東京五輪を約半年後に控えた中、東京オリンピックパラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)が、自身の“不適切な発言”により辞任するという前代未聞の騒動が起きて早数週間。後任には、夏季・冬季オリンピック出場7回のメダリストで五輪相を務めてきた橋本聖子氏が就任し、一件落着……したかのようにも思える。一方、一般社会ではどうか。

◆森発言の問題が理解できない人たち

「私は正直、『あれくらいで?』と思っていて。男性の同僚も同じように感じていたはずなんですがね」

 飲食チェーン勤務・岩本義文さん(仮名)のもとに最近届いたのは、本部のコンプライアンス室からの「警告文」だった。

「私が店内で、女性スタッフの外見によってホール係なのか厨房係なのか決定していることについて、直ちに改善するよう指示がありました。本部に相談をした女性スタッフが誰か、はっきりしたことは分かりませんが、私が差別している、と訴えたようなのです」(岩本さん、以下同)

 文言には、早期に改善が見られない場合は「処分」するとも書かれていたから、岩本さんは震え上がった。

◆本人にはまったく差別意識がない

 とはいえ、納得しているのか、自身の非を認めたのかといえば、決してそんなことはない様子。

「客だって、美人に接客された方が嬉しいでしょう? 私のやっていたことは適材適所スタッフを配置することであって、差別ではないんです」

 その思い込みこそが「差別」であり、適材適所云々の考え方も、単なる一方的な押し付けに過ぎないのだが……とはいえ、クビや減給になればたまったもんじゃない。

「そんなくだらないことで損をするのは嫌だから、すいませんと謝って。厨房係とホール係の女性スタッフを入れ替えました。これで文句はないはずでしょう」

 そう。まだ社会には、女性蔑視をしているにもかかわらず、そうだとは全く気が付かない第二・第三の森氏がたくさん存在しているのだ。

ネット掲示板で叩かれて…

 今回の騒動も世界中から叩かれたから、であり、国内問題として押さえ込まれていれば、森氏の辞任はなかったのではないか。そんな見解を示すのは、東京都内の会社に勤務し、広告部や営業部を経て現在は人事部に籍を置く東江紀子さん(仮名・30代)だ。

「うちの会社でも次期役員候補の部長が、部下にセクハラパワハラを行ったとして降格処分になりました。はっきりいって、10年前までは女性社員は総合職採用ではなく職種別採用か契約社員採用しかありませんでした。女性差別がまかり通っている会社で、社長が女は子どもを産めば出て行くから採用しない、と入社式で笑いながら話すほどでした」(東江さん、以下同)

 そんな環境だからか、ネット掲示板には会社の悪口が次々投稿され、社長など経営陣の見識を正すような意見も社内から出始めたが、上層部はこれを却下。

「カネも稼がんのに言うことだけは一人前、そんな社員は今すぐ出ていけと、今度はすごい剣幕で言い放ち、提言をした男性社員を退職に追い込みました。そして、この顛末がネットに載ってしまい、取引先などから問い合わせが入ると、会社は慌てて火消しに走りました」

◆まわりがうるさく言うから仕方なく謝る

 地中で煮えたぎっていたマグマの一部が偶然、岩の割れ目から覗いていたようなもので、騒動によって会社の実情を掘り起こそうという人が出始めた。社長は全社員向けのメールで「謝罪」をしたというのだが……。

「以前いた広告部や営業部の同僚によれば、社長は取引先などに理解してもらうためには『謝罪文をどう書けばいいか』と聞いて回っていたようです。その間もイライラして、絶対に許さないと息巻いていたようで。結局、反省するというよりかは、外部からの圧力があったから仕方なく謝っただけ。森さんにも似たような部分を感じました」

 現実問題として、本質を理解せず、また理解しようともせず、「まわりがうるさく言うから仕方なくやる」という考えの人々が未だ多く存在しているのだ。<取材・文/山口準>

【山口準】
新聞、週刊誌、実話誌、テレビなどで経験を積んだ記者。社会問題ニュースの裏側などをネットメディアに寄稿する。