一緒に暮らしていた恋人と別れ、同棲を解消する際には、「家具はどちらのもの?」「新居どうしよう...」などトラブルが起こりがち。中でも厄介なのが、「相手が家から出て行かない」というケースです。

弁護士ドットコムにも、「元恋人が家から出て行ってくれない」という相談が複数寄せられています。

ある男性は、同棲中の彼女と別れる事になったものの、「彼女が家から出て行こうとしません。どうしたら良いでしょうか」と相談を寄せています。話し合いで解決できそうにない状況だといい、困り果てている様子です。貸家の名義は男性になっているそうです。

彼女を家から強制的に出て行かせることはできないのでしょうか。長瀬佑志弁護士の解説をお届けします。

●期間や目的を決めていなければ、いつでも退去を命じられる

ーー元同棲相手との間に内縁関係はなかったか、円満に内縁関係を解消していた場合、相手を家から強制的に出て行かせることはできるのでしょうか。

相手を家から出て行かせるための手段としては、まず「使用貸借契約ないし所有権に基づく建物明渡請求」が考えられます。

「使用賃借契約」とは、家賃などを払わずに、「無償」で建物を貸すこと。主に親子や兄弟、友人などとの間で、お互いの信頼関係にもとづいて結ばれます。

もし、元同棲相手を無償で家に住まわせているとすれば、使用貸借契約が成立していると考えられます。民法ではこの使用貸借契約について、契約をする際、期間も目的も定めなかった場合は、貸し主は借り主に、いつでも貸したものの返還を求められるとされています。

そこで、同棲を始めた際、「●年間だけ一緒に住もう」などと決めなかった場合には、元同棲相手に対し、いつでも建物を返してくれるよう請求できます。出て行かない場合には、「不法占拠」だとして、建物の所有権に基づき、建物の明渡しや建物使用料相当額の損害賠償を請求することも考えられます。

●結婚前提、内縁関係の場合は注意すべきことも…

ーーもし、婚約をしていた、結婚前提だった、あるいは内縁関係の場合、同棲解消の際に注意すべきことはありますか。

もし、婚約をして結婚前提で同棲していたのに、正当な理由もなく同棲解消を切り出した場合、「内縁の不当破棄」として、元同棲相手に慰謝料を支払わなければなりません。

また、内縁関係の女性が妊娠した後に同棲を解消した場合、男性と子の親子関係や養育費が問題になることもあります。男性が養育費の支払いなどに応じない場合、男性に養育費を請求するため、裁判所に認知の訴えを起こす必要があります。

他にも、同棲相手に送った結納金の返還を請求できるかも問題になりがちです。結納金を送っても婚約に至らなかった場合、送られた方は原則として返還しなければなりません。逆に、結納金を送った後に、婚約や内縁関係が成立した場合、結納の目的は達成されたとして、返還義務はなくなります。

話し合いで解決策を探れれば一番よいのですが、話し合いでは進まない場合、裁判所に訴えを起こすなど法的手段も考えなければなりません。それに備えて、内縁が成立していたといえるかどうか、またどのような経緯で同棲解消に至ったのかを確認できる証拠(メールやライン、写真など)を集めておくとよいでしょう。

(弁護士ドットコムライフ)

【取材協力弁護士】
長瀬 佑志(ながせ・ゆうし)弁護士
弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。多数の企業の顧問に就任し、会社法関係、法人設立、労働問題、債権回収等、企業法務案件を担当するほか、交通事故、離婚問題等の個人法務を扱っている。著書『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践している ビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)、『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)ほか
事務所名:弁護士法人長瀬総合法律事務所
事務所URL:https://nagasesogo.com

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