コロナがなければ、今もダラダラとキャバ嬢を続けていたはず。振り返ってみれば、新たな挑戦をして成長する良い機会だったのかもしれません」

 こう話すのは、昨年まで六本木キャバクラに勤めていたぴなこさん。キャバ嬢は、彼女にとって“夢の職業”だった。しかし新型コロナウイルスの感染拡大が、夜の街に暗い影を落とした。そして、長い夢から覚めてしまった――。

コロナ禍に翻弄されたキャバ嬢たち

 2度目となる緊急事態宣言下の六本木キャバクラなどが乱立するエリアの人通りは、依然としてまばらだった。ここ1年の間で、夜の街を取り巻く環境は一変。店は休業や時短営業を余儀なくされ、そこで働く人たちも人生を大きく翻弄された。

そろそろ将来について考えなければいけないと思っていたんです。ただ、今さら昼職や会社勤めも難しいと思って……」

 厳しい現実を突きつけられ、否が応にも今後の生き方について考え直さなければいけなくなったというキャバ嬢も少なくない。彼女たちは、いったいどこへ向かったのだろうか。

 今回は、新型コロナをきっかけに失業した元キャバ嬢、ぴなこさんの奮闘ぶりをお届けしたい。

◆空前のブーム、“キャバ嬢”は夢の職業だった

 約10年ほど前、『小悪魔ageha』などのキャバ嬢雑誌が人気を誇っていた。テレビドキュメンタリー番組でもカリスマキャバ嬢が特集され、女子中高生を対象にした「なりたい職業ランキング」でもキャバ嬢が上位に食い込んだことが大きな話題を呼んだ。ぴなこさんもそんなキャバ嬢ブームに影響され、高校卒業後すぐに夜の世界に足を踏み入れたという。

「最初は歌舞伎町で働き始めて。21歳ぐらいから六本木に移りました。やっぱり、大人の響きがあるじゃないですか」

 六本木といえば、人気嬢が集まるキャバクラ激戦区。彼女は、そのなかでもナンバー入りする(※ランキング上位に入る)こともあるほどだった。いくつかの店を転々としながら経験を積み、じゅうぶんな収入を稼ぐようになっていた。

 しかし、コロナ禍によってすべてを失うことになるとは、このときは知る由もなかったのである。

新型コロナウイルスの猛威、不安が募る…

「昨年3月頃からコロナ感染者が増え始めて。私も出勤を控えていたのですが、お客さんから『大丈夫?』って心配の連絡がたくさん届いて。このまま働き続けることが怖くなってしまったんです

 みるみるうちに世の中では感染者が増え、夜の街に対する風当たりも強くなっていく。彼女は、自分にとって“夢の職業”でもあったキャバ嬢を辞める決意をした。

 とはいえ、夜職以外の経験はなく、就職のあてもなかった。今後どうすればいいのか。

当然、収入は無くなってしまいました。先行きがまったく見えず、正直、持続化給付金も何それって感じだったので」

ライブ配信に挑戦してみるが「ぜんぜん稼げなかった」

 そして、2020年4月7日緊急事態宣言が発出された。コロナをきっかけに失業した多くのキャバ嬢たちが向かった先。そのひとつが、「ライブ配信」である。自宅から日常生活や雑談などを配信し、リスナーからの課金アイテムなどでお金を稼ぐことも可能なのだ。

 4月11日、ぴなこさんは「とにかく行動しなければ」と、唯一知っていたライブ配信アプリPococha(ポコチャ)」を始めてみることにした。ライバー(ライブ配信者)として、新たなスタートを切った形だ。しかし、そう簡単にはいかなかった。

ぜんぜん稼げなかったですね。視聴者ゼロで。用語の意味も理解できなくて、右も左もわからない状態。だれかひとり見に来てくれても『こんにちは!』って挨拶したら、すぐにどこかへ行っちゃうみたいな」

 ライブ配信には多くの水商売関係者が参入していたが、そのほとんどが人知れず姿を消してしまった。だが、ぴなこさんは諦めなかった。“継続すること”の大切さを知っていたからだ。

◆うまくいかなくても“継続すること”の大切さ

キャバクラでは、ナンバーワンになったことがあります。その理由は、単純に“継続すること”ができたから。うまくいかなくても堪える。絶対にナンバーワンを獲るまで辞めないと決めていました。ライバルが多くても、ほとんどの人が途中で諦めてしまったり、他店に移籍してしまったり。だから、続けることができれば、いつか自分もPocochaのランク上位に立てるんじゃないかって」

 ぴなこさんは「昔から男勝りの負けず嫌いだった」。しばらくは貯金を取り崩しながら生活した。

「意外と配信外で費やしていた時間が長くて。すでに活躍しているライバーの配信を研究して、いかにしてリスナーを増やすのか、飽きさせないためにはどうするべきか。リスナー自身がライブ配信していることもあるから、お礼の意味を込めて見に行ったり。それこそ最初は、時給換算すると50円ぐらいだったんじゃないかな(笑)

 試行錯誤を繰り返して半年ほどが経った頃、ようやく光明が見えてきた。キャバ嬢時代に比べれば収入は落ちたが、なんとか人並みに生活できるレベルになったという。今まで培ってきた接客術が活きた部分もある。

「やっぱりコミュ力は大事だなって。たとえば、人を覚えること。キャバクラなら、髪を切ったね、今日のネクタイ素敵だねPocochaなら、相手の容姿は見えないけど、アイコン写真が変わったね、名前に絵文字がついたね、とか。小さな変化に気づけるかどうか

リスナーの顔は見えないけど“気持ち”が介在している

 ライブ配信に手応えを感じつつもキャバクラとは違った苦労もあるという。

「ひとりで複数の相手をしないといけない。途中から参加してくるリスナーもいるけど、同じ話を繰り返すわけにもいかないので。会話のテーマも難しい。私はゴルフが好きなのですが、あまりマニアックすぎても通じない。みんなで楽しめる話題が何なのか常に考えていますね」

 アプリ内では定期的にイベントが開催されており、ライバー同士で競い合う。リスナーたちと協力して作戦を立てるなど、「団体競技のスポーツに近い」と話す。相手の顔が見えない空間ではあるが、次第に人間関係も生まれてくるリスナーとは基本的にコメント上でのやりとりだが、そこには確かに“気持ち”が介在しているんだとか。

「匿名だからこそ、性格の奥の部分が出やすいんです。ガツガツとコメントする人もいれば、人見知りでそれができない人。まわりに気を遣う人だと、コメントもめちゃくちゃ考えてから送るみたいで。

 ライブ配信を始めて約9か月ですが、その間にギフター(※課金アイテムをたくさん使って場を盛り上げてくれるリスナー)が離れてしまって落ち込むこともありました。ほぼ毎日配信しているけど、あたたかいコメントで逆に励まされることも多かったです」

 今年に入ってから再び緊急事態宣言が発出、そして3月7日まで延長されたが、ぴなこさんに焦りの色は見えない。

 じつはインタビュー前、ぴなこさんのライブ配信に潜入していた記者。彼女は、こちらがPococha初心者であることを察し、手描きボードなどを使って丁寧に仕組みを解説してくれた。その姿は、もはやキャバ嬢というよりも、“ライバー”そのものだった。かつての客が見たら驚くかもしれない。

「キャバ嬢だった頃と“まったく別のキャラ”なので恥ずかしいんですけどね。今はライブ配信が楽しいので、今後はインスタグラムと併用してゴルフの魅力を発信できるようなインフルエンサーになりたい」

 コロナが世界を変えた。そして人生の転機を迎え、彼女はいま新しい夢に向かって歩み始めている。<取材・文/藤井厚年、撮影/長谷英史>

【藤井厚年】
Web/雑誌編集者・記者。「men’s egg」編集部を経てフリーランスとして雑誌媒体を中心に活動。その後Webメディア制作会社で修行、現在に至る。主に若者文化、メンズファッション地下アイドル、社会の本音、サブカルチャーエンタメ全般を取材。趣味は海外旅行とカメラサウナTwitter@FujiiAtsutoshi

元キャバ嬢のぴなこさん。コロナ禍をきっかけに人生の岐路に立つ