―[シリーズ・駅]―


 北海道の旭川~稚内を結ぶ日本最北の鉄道路線として知られる宗谷本線。沿線には53か所の駅があるが、3月13日で全体のおよそ2割を占める12駅が廃止となる。鉄道ファンの中には最後に見納めに行きたかった人も多いと思うが、コロナ禍で断念せざるを得なかった人もいるだろう。

 そこで、これまで数多くの宗谷本線乗車歴を持つ道産子ライターの筆者が廃止各駅を訪れたときの様子をレポート。今回の後編では廃止12駅の中でも沿線の北側にある6駅を紹介する。

◆南美深駅

 名寄市との境界線から300メートルほどの場所にある南美深駅(北海道美深町)。北隣で特急停車駅の美深駅、南に3駅離れた同じく今回廃止予定の北星駅の距離は合わせて9キロ。区間内には5つ駅がひしめき、旭川市内を除けば宗谷本線でもっとも駅が密集しているエリアだ。

 駅の周囲は大雪原となっているが、雪のない季節には見渡す限りの田畑が広がる。線路部分は周辺よりも小高くなっているため、撮影スポットとしてはうってつけ。実際、撮り鉄の間では人気らしい。

 ホーム脇の建物には駅名ではなく「南美深待合所」の文字。名前だけ聞くと、田舎にありがちな待合スペース付きのバスの停留所っぽくも見える。待合室にはイスだけでなく、ほかの廃止予定駅にはなかった机が完備。乗降客は1日平均0.4人(※2015~2019年)で完全に無用の長物となっているが、勉強やパソコン作業をしたい人には便利だ。

 筆者も以前訪問した際、ちょうど急ぎの原稿を抱えていたこともあり、次の列車までの時間を利用して仕事をしながら待っていた。地方の無人駅だと待合室にテーブルなどが置いてある駅は非常に少ない。そういう意味でも重宝した個人的にも思い入れのある駅だ。

◆紋穂内駅(もんぽない)

 南美深駅から3駅先にある紋穂内駅は、「小さい野にある川」という意味を持つアイヌ語の地名が由来の駅。開業時期は廃止12駅の中ではダントツに古い1911年で、110年という長い歴史を持つ。

 もともと貨物列車も発着する貨物取扱駅だったが、ホームは国鉄時代に2面から1面に縮小。駅舎もJR民営化の前に取り壊され、その代わりとして用意されたのが貨物車用の車掌車だった。

 以来、待合室として利用されていたが、外壁の塗装はボロボロに剥げてまるでモザイク画のような状態。ホームや駅前の除雪はされていたが、待合室内はほかの駅ほど手入れが行き届いておらず、部屋の隅や窓のサッシなどには虫の死骸も数多く残っていた。

 壁には落書きが複数あり、そこにも「虫が多すぎる」「虫がいっぱいです」など書き込みが。さすがに冬場は大丈夫だったが、確かに夏場は虫がブンブン飛び回っており、待合室も居心地がいいとは決していえなかった。

 駅周辺も草木が生い茂るだけで何もないため、駅施設が撤去されたら自然に還るのも早そうだ。

◆豊清水駅

 紋穂内駅から2駅、12.9キロ離れた場所にある豊清水駅(北海道美深町)は、一番近い民家ですら約900メートル離れている秘境駅

 それにしては三角屋根のロッジ風の大きな建物があるが、待合室として駅の利用客に提供されているのは6畳ほどの小さなスペースだけ。建物の大半は保線管理などを行う作業員が待機する施設となっており、駅舎と呼んでもいいのか正直微妙なところだ。

 そもそも駅の周りに住民がいないので、利用状況は1日0.4人(※2015~2019年)。それもほぼ全員が鉄道ファンだと思われる。

 上下線で1日9本の列車が停車するが、なかでも朝8時台の稚内行き普通列車は特急との待ち合わせのために豊清水駅で約5分間停車。始発が旭川のこの列車は平日でも乗客の大半が鉄道ファン。停車中は列車を降りて記念撮影できることから彼らの間では有名だ。

◆安牛駅(やすうし)

 豊清水駅から11駅、71.8キロ離れている安牛駅(北海道幌延町)も今回廃止となる駅のひとつ。いかにも牧草地帯のような駅名だが、アイヌ語で「網を引くところ」を意味するヤシウシイという言葉が由来で、牛は単に当て字に過ぎない。

 とはいえ、同町が北海道でも酪農が盛んな地域であるのは事実。稲作の北限だった美深町あたりまでは田園地帯が多かったが、そこから北になると牧草地帯や原野など沿線の景色も変わってくる。

 そんな安牛駅も廃車になった貨物用車掌車を待合室として転用。しかし、近年の利用実績を調べると、まさかの1日平均0.0人!(※15~19年)。安牛駅前からは300メートル先の道道256線との交差点まで真っすぐ道が延びており、数十年前は民家だけでなく、商店に雑貨店、服の仕立て屋、運送会社などが通り沿いに並んでいたそうだが、現在は建物すら見かけない。限界集落どころか消滅集落となっており、需要がない以上は廃止も仕方ないのかもしれない。

◆上幌延駅(かみほろのべ)

 安牛駅から2駅4.9キロの地点にある上幌延駅(北海道幌延町)も貨物用車掌車を待合室に使用している無人駅70年代には数十人が暮らし、駅前に旅館や駐在所、理髪店もあったが、現在はわずかに1世帯のみ。ここも集落があった面影すら消えている。

 しかも、待合室には今も襲いかかりそうなヒグマイラストが入った「クマ出没注意!」の貼り紙。筆者が数年前の秋に訪れた際にはエゾジカやキタキツネを駅周辺で目撃しており、人間よりも野生動物の数のほうが明らかに多そうだ。

 ちなみに幌延町には宗谷本線では最多なる8駅があり、3月で廃止となる同駅と安牛駅をはじめ7駅が無人駅鉄道ファンの間では秘境駅の宝庫として知られており、その中には以前紹介した物置を待合室として使っている糠南駅などマニアの間で有名な駅もある。駅同士の間隔が比較的短い区間だったので歩いて巡る鉄道ファンも多かったが、今後はそれも難しくなるかもしれない。

◆徳満駅

 そして、最後に紹介するのは、宗谷本線の廃止駅で最北の北緯45度8分に位置する徳満駅(北海道豊富町)。かつては反対方向からの列車との待ち合わせが可能な2面のホームを有していたが、現在あるのは片側ホームのみ。1926年の開業当時のままだった駅舎も2000年に取り壊されてしまった。

 現在設置されているプレハブの小さな待合室は、駅舎撤去後に設置されたもの。スペースは約3畳分と狭いが、地元の方が作ったと思われる「ようこそ」の文字が入ったハンドメイドリースが壁に飾られており、冬場で室内も寒いはずなのにどこか温かみを感じる。

 なお、駅員が常駐していた国鉄時代には「徳で満たされる」といかにも縁起がよそうな駅名だったことから切符を記念に買い求める者も多かったという。

 一気に12駅が廃止になり、今後は41駅となる宗谷本線。その半数以上は無人駅秘境駅も複数もあるが、実は路線の廃止に関する噂も以前から流れている。駅には「頑張れ宗谷本線」と書かれたポスターも貼られており、この先もずっと存続するかは不透明だ。

 すでに半世紀の間に鉄道網の総距離が4000キロからほぼ半分に減ってしまった北海道。これ以上の駅や路線の廃止は避けてほしいところだが、この流れを抑えるのは難しいのかもしれない。<TEXT/高島昌俊>

【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。世界一周(3周目)から帰国後も仕事やプライベートで国内外を飛び回っている。

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安牛駅周辺