえば、支援のリーチを広げることも可能です。行政が持っているアセット(資産)を利用して、NPO、行政、民間の3者が協力してシステムを構築する姿勢が必要であると考えています」(広報担当)

●外国人の利用者が増えている

コロナ禍において食料支援のニーズが高まる中、もう一つ、変化として挙げられるのが、外国人の利用者の増加だ。それまで日本人と外国人の利用者の比率は「6:4」だったが、コロナ禍以降、その比率は「4:6」と逆転しているという。

「利用に際してID(身分証明証)は確認させてもらっていますが、利用者への身上調査や聞き取りはおこなっていないので、個別の事情はわかりません。現場からは、飲食店で働いている方が、営業自粛で就労時間が減ったことで収入が少なくなったとか、バイトがなくなっても国に帰ることができず、孤立している留学生がいる等の声が聞こえてきています」(広報担当)

配布食料は寄付に依っているので、毎回異なるものの、お米を中心に麺類、パンなどの主食と副食のバランスを考えてパックされている。これまで一度に配布する食品の量は、8~10キロほどだったが、利用者が増える中、できるだけ多くの人に配布するため、利用者の多かった2020年の年末は、一世帯当たり4キロほどになったこともあるという。

ボランティア活動に熱心なシニア層が現況下、活動を控えるなど、1回目の緊急事態宣言以降はボランティアの参加者も減る傾向もあったそうで、高止まり状態のニーズに応じるため、セカンドハーベスト・ジャパンでは食品の寄付だけでなく、配送を担ってくれるボランティアドライバー等の募集も常時実施している。

セカンドハーベスト・ジャパン

2000年1月、現CEOのマクジルトン・チャールズ氏が、仲間と炊き出しのための食材を集めたことから始まった、日本初のフードバンク。以来20年にわたり、食の不均衡の問題を提示し、フードセイフティネットの構築、フードライフラインの強化を目指して、その活動域を広げている。2002年には3社だった食品提供企業は、2020年時点で累計1800社を超えている。 http://2hj.org/

コロナ禍、外国人のフードバンク利用急増…セカンドハーベスト・ジャパンに聞く